南アフリカはヨハネスブルクで起きるロボット騒動を描いたSF映画、CHAPPiEをレビュー及び 評価、感想、解説。
あらすじ
ヨハネスブルクの治安維持に導入されたロボット部隊、スカウト。
目論見は成功し、犯罪率は低下。警察や市民は頼りになるアンドロイドの登場を喜んだ。
生みの親であるディオンはスカウト以外にも、個人的にAIの制作を行っていた。
やがて彼は生み出した新世代AIを、廃棄予定の22号スカウトにインストール。無断にて、危険とされる自己育成型ロボットを作り出してしまった。
またひょんなことからそのスカウトはギャング一味の手に渡り、チャッピーという名前を付けられた上に親権まで奪われるハメに。
果たしてチャッピーは、悪の道に染まらずにヨハネスブルクを生き抜けるのだろうか。
一方同社内。スカウトとは全く別の、人間操作タイプロボット、ムース。
CEOには年々開発費を削られ、廃棄も目前となった不遇の大型ロボだ。
制作者のムーアはディオンを妬み、ムースを世に出すため、展開するスカウトを停止させようと目論んでいた……。
ネタバレ概略
- 1.スカウトの活躍南アフリカはテトラバール社によるロボット=スカウトは警察に好評。追加注文も入り、更には他国からの買い付けまでもが行われている主力商品だ。
スカウト22号は犯罪鎮圧のため、その日出動したのだった。 - 2.弁償バンで麻薬を輸送中に襲撃を受けたニンジャ一行。元締めのヒッポは汚損した麻薬の賠償として、2000万ランドを要求。払えなければ、皆殺しだ。
ところがそこへ警察とスカウト軍団が現れ、一同を一掃。運よく逃げ出したニンジャたちだが、同じくヒッポも悪運で生き延びていた。
そのさなか、スカウト22号はRPG-7の直撃で戦闘不能状態に陥った。 - 3.完成スカウト開発者のディオンは、独自にAIを開発していた。彼は完成品をテスト出来るようCEOに頼んだが、独自性を持つアンドロイドを危険視するテトラバール社はこれを拒否。
そこでディオンは、廃棄予定の22号に自分のAIをインストールすることを思い付く。 - 4.拉致切羽詰まったニンジャたちは、現金輸送車を襲うためにスカウトを逆に利用することを思い付く。そこで会社から飛び出してきたディオンを拉致し、都合良く荷台に積まれていたスカウト22号を仲間に加えるように強要した。
- 5.チャッピー急場で挑んだセットアップだが、見事に成功。新たに生まれた赤子のAIは、チャッピーと命名される。
ヨーランディは母のように彼に接し、ディオンは創造主として様々な事柄を教え込むことを使命とした。 - 6.奪取ディオンを敵視するムーアは、ガードキーを使ったスカウトの一斉シャットダウンを思い付く。
彼はディオンのあとをつけ、ギャングと生活するチャッピーを目撃することになる。
やがて襲撃によりチャッピーを捕らえたムーアは、まんまとガードキーを手にする。 - 7.悪の教育ニンジャとアメリカは、チャッピーにギャングスタ・マナーを叩き込む。高級車の強奪で資金を手に入れた彼らは、現金輸送車を爆破するための爆薬を購入した。
- 8.停止ガードキーにより、ムーアは全スカウトをシャットダウンする。
ロボットがオフラインになった事実を知った街の悪党たちは、ここぞとばかりに暴動や強奪を開始する。 - 9.再起動ガードキーによって倒れたチャッピーだったが、ディオンにより再起動される。テトラバール社でムースの機体を見たチャッピーは、脳波ヘルメットを見たことであるアイデアを思い付く。
- 10.解析バッテリー残量の少ない自分を別のボディに移し替えるため、チャッピーは自己意識の解析に乗り出す。それは見事成功し、あとはボディを買うために現金輸送車を襲うだけになった。
- 11.決戦現金を強奪したニンジャたち。そこへニュースをみたヒッポと、遂に出動要請を受けたムースが集う。そこでヨーランディ、アメリカ、ヒッポ、多数のギャングが殺害される。
その中で銃弾を受けたディオンを救うため、チャッピーはムースを撃破した。 - 12.移設テトラバール社に乗り込んだチャッピーは、ムーアを撃退。
すぐさま意識を移し替える準備を行うと、ディオンの意識をアンドロイドの一体に移した。これにより創造主ディオンは、永遠の命を持ったロボットと化す。
またチャッピーの意識は、周辺で最も近いスカウトへと遠隔で移設された。 - 13.蘇生死ぬ前にバックアップ済みだったヨーランディの意識を、新たなタイプのアンドロイドへと移設しようと試みるチャッピー。
可愛いは×正義○ギャング

