原子力発電所大爆発までの6時間を描いたヒューマン映画、6 HORASをレビュー及び評価、感想、解説。
あらすじ
仕事終わりのリラックスタイムを味わう、カミロとフェーニャ。
すると突如、轟音と悲鳴が響き渡った。
慌てニュース番組を見ると、なんと原子力発電所から放射能漏れの事故が起きたらしい。
暴動、パニック、火事場泥棒。
通りは一瞬で混沌に満ち、鳴りやまぬサイレント悲鳴に支配された。
更に悪いことに、6時間後に原子力発電所は大爆発を起こすことも判明。
死を目前に、生存者たちはどう生きていくのか……。
ネタバレ概略
- 1.原発ある夜、原子力発電所から放射能漏れが発見される。
住民はパニックに陥り、往来を逃げ惑い、暴動が巻き起こる。 - 2.自害カミロとフェーニャはベランダから外を覗いていたところ、アパートの隣室住民が拳銃を咥えて自害する瞬間を見てしまう。
- 3.諦観パニックに巻き込まれることを恐れたふたりは、自室で閉じこもり、最期の瞬間を迎えることに決める。
- 4.別離カミロが眠りについて数時間、フェーニャの姿が消えていた。
彼女は両親の元へ帰ったようで、「クズとは最期を一緒にしたくない」という書置きを残していた。 - 5.来訪電気の消えた街中を、帰宅出来なかった友人のセザールが訪ねて来る。
彼らは現実を逃避するように麻薬を嗜んだ。 - 6.叫びふと隣家から叫び声が上がる。気になったふたりは確認に行くことに。
- 7.銃撃自害した隣人の家を偵察していたふたり。その時セザールは、女性に腕を銃撃される。
暴漢と間違われたための自衛行動だった。 - 8.物資出血が止まらないセザール。自害した隣人の娘であるハビエラは、然るべき処置と医療道具が必要だと言う。
カミロは危険を承知で、市街地にあるスーパーマーケットに調達に向かう。 - 9.暴行カミロが出計らったタイミングを窺い、セザールはハビエラに性的暴行を振るう。
- 10.負傷スーパーマーケットの中には、負傷した店主が居た。カミロはやむなく彼を見捨てる。
その後すぐに機関銃を持った暴徒が押し入り、店主は処刑される。 - 11.絶交自室へ戻ったカミロは、そこで起きたことを知る。彼はセザールを殴りつけると、処置を施すことをやめた。
- 12.強奪発電所から遠ざかることを決めたカミロとハビエラ。しかし車が盗まれてしまう。
そこでカミロは荷造りをしていた住民を銃で脅すと、彼の車を奪い取った。 - 13.逃避車で遠くへ逃げるふたり。発電所の大爆発まで、もう時間は無い。
- 14.最期ビルの屋上へ行きついたふたり。キノコ雲を吹き上げる大爆発が彼らを呑みこんだ。
CGはグッド

良い部分から紹介しよう。
無名映画であるものの、CGの出来映えはかなり良い。
拳銃自殺のシーンや、メインの爆炎が上がる場面。こういった箇所ではわりかし高精細なグラフィックを堪能出来るだろう。
が、ラストの爆風迫る中で抱き合うふたりのシーンでは、
と白けてしまう部分もあったのだが。
とはいえ、映像面で一級作品に引けを取るものでないことは明記しておく。
ツッコミセンスを鍛えるシナリオ
セザールのピンチ編

腕を撃たれたセザール。
彼の身を案じたハビエラによる、ボケの嵐が視聴者を襲う。
- 彼はもうダメ
正しく処置をしているこのケースで死亡を予期するのは、よほど重要な血管の損傷。
しかし作中で、セザールはたいした出血をしていない。
- 出血がひどく止め方がわからない
- 看護師だけど器具が無いと何も出来ない
- 父の部屋(隣)から救急箱を取ってくる
ここにカミロもノリノリで乗っかって来る。
行動の背景
ここでは単にカミロに部屋を空けさせ、セザールによる性的暴行を演出したかったに過ぎない。
撮りたいシーンに合わせて行動の理屈を後付けすると、このようにちぐはぐでおかしな会話が生まれてしまうのだ。
”正しい行動”の末に

一回でいいから……
正義を貫きたい
まずカミロは手始めに、マンションの住人からクルマをかっぱらう。
45分後に大爆発が起こるにも関わらず、今さら呑気に荷造りをしているような輩だ。銃で脅す程度、なんのことはない。
次に街道を爆走し、妙なところでクルマを止める。
どんな天啓に導かれたというのか?
最後に高層ビルを駆け上がり、日の出を見るように原子力発電所を見つめた。
あっ、諦めてる。
カミロ、君の正義とはいったいなんだったんだ?
行動の背景
これも前段と同じく、高所で爆風が迫るシーンを撮りたいが故の、おかしな流れになっている。
最終的にこの場面のために全てのシーンは構成されており、すなわち逆順で物語を組み立てているようなものだ。
しかし脚本の段階でかなり捻じ曲がった土台が埋め込まれたせいで、方々にひずみが生じている。
一方通行の展開

冒頭でラストシーンのワンカットを挿し込むのは、お手軽に簡易伏線のような働きを期待できるために、多くの作品で用いられる。
ただしここでは、物語の大筋から予想を超えた場面であることが求められる。
例えばファイト・クラブやインセプションがこれに類する。
これらは一見して意味不明で繋がりの読めない冒頭であり、その真意は後半部で明らかになる。
さて話を本作に戻すと、ストーリーに起伏が一切生まれないのが特徴。
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この裏切り皆無な、一方通行のシナリオで感情を揺さぶられるはずがない。
民衆の疑心暗鬼や、絶望から希望、また絶望など。
ニュースの誤報を疑う声や、爆発に懐疑的な者が居てもおかしくないはずだ。
作中の登場人物たちはみな、放射線が漏れた、という報道だけで暴動を始める。
ほんの小さな疑いだけで、あっという間に人生を投げ捨てるのだ。
日頃どれだけストレスを浴びようと、ここまで自暴自棄な民衆は生まれないだろう。
カミロたちもまた、早々に死を受け入れる。
だが人は目に見えた死期を前に、最初に絶望や諦観を持たない。
”キューブラー・ロスの死の受容過程”によれば、人は5段階の心理状態を迎えるという。
- 第一段階否認現状を受け入れず、周囲と距離を置く。
- 第二段階憤慨現実が覆らない時、自分の運命を呪う。
- 第三段階取引死を逃れるため、神的存在に取引を持ちかける。
- 第四段階抑鬱どう足掻いても逃れられない死の定めに、鬱状態になる。
- 第五段階受容死の運命を受け入れ、心に平穏が満ちる。
「死を目前にどうすべきか」という題材ならば、最低限この程度の知識は必要だった。
カミロらが行動を起こすのは、爆発の45分前。
本来人がこの状況下に置かれたならば、もっと出来ることを模索するだろう。
彼らはきっと、夏休みの宿題は8/31に「どうしよう」と慌てるタイプに違いない。
評価
思ったより悪くはないものの、良くもない。
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