住宅街で起きる、奇怪かつ理解不能な現象を描いたホラー映画、ATERRADOSをレビュー及び評価、感想、解説、考察。
あらすじ
ブエノスアイレスの住宅地で、不気味な事件が頻発。
ポルターガイストに怯える男、墓穴から自ら這い出る男児の遺体、バスルームで変死した女。
一連を繋がりのある事件と見た超常現象調査チームの者らは、周囲数棟のアパートメントを同時調査することにした。
果たして住宅街に巣食う何者かの気配の真相は。
ネタバレ概略
- 1.排水溝ある日ホアンが仕事から帰宅すると、妻のクララの様子がおかしい。
彼女は台所の排水溝から声が聞こえると言い、その声は「お前を殺す」と言っているらしい。 - 2.惨死深夜物音で目覚めるホアン。隣家の住人かと思いきや、それが自宅内で鳴り響いていることに気付く。
風呂場を覗くとそこには、見えない糸で吊られたかのように、クララが身体を浴室の壁に打ち付けられていた。 - 3.隣人ホアンの家の隣人、カラバハル。彼は日頃から怪奇現象に悩まされており、何度も専門家に対処を依頼していた。
しかしそれはまともに取り合ってもらえなかった。 - 4.怪奇就寝中にベッドは動き、クローゼットには化け物が潜む。
依頼のためにビデオを撮影したカラバハルだったが、すでに精神は限界に達していた。 - 5.少年ある日近所の子供がウォルターの家の蛇口から水を飲んだ。
彼はカラバハルの目の前で、バンに撥ねられて即死する。 - 6.通報悲しい事故に対して葬儀は速やかに行われた。
だが数日後、少年の家で異常なことが起きたとの一報がフネス刑事に入る。 - 7.蘇生なんと食卓に死亡した少年の遺体が座っており、今しがたまで食事を楽しんでいた様子が見えるのだ。彼は自力で墓穴から這い出て、自分の家に帰ってきたという。
少年の母も巡査たちも、彼が動いて食事をするのを見たと口を揃える。 - 8.符合心霊専門家のアルブレック博士は、カラバハルから送られたビデオテープに興味を持ち街を訪れていた。
そこで偶然少年の一件を目にした彼女は、付近で起きた全てに関連性があると見出した。 - 9.協力妻の殺人容疑で拘留されていたホアン。彼の元を訪れた心霊究明チームは、自宅の仮滞在を書面で約束させる。
見返りに、クララを殺した犯人をいぶり出すとして。 - 10.調査開始近隣住宅へ散らばり、四名のチームが調査を開始する。
- 11.異次元アルブレック博士は長年の研究により、異次元から人間界へアクセスをし、人間を食糧とする怪物の存在を突き止めていた。
そして本件はやはり、その怪物による仕業と思われる。 - 12.怪死調査チームはひとりずつ死亡していく。
最期に残ったフネス刑事は辛くも生き延びるが、その後行方不明になった。 - 13.不可視取調室のホアンは、フネス刑事らの求めた書類にサインをしたかと聞かれる。
ホアンは取調室にサインを求めたローゼトックが居ると言うが、検事たちにはそれが見えなかった。
細かいことは要らない
最近のホラー映画は、面倒臭くなった。
どれもこれも似たり寄ったりで、およそこうしたテンプレを用いない作品はほぼ見られなくなった。
これだけてんこ盛りを2時間枠に詰め込むのだから、場合によってはいずれかが疎かになる場合もある。
肝心のホラー部分だけ手抜きでラストシーンに感情の押し売りを吹っ掛けてくる映画も多く、もういっそ家族ドラマをやった方がよろしいのでは、と感じることもしばしばだ。
右へ倣えでホラー成分が全体の一割を切るような作品を見せられるたびに、「またこれか」とげんなりする日々。
古式ゆかしい、誰もが震えたあの頃のホラー映画は、こんなに面倒臭い手続きを踏んでいなかった。

