間抜けな犯罪者たちを描くクライムコメディ映画、CLOSE BUT NO CIGARをレビュー及び評価、感想、解説。
※ CLOSE BUT NO CIGAR =主に「惜しいことに」、という意味で用いられる。
あらすじ
スコットはある日、叔父のジョージの家に呼び出される。
彼は”ある計画”のために中古車購入に付き添ってほしいと頼んで来たのだ。
わけもわからず、中古車ディーラーの店に足を運ぶスコットと友人のジョー。
古いワーゲンの商談はすぐにまとまり、すぐに納車の時期が来た。
当日、免停中の叔父に代わって車を引き取りに来たスコット。