ハワイでのハネムーンを楽しむ夫妻を襲う恐怖を描いたスリラー映画、A Perfect Getawayをレビュー及び 評価、感想、解説、考察。
あらすじ
新婚旅行でハワイを訪れたクリフとシドニー。レンタカーで島を満喫中だ。
道すがらヒッチハイクをしている男女を拾うも、意見の相違で乗り合わせにはならなかった。
やや不安を感じつつも、夫妻はトレッキングを楽しむ。道中で出会ったニックと意気投合した彼らは共に、小さな滝の美しいポイントへ向かうことに。
だが先日来、ハワイには殺人鬼のカップルが潜んでいるという報道がある。
やがてクリフとシドニーは、先のヒッチハイクを断ったカップルがサイコキラーであるように思い始め……。
ネタバレ概略
- 1.ビデオ結婚したふたりを祝うビデオ。友人や兄弟の集う幸せな時間の中で、クリフとシドニーは祝福を受ける。
- 2.ハネムーンハワイを訪れたクリフたち。カウアイ島のビーチへ向かうため、雑貨店で許可証を買うことに。
- 3.ヒッチハイク途中の道でヒッチハイクをするカップル。
普段なら乗せないクリフだが、旅先の浮かれで車を止めたことをシドニーに揶揄される。
ふたりは、クレオとケイルという。 - 4.風体なんとなくガラの悪さを感じたクリフは車を止めたことを後悔し、やんわりと降車するように願った。
ケイルはそれを察してクレオを無理矢理に降ろし、彼らは路上に残ることとなった。 - 5.トレイルビーチまでは未舗装路が続くため、ある程度のトレッキングを要する。
夫妻はニックという気の良い男と出会い、道中を共にすることに。 - 6.報道トレイル中に出会った女性三人組は、本土から入ったニュースに驚いていた。
話を聞いてみるとどうやら、ホノルルでカップルが殺される事件が起きていたらしい。 - 7.滝壺ニックと同行し続けると、彼は恋人のジーナが待つ滝壺のスポットに夫妻を連れて行った。
しかしそこに、先ほどヒッチハイクを断ったクレオ&ケイルも居たことが判明。
殺人事件の一報があっただけに、クリフは彼らを警戒する。 - 8.紛失ケイルは大きな行動には至らなかった。
窮地こそ脱したものの、そこでクリフは許可証を紛失していることに気付いた。
監視員に見つかるとマズいことになる。 - 9.キャンプ見晴らしの良い箇所にテントを張った4人。そこでニックは、クリフを羊狩りに誘う。
だがそれは口実で、実際にはこちらを見張る何者かの視線を感じたらしい。 - 10.疑念ニックとはぐれたクリフ。その時、彼の言っていた何者かと遭遇することに。
慌てて自衛しようと試みたところ、それは雑貨店の息子で、店に忘れた許可証をわざわざ届けに来てくれたのだった。 - 11.一夜いつの間にやら本当に山羊を狩っていたニックと、それを手際良くさばいていくジーナ。
ひとまずその日は、崖際のキャンプ地で一夜を過ごすこととなった。 - 12.逮捕翌日早朝。ヘリが飛び回る。
どうやら何者かを捜索しているらしく、その降り立つ先にはなんと、クレオ&ケイルの姿が。
彼らは当局に連行され、これにて殺人犯騒ぎも一件落着かに思えた。 - 13.目的地目的のビーチに到着した4人。思い思いの時を過ごす。
クリフは先導の礼として、カヤックのレンタルをニックにプレゼントした。ふたりはオールを漕ぎ、観光スポットである岬の先の洞窟に向かった。 - 14.真相ジーナは何の気なしにクリフたちのビデオを再生すると、そこに驚愕の事実が潜んでいた。
なんと結婚式を執り行っているのは彼らではなく、よく似せた別人だったのだ。
ジーナは殺人犯カップルの正体に気付き、慌ててニックに危険を知らせようとする。 - 15.被弾カヤックで目的地にたどり着いたクリフは、そこでニックの人生を奪うことを宣言する。
銃で撃たれたニックは海面に沈んでいった。 - 16.追撃洞窟を頭上から見下ろせる場所まで走ったジーナだが、一歩及ばずニックは撃たれたあとだった。
またジーナに事態が発覚したことを知ったシドニーは、彼女を殺そうと追いついてきた。
上手く躱してシドニーを崖下の海上に落とすことは出来たが、ジーナは脚をナイフで刺され、負傷する。 - 17.通報ジーナは警察へ事態が伝わるよう連絡を入れ、追って来るクリフとシドニーから逃げ惑う。
途中、貸カヤックの業者の男たちと出会うも、クリフは全員を射殺した。 - 18.不死ジーナの危機を、死の淵から這い上がったニックが救う。
男たちは揉みあいになるが、そこでカウアイ警察が狙撃中を構えながら警告を発した。 - 19.選択ヘリ内にはシドニーが被害者を装って同乗しており、警官は彼女にどちらの男が殺人鬼かを問う。
逡巡ののち、シドニーはクリフこそ殺人鬼だと言い、彼は銃弾に倒れた。 - 20.指輪救助ヘリの中で、ニックは言い出せなかった結婚の申し込みをジーナへ指輪で示してみせた。
緩・緩・緩・急