作中のキモはなんといっても、ギャングスタ・マナーを次々に身につけていくチャッピー自身だ。
ジャラジャラのアクセをぶら下げて、肩で風切る歩き方。
通りを走るクルマを端からかっぱらい、現金輸送車も襲っちゃおう。
気に入らないヤツはカラテ、ヌンチャク、シュリケンでトドメだ!ワザマエ!
ヨーランディは作中の善の一面らしく、人間の母のような心でチャッピーに寄り添う。
たいへん結構な心構えだが、正直見ている方からしたらニンジャとアメリカの後を追いかけるチャッピーの方が俄然面白い。
ベッドで本を読まれたり、絵を描いたり。ディオンとヨーランディによる英才教育もむなしく、チャッピーはずぶずぶと悪の道へ踏み込んでいく。
この辺りは貧困層のリアルを描いたようで、非常に上手い天秤の取り方をしていた。
作中や実際の倫理観に照らすと、ニンジャとアメリカがチャッピーにさせたことは間違いなのだろう。
だがワルの父親と兄貴の後を追いかける駆け出しの不良と化したロボットが、どうにも愛らしくて面白いのも確かだ。
最強にカワイイのはデクスター

- 声がカワイイ
- 見た目がカワイイ
- 喋る内容がカワイイ
このように、最強のロボである。
掃除する、お茶入れる、家主気遣う。
世の鬼嫁世帯の男子が、涙を浮かべてこの愛すべき小さなロボットを見つめたのは想像に難くない。
わざわざ新たなAIを開発せずとも、すぐそばに最良の友は居た。いわば青い鳥的な。
この灯台下暗しにディオンは気付かなかったのだろうか。
なんならウチにほしい。売ってくれ。
メッセージは弱

残念ながらAI対人間の構造への新たな切り口のアプローチや、独自解釈による新型思想などは見られない。
作中ラストの場面はそれっぽいような気もするが、単にエンターテイメントとしてのSF演出以外に感じるものは少ない。
これには善悪と生死を天秤にかけてチャッピー自身に問わせる部分や、ムースとの対比などがストーリー上で上手くハマらなかった感はある。
割とわちゃわちゃしたまま次の展開を迎えるため、大きな分岐となる彼の自己意識を明確に示す転機が無かったのだ。
とはいえ、この辺りはご愛嬌。本質としては雰囲気や物珍しさがウリと思われるため、小難しく考えて視聴するようなハナシでもない。
時代的に「AI」と聞くと対立構造などを思い浮かべがちだが、本作でそこに強く追及するのは無粋と思われる。
貧困層のリアルは見えた
ロボットに関するメッセージは弱いが、南アフリカの抱える貧困の現実はうまく描写されている。
ニンジャとヨーランディはまさに地元出身であるため、産後間もなくから決定される将来という闇を見知っているだろう。
チャッピーは、人間の子供を早送りで見るストーリーと思ってもいい。
多くの貧困層では善悪の概念よりも、その日の糧やナメられないために振り絞る威勢を重視する。
その過程で殺人が起ころうとも、情動的である彼らに止める術はない。
また善の心を持った人間が手を差し伸べても、幼い彼らにその意味は分からない。なぜならば、善に重きを置かれる社会を経験したことがないからだ。
そんな彼らも、生き残ればいずれ人の親になる。やがてそこからは同じ過ちの繰り返しだ。
絶対コッチも売れる

ムースは維持コストの高さと、強力すぎる武力で蔑ろにされた哀れなバトルスーツ。
奇妙なことにテトラバールはこの兵器を売り出さなかった。
しかしこの二足歩行ロボ、現実でリリースされれば絶対売れると思われる。特にアメリカに。
無論、国内警察向けにはスカウトが最良だろう。派手に動いて軒並みを破壊してしまうムースは、逮捕劇には向いていない。
しかし戦場では真逆の評価になろう。
更には飛行ユニットも搭載。
搭乗者はかなりの遠隔地にて操縦可能であり、安全性も抜群。
銃弾は効かず、多少の爆発にも耐えうる。
動力源に関しては不明だったが、飛行から戦闘終了まででも相当な駆動時間を見せた。
まあ売れる。戦場で出くわしたら敵が撤退をするシンボルマークになるだろう。
まるで轟音で恐れを振り撒いた、かつてのアパッチヘリのようだ。
肝心のお値段が不明だが、少なくとも店頭に並べない理屈にはならない。
ムーアはきっと、人格の問題を見抜かれて窓際族だったに違いない。
Die Antwoord(ダイ・アントワード)
作中のニンジャとヨーランディは南アフリカを拠点に活動するアーティスト/俳優であり、現実でも同じ名前を用いている。
エンディングで音ハメがバチンと決まったこの曲は印象的だ。
一部では熱狂的な人気を博しており、コアなファンが多い彼ら。貧困白人層を歌詞にした独特の世界観が共感を呼んでいる。
本人役で、なおかつ舞台は同郷。これでリアリティが出ない方が難しいだろう。
チャッピーに教え込むギャングスタ・マナーは、ニンジャ自身が生きてきた中で実際に培ったノウハウなのだろう。
評価
デクスターほしい。
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