2019年11月1日に動画配信サービス開始予定で話題となっているのが、Apple TV+だ。

更に既存のNetflix、Hulu、Amazonプライムビデオ、U-Nextに加え、ディズニーからも11月12日には新興VODサービスとしてDisney+がサービスを始めると発表があった。
今後大荒れ模様の動画配信サービス戦争だが、既にレッドオーシャンと化した大海にアップルが参入することで、どのような未来が待っているだろうか?
Apple TV+の特徴

まずはApple TV+の特徴を挙げてみよう。
オリジナルコンテンツで攻勢をかける
独自配信と言えばNetflixの十八番だ。値段や配信速度で勝負していた各社に、同社はオリジナルコンテンツという強みで勝負を仕掛けた。
結果的にこれは功を奏し、競合の中で差別化を図れたと言えるだろう。
そしてApple TV+もまた、他社で扱わないコンテンツを配信することでユーザーを取り込む作戦に出た。
SEE
ダークファンタジーの期待作品。どこか「ゲーム・オブ・スローンズ」や「ロード・オブ・ザ・リング」のような気配を醸し出している。
視力がテーマのようで、登場人物がみな白内障のような症状を見せている。
Snoopy in Space
VODでは、視聴者層にキッズを含めることは命題だ。
多くの両親たちは長時間のアニメーションによって毎日を助けられており、こうした低年齢向け作品を定額でストリーミング可能なサービスは世の子育て世代に大きく支持される。
スヌーピーならばその役割を十二分に果たせるだろう。
またこれ以外にも、HELPSTERSというキッズ番組が予定済み。
Dickinson
女性詩人家の物語。奔放なストーリーと淡い恋の予感を見せる作品のようだ。
女性ユーザーへの訴求性も考慮していると思われる。
予告されている作品数はそこそこだが……
この他にもサービス開始直後から多数の作品がリリースを控えており、当座はドラマ難民になることはなさそうである。
しかしこれらが実際にキラーコンテンツたるかは完全な未知数であり、仮に人気を博す作品が最低でも二作程度は生まれなければ、サブスクリプションの価値があるとユーザーが判断することは難しいだろう。
最も期待感の見えるのが「SEE」であり、これがコケた時のその後は想像したくないものだ。
またライセンス購入による配信は行わないようで、他社との作品被りがほぼ無くなるようだ。
裏を返せば、人気映画を求める層には一切の訴求力が無いとも言える。
格安の月額で攻める
気になる値段はどうか。
なんと月額にして5ドルと、VOD業界では最安値付近での開始となる。
他の動画配信サービスと比べると、
Netflix
800円 1200円 1800円
完全見放題
U-Next
1990円
一部追加購入
Amazonプライムビデオ
Y/3990円(M/500円)
一部追加購入
Hulu
933円
完全見放題
Disney+
740円
恐らく完全見放題
Apple TV+
600円
完全見放題
現在は住み分けが為され、ある程度覇権争いも落ち着いた小康状態と思われている。
しかし11月の同時期に参入するディズニーとアップルによって、この均衡は大きく打ち破られる予感をはらませる。
1年間無料で攻める

新しいiPhone、iPad、iPod touch、Mac、Apple TVを対象に、購入者には無料パックをサービスする予定になっている。
親和性の高い自社製品を売り出すことでシナジーを狙った姿勢だろう。
大抵のVODでは1か月無料体験がウリだが、その12倍とは恐れ入ったものだ。
また通常契約の場合は、7日間の無料体験となる。こちらはやや短めなので、一抹の不安もある。
使用者のニーズを正確に読み取る内部対策が為されていない場合、ユーザーが無料期間中に上質な体験を得られない可能性があるのだ。
逆を返せば、その点は自信アリ、ということだろうか。
競合他社の動きは?