ハワイのまったり大自然。イメージだとワイキキ市内のビーチだが、実際には山岳の多い州でもある。火山活動などはよくニュースになる。
トレッキングを楽しむ者も多く、場所によっては超上級者用のコースなども存在している。
作中で大半の部分はこうした自然との触れ合いが描かれており、また描かれ過ぎている、とも言える。
概ね自然満喫の癒しパートが7割、残り3割で事件を演出している。これに関してはちょっと、配分をミスったと思うほかない。
脚本家としての映画に関するメタ話なども相まって、ナショジオかディスカバリーチャンネルで自然探検モノを見ているような感覚だ。もう少しも、殺人鬼のことなど気にならない。
このゆる~いペースはクライマックスシーンまで継続され、道中ではミステリーパートを発展させたと思いきや、すぐに癒しのゆるゆるパートが挟まれる。
なんかもう、いっそ自然100%の方が良かったまである。
スッ、と退場

冒頭で不穏な空気感を醸し出しながらも、案外あっけなく退場させられたクレオとケイル。
完全に巻き添えだった彼らだが、こうなると冒頭の絡み方が不自然でもある。
かませ犬ポジションであったとはいえ、彼らなりの思惑とサイドストーリーを展開してほしかったのが本音だ。
前述の自然風景などは出来るだけ撤廃して、彼ら三組目のカップルを用いることがよりドラマティックな展開への引き金であったのは明白。
割としつこいまでにニックとジーナを疑わせようとするので、逆に裏があると読むのはそこそこ容易い。そこへ来てクレオ&ケイルが早期退場となれば、残る選択肢は必然的に絞られてしまう。
タトゥーと目つきの悪さで損をしてきた男、クレオ。彼が無罪を勝ち取れることを願ってやまない。
決着までが長い

真相究明から決着まで、およそ30分間を要する。これは仮にアクション映画だとしても長すぎる。サスペンス作品ならばなおさらだ。
かなり遅々として進まぬ展開に、正直途中でダレる。
またある程度大筋が見えてしまっているのも悪い方向に働いた。
こうした遅延に際して、やはりハワイの雄大な自然が目に入る。
ひょっとしたら観光PRが主軸であり、細々したストーリーは添え物だったのかもしれない。
あらゆる場面で自然に救われ、また救われない物語だった。
ミラ・ジョヴォヴィッチってスゴい

だいたい強くておっかない姉さん役が印象に強い彼女。
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作中では色々な面を我々に見せる。
こうした役柄の変化によって、俳優の中には自分本来の姿を見失う者も居るらしい。
この手の七変化を年中やっていたら、それも無理はないだろう。
スティーヴ・ザーンも魅せた
夫クリフを演じたスティーヴ・ザーンも素晴らしかった。
序盤のgeek感やタフでない男の姿を見せながら、終盤での豹変は非常にシームレスかつ、ストイックな妙技。表情が同じなのに、顔つきが違う。
やっぱ俳優ってスゴい。
評価
骨細の土台にしては、各所の努力で体面的には飾られた印象がある。
以下、考察及びネタバレ注意。
伏線拾い集め
各種伏線を考察しよう。
アゴのキズ

キズに関するエピソードはふたつ語られた。
- 航空保安官をやるハメになった時の傷だ
- 9歳の時 兄貴のスケボーが当たった
これらは以前に演じた男の時に用意したエピソードである可能性が高い。
或いは前者が事実で、後者が現在の「クリフ役」のために用意された場合もある。
どちらにせよ航空保安官のエピソードは実体験に基づいており、すなわち過去に殺害した男の職業でもある。
兄弟

クリフには一人しか兄が居る様子はなく、これらは以前に殺害した人物の兄弟全てを指している。
多くの役柄を演じる内に、偽りの兄弟姉妹が増えた過去を窺わせる。
金

このように訊ねるが、実際に強盗を働いていた。
殺害した人物の持ち物から人柄まで、全てを奪うことにカタルシスを感じていたと思われる。
皮肉なことに本当のクリフはライターであり、偽物のクリフ=ロッキーはアクターであったということになる。
監視カメラ

手配中の人相画像。言うまでもなく、自分たちの姿が映っていることをニックたちに悟られないか、と不安に陥ったシーンだ。
またこの段階でひと気などを気にするのは、明らかにこの後の殺害を目論んでのことだ。
滝壺でニックにパートナーが居ることを確認した段階で、次のターゲットとして選択していたことが窺える。
ただしここで殺害に意欲的なのはシドニーの方であり、クリフには撤退の意思が見える。
これらは、殺害後にニックとして演じられないことを憂慮した発言になる。
サソリ酒

サソリ酒を手に、クリフの正体を悟ったニック。
少し分かり辛いが、ここでの要点としては、
この図式になる。
「生きたまま」のニックから経験や人柄、クセなどを吸収していたクリフ。
殺したあとは、彼にそのまま「入る」ことを目的としていた。
現実的にはサソリ酒の中身のサソリは死んでいるが、この比喩の中ではサソリ=クリフはニック=酒を支配することとなる。
おかしなシーン

唯一明らかにおかしいのは上記シーン。
ニックらに聞かれても困るし、聞かれないなら話す意味の無い内容になっている。
殺した夫婦に成りきっていた、という設定なのだろうが、これは視聴者へのミスリードとしては悪手であった。
終わりに
道中の誘導具合からいかにも不要な誘導があったと思いきや、案外齟齬のある描写は無かった。
割と伏線としても自然な配置だった。
が、クレオ&ケイル逮捕時に、クリフたちが自身に懸けられた殺人犯であるという疑念を真っ向から否定したことで、逆に整合性が疑わしい仕様になってしまった。
否定でなく、そこに触れない展開であればもっと自然に受け入れられる結末になっただろう。
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