500万ドルの債権を巡ったクライムサスペンス映画、10 CENT PISTOLをレビュー及び 評価、感想、解説、考察。
あらすじ
とある豪邸で警報装置が作動した。付近の警官二名は直ちにこの大きな屋敷を訪問し、家主に室内の安全確認を要求。
これに応じたハリスは彼らを応接間へ招き、友人らを紹介した。
ジェイク、イーストン、ダニール、ハリス。
彼らのIDを照合し、それが問題ないことを確認する警官たち。
だがこの時、屋敷内で恐るべき犯罪が進行中だとは思いもよらなかった。
視点不足

500万ドルの債券を狙った犯行が本作のテーマ。この屋敷に隠されているであろうそれを、彼らのいずれかが命懸けで狙うことになる。
だが単純な一本道の時系列でそれは描かれず、いくつもの遡った視点から現況までを描写する。
そうすることで新たに各々の思惑や立ち位置が次々と判明し、逆転に次ぐ逆転を見ることが出来るだろう。
だがこの手の手法を用いるには、些か視点の数が足りないように感じた。主だった視点はふたつしかなく、それらを交互に回遊することで過去を明るみにしていくのが基本となっているのだ。
個人的にはもっと登場人物ひとりひとりにスポットライトを当て、より濃いキャラクターづくりに挑んで欲しかった。異なる視点を更に取り入れて全ての過去を遡及すれば、よりシナリオに深みが出る。
現時点だと小競り合いの規模でしかなく、裏で渦巻く策謀のぶつかり合いとまでは呼べない。
テンポやや遅し

全体的にややテンポが遅く、イライラさせられる場面も存在する。もっとハイスピードで場面を済ませ、シーンも長回しでなくカットの繋ぎを多用しても良いと感じた。
これはサスペンスのドキドキ感を演出したかった面と、時間遡及によって生じる混乱を防ごうという思惑だろう。
特にライトユーザーにとって、時系列を何度も遡行させるのは物語への理解を損なう恐れがある。
こうした困惑を防ぐ為に、各シーンは間を持ってたっぷりと現在の時間位置を確認させるための猶予を与えている。
だがそうした親切な取り組みが逆に、進行の遅さを演出してしまう面も生み出してしまった。
前項で綴ったように登場人物をもっと掘り下げ、各々のエピソードを一度ずつだけ描くスタイルならば、もっと簡略化とスピードアップを狙えただろう。
意外性に欠けた

幾度となく多くの映像作品を視聴した者にとっては、当作品冒頭である程度のエンディングは予想出来てしまう。
それは古今東西で口伝えられる、「ある格言」通りの結果であり、そこに意外性の欠片もない。
道中の流れで何度かシナリオ上の裏切りは点在するが、結論が見えている場合にそれは通過点であり、それほどの重要性をもたらさない。
多重の裏切りをウリとするならば、この程度の終着点でエンドロールを流すのは物足りなさ過ぎる。真摯に取り組んだ構成とは思い難い。
コメディパート

作品の要所でほんのり笑いを誘うような仕掛けが施されている。バカバカしくてクスリ、とする程度のものなので大笑いとはいかないが、緊張と緩和で起伏を描きたいという狙いが見えた。
だが、およそ全ての緩和部でこのプチコメディを挟むのはまずい。一口に緩和パートといっても、もっとやりようは幾らでもあったはずだ。
この間の抜けた過ちを見ていて感じたのは、ならばいっそ振り切ってしまえばいいのに、であった。
コメディ色を更に前面に押し上げて、シニカルな表現やウィットに満ちたジョークをぶつける。
こうしたやり口でも最終的にきちんと「サスペンスしている」作品はたくさんある。
ジャンルにこだわり過ぎたか、あるいはその逆か。配分の惜しさが目立った。
評価
様々問題点を書いたが、それでも娯楽作品としての評価は悪くないように思う。
一時間半を費やす価値は存在していると感じた。
ただしタイトルや売り込み文句で過度の期待をするのは禁物だ。
以下、考察及びネタバレ注意。
考察:立ち位置別
各々の立場から思惑を探ろう。
ハリス