テリファイドは違う。
現象にフォーカスするという基本を見誤らず、常に与える恐怖のことだけを念頭に置いている。余計で余分な伏線や人間ドラマを丁寧に布石している別作品を、「まだそんなことしてたんだ?」と鼻歌を鳴らしながら抜き去っていく。
本作には爽快感も謎解き要素も、感涙せしめるような絆愛も見当たらない。
ひたすら不気味で不愉快な住宅地を、頼りなげな中年たちが怯えながら逃げ惑い、泣き叫び、時に死んでいく。
不純物を一切排した、原点に立ち返るホラー。
それこそが本作の最大の魅力だ。
恐怖演出

かなり系統的には古いJPホラーに近く、ドッキリSEで心臓を縮めるようなシーンはほとんど見られない。
概ねこのような違いだ。
作中で最も不気味さを感じたのが、上記画像の「墓穴から這い出た少年」の場面。
自動車事故で即死したはずが、彼は数日を経て自らの墓穴を這い出し、自宅へ戻る。
大半ありがちな手法でこれを描くと、
こうなるはずだ。
しかしそんな場面を描いたところで、せいぜい行儀の良いゾンビ程度の恐怖しか得ることは出来ないだろう。
その点、本作は尖っている。
検死官のハノが警察に助力を頼まれてアリシア=母親の家を訪ねると、もうそこに遺体が鎮座している。警官らはそわそわと居心地悪げで、今にも家を出たそうに見える。
どうも話を聞くに、誰もがその明らかに腐敗した遺体が動くのを目撃し、あまつさえ、ついさっきまで朝飯を食っていたというのだ。
字面に起こすと笑いの噴き出そうな説明文だが、実際に目撃するのとでは雲泥の差だ。
ディテールはそこまで精細でないものの、腐敗した死体の薄気味悪さは充分に醸し出ている。
この他にもベッドの下で蠢く裸足の足や、クローゼットに忍び込んだ長躯の男など、背筋をぞわりと撫で回す感覚で攻めてくる。
惜しむらくは後半戦でやや失速気味であったこと。前半の勢いを同等以上のペースで保てれば、最高作品の称賛を受けることも考えられなくはない。
博士の介入

前段では無用な物を一切排した、としたが、唯一の不純物と言えるのがこの自称超常現象研究家たちの存在かもしれない。
彼らの介入から一気に物語のペースが落ち始め、ややこしい器具や言葉を用いて、前半でこれまで築いていた雰囲気を蔑ろにしている感が否めない。
作品としては呪怨のようなオムニバス形式が最も好ましかったように思う。住宅ひと棟を1エピソードとし、連鎖する怪異を淡々と映すだけでも充分な仕様になっただろう。
結局はしゃしゃり出た彼らも、何の成果も得られずに頓死するのみ。ある程度のヒントを撒く役割は果たしたが、それ以上に作品をかき乱した功罪の方が遥かに重いだろう。
分からない=怖い

とにかく何が何だかわからない。ゴーストなのかウィッチの呪いか、果ては宇宙人の襲来なのか。
冒頭から終盤まで真相を紐解くに大したヒントは提示されず、ひたすら視聴者は”理解出来ないモノ=恐怖”と対峙を余儀なくされる。
人間は元来、理解出来ないものを恐ろしいと感じるように出来ている。いや人間だけでなく、あらゆる生物がそうだろう。
恐ろしさに突き動かされ、人は必死に書を読み漁り、顕微鏡を覗き、暗黒空間を夢想する。
現実の実体験怪談などでも、しばしばこの「理解不能で、整合性皆無の話」は登場する。
こうした体験談は不思議な魅力を持ち、同時に筋道の通った話とは異なる恐怖感を与える。
本作にはそれと似た感覚を味わう。
しかし一応、不明瞭な怪物騒ぎにもある程度の解釈は可能。後段で考察しよう。
評価
全てのホラーファンにオススメしたい。