各VOD社から特段のアナウンスは今のところ無い。ひとまずは、1か月の様子見が妥当だろう。
しかし前段の表や特性を鑑みるに、やや雲行きの怪しいサービスも推測出来るだろう。
Amazonは?
Amazonに関して言えば、それほどユーザー減少は考え辛い。
元々宅配サービスに付随した、いわばオマケの要素の強いプライムビデオ。KindleやMusicなど、薄く広い間口でもって獲得しているユーザーが大半と思われる。
反面、コアユーザーが少ないという問題は相変わらずだ。魅力的なオリジナル配信をほぼ持たないAmazonビデオでは、右肩上がりにカスタマーを獲得していくのは困難だろう。
Netflixは?
やや危険信号でないだろうか。
4K画質では月間1800円を要求するNetflixにとって、同じ画質で半額以下のサービスを打ち出すディズニーとアップルは脅威だろう。
選ぶ価値のないSDプランがそれを拍車している。早々にSDとHDを統合して、間程度の値段設定をしなければまずそうに思える。
頼みの綱は、独自配信。他社を圧倒するキラーコンテンツを送り出し続けねば、いずれ奔流に呑み込まれるだろう。
Huluは?
値段設定や独自コンテンツで劣ることとなり、尚且つHuluの弱さは映画方面にある。
元々はドラマを最速に近い速さで配信し、付け加えて追加料金の発生しない良心的プランに定評のあるVODだ。そのぶん映画の配信は遅めで、物量も少なめ。
一応Huluオリジナル作品もあるものの、日本産に偏っているのがかなり厳しい。
Disney+とApple TV+の穴をつくとすれば、やはり人気映画やCATVでアツいドラマの素早い配信だろう。しかしその点で片手落ちとなれば、これはかなり危険信号に思える。
残るはFOXチャンネルがいかに剛腕を振るうかで、Huluの未来が決まるのではないだろうか。
U-Nextは?
U-Nextの最大の武器は、圧倒的な物量と最速配信だ。
他社の約2倍程度のコンテンツを抱える同社は、人気作品を素早く視聴したいというコアユーザーからの支持が多い。ジャンルや生産国も多岐に渡り、カバーする範囲も手広い。
しかし最大のネックは、値段だ。
月額で新興VOD二社の三倍程度を要求し、尚且つ最新作では別途料金を要する。
コスパを天秤にかけられると、かなり厳しい戦いになりそうだ。
ちなみに、巷でやたらU-Nextを推した記事が多いのは、アフィリエイトのキックバックの高さに起因する。
真紅に染まるレッドオーシャンの未来は

ここからは完全な余談。
値段で他社を押す手法の行く先に、何が待っているのか?
飽和状態を迎える
世界中でVOD市場(サブスクリプション業界全体もだが)は現在も新規ユーザーを獲得し続けているが、いずれそれも頭打ちが到来する。
なぜなら人間の使い得る時間はみな等しく24時間であり、その中をやりくりしてドラマや映画を観ることになるからだ。
どんなに大量のVODと契約を結ぼうが、同時に観れるのは一作品に過ぎない。人間の限界を超えるような視聴方法が確立されない限りは、これは必定だ。
やがて一定数のユーザーが新規参入したところで業界全体のカスタマー数は平行線に近いものとなり、分母の変わらない数取り合戦が行われることになる。
これは現在の、自動車業界によく似ている。
価格競争が始まる
日本でもかつて、常軌を逸したような価格競争が行われた。その結末は周知だろう。
分母数の変動しない顧客の奪い合いは、いずれ低価格をウリにするという方向へシフトする。
前述したように、飽和状態でカスタマー数は増えようがない。
民衆の胃袋の総容量が”低価格”だからといって広がったりはしないように、VODを観る目も四つや六つに増えることはないのだ。
失われていくクオリティ
コスト減のしわ寄せはVOD社内へ響くだろう。
圧倒的な削減を余儀なくされ、誰しもが疲労感を漂わせて仕事をするようになる。
それは配給会社や制作チームにも及ぶかもしれない。
そうなれば、高品質なユーザー体験を得ることは難しくなっていくに違いない。
空座を狙う新興勢力
仮にどこかの媒体がギブアップしたとする。
それで他社が、「ああ、少しラクになった」と感じる前に、素早く空いたイスを掴みに新参が現れるだろう。
そして繰り返す、我慢比べ大会。
まとめ
Apple TV+の特徴は以上のように。
11月からの各社動向は、VODユーザーならば要チェックだ。
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