完全な巻き込まれ役でしかなく、死に損の不遇な男。せっかく屋敷に同席したのに、彼のエピソードを描かないのは勿体ないにもほどがある。
死に際もイーストンの装いを模していたという、とてつもなくオイシイ上に謎な事実。ここを単純な身代わり役としてでなく、更に掘り下げれば重厚なストーリーが期待出来た。
偽警官

本職の警官を模した、イーストンのバックアップ。出所後にイーストンが身を寄せた犯罪者集団の頭目、メルビルの配下の者たちだ。
ジェイク殺害のために屋敷を訪問しており、債権の500万ドルはメルビルらと山分けする算段だろう。
だがよくよく考えればイーストンも同様に始末してしまうのがここでの最適解であり、この辺りの思惑を網羅させなかったのは尺の都合か、ミスかだ。
またメルビルを裏切るそぶりを見せる場面も存在してもいいはずである。
彼らも屋敷に足を踏み入れた重要人物であることに他ならない。ハリス同様、きちんとエピソードを描くべきだった。
ジェイク

過去にパンチーの指示でロシアンマフィアから債権を奪う任務を拒否し、単独でキャデラックに積まれた大量の現金を、車両のすり替えで入手。
だが時を同じく単身ロシアンマフィアのアジトへ踏み込んだ兄の治療費と罰金を兼ねて、すべての現金はパンチーに没収された。
兄の服役中は犯罪から手を洗うことを決意し、ダニールと堅気の生活を満喫する。
出所後の兄によって幸せな生活が破綻することを危惧した彼は、ドニーを密かに協力者とし、兄を殺害するよう依頼。
よってジェイクの目的は債券や現金でなく、兄の殺害且つ、自分らに捜査の手が及ばないことである。
ドニー

豪邸のエレベーター内で待ち伏せし、イーストン殺害を任された。
彼についてはおバカキャラであること以外特になく、もっと掘り下げた背景が必要だったように思う。
仮に彼が黒幕だったならば、驚愕のラストと銘打つことに些かの不満も無い。
イーストン

彼の最優先目標は債券だ。それは服役前から変わっておらず、元々自分のものであるという思考ですらある。
計画を進行する内に、ジェイクの不穏な動きを察する。やがてダニールが獄中に居る間に寝取られていたことや、弟が自分を始末しようと考えていることに気付く。
そこでメルビルにバックアップを依頼。屋敷内で弟を殺害し、債権の分配を約束した。
ダニール

最後に笑う者。
演劇学校で才能の無さを指摘され、その道を絶たれた。
「やるべきことをやる者」を演じることで、最終的な勝者総取りを勝ち取る。
しかしダニールの本質は、峰不二子的な悪女とは異なる。彼女には特筆するほどの計画性も実行力も無く、流されるうちにチャンスを見つけ出し、その引き金を引いただけだ。
ラストで衝撃や意外性をちっとも感じないのは、ここに至るまでの伏線がゼロに近い部分と、ある程度の映画ファンならば絶対に知っている「女はコワい」という共通意識のせいだ。
冒頭の応接間に居合わせた面子を覗くだけでも、一瞬で最後に生き残るのがダニールだと理解出来てしまう。ここを覆す仕掛けを施さないのは、客観的に自分たちの作品を見れていない証だ。
まとめ

パンチーや闇医者など、ジェイク兄弟やダニールよりもよほど面白くて濃いキャラが掘り下げられないのが圧倒的に惜しい。
特にパンチー不在の豪邸を舞台にしたのは考えられないミスだ。このしたたかな金の亡者をシナリオにもっと絡ませれば、より鮮やかで豊かなストーリーが展開出来ただろう。
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