以下、考察及びネタバレ注意。
怪物の正体を考察

結局のところ、怪物の正体はなんなのだろう。
死体を操る
男児の遺体が蠢くところからも、怪物はどうやら人間を殺し、その死体を操ることを目的としているらしい。
これは単純な生存本能に則った行動と見るのが正しそうだ。
だがアメリカで起きた同様の事件を含めると、全ての人間が操られるわけではないようだ。
いくらかの死体を残す場合もあり、推測するとすれば、化け物と人間との親和性が関係しているように思われる。
微生物
アルブレック博士の提唱した理論が正しければ、
実際には大きな肉体は持たず、作中で現れる全裸の男らは、全てこのバクテリアによる過去の被害者だと思われる。
別次元の存在
アルブレック博士の提唱した理論が正しければ、
ラストシーンでローゼントックの姿が見えないのは、異なる次元に肉体が存在しているからだと思われる。
ここでややこしいのが、怪物バクテリアが次元を跨いで存在出来る、という一面である。
奴らは人類の次元と別の次元の両方に同軸上でアクセスしている状態だが、そのままでは人間へ直接的なコンタクトは出来ない。
作中のポルターガイスト現象はこのために起きており、通常の人間では知覚出来ない怪物が、無機物を揺らしたり叩いたりしているのだ。
アクセスキー
怪物が直接人間にコンタクトを取るには、これまたアルブレック博士の言によれば、
ややこしい言い回しをしているが、要は人間が水もしくは血というキーに触れることで、相互に存在を認識するためのキーを手に入れる、ということだろう。
思い返すと、怪物の被害者はいずれもどちらかに触れている。
- 冒頭の妻クララ:水道の水で洗い物をした
- 冒頭の犬の話:近所の犬と思われるため、近場の水源を飲んだ
- 事故死した少年:カラバハル家の水を飲む
- ローゼントック:ナイフで手を負傷、自らの血に触れる
- ハノ:水見式のグラスに水を注いでいた
- アルブレック:ハノと同じくグラスに水を注いだ
- フネス:ローゼントックの血に触れた
いずれも血、もしくは水に触れている。
アルブレック博士は、現象の周辺に液体を持ち込むことが及ぼす影響についてはある程度認識していたが、それが為す危険性までは正しく認知していなかった。
また媒介前の人間にも危害を加えようとしているのは、ローゼントックの手をナイフが貫く場面で分かる。知恵を絞ってキーを与えようとすることから、ある程度の知能を有することも同じく。
またカラバハルに関してのみ、特殊なケースである。これは次項で解説しよう。
ゲートの存在
仮に水などの液体が全ての人間にキーを与えるとすると、世界中の人間が滅んでいてもおかしくはない。
しかし現象が直近で確認されたのは1998年アメリカであり、それ以降はしばし見られていないと思われる。
つまり、キーを得るにはそれに伴うゲートの存在が近場に必要だと考えられる。
怪物出現の有効範囲の設定と、その期限が設けられない場合、本作のような顛末にはならないのだ。
では最もゲートとして相応しく思えるのはどこか?
これ以外は考え難い。
なんらかの形で次元を繋ぐゲートが、世界中のどこかしらで偶発的に生まれる。或いは怪物バクテリアの故意で繋ぐ能力があったにせよ、ともかく今回はカラバハルのベッド下がたまたま選ばれたのだ。
ローゼントックとフネスがベッド下を覗き、大量の怪物が蠢く姿でこれは示唆される。
カラバハルは液体に触れるという以前に、怪物出現の依代のような役割を果たした。これが特殊である所以だ。
怪物の戦略
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以上が怪物バクテリアの生存戦略になる。
キー付与後の操作する肉体がゲートをある程度離れられるのは、事故死した少年とラストシーンのローゼントックで示される。
終わりに
作中で「殺人バクテリア」をあからさまに明言しなかったのは正解だ。
正体が掴めてしまうと、途端にチープになるのは珍しくない。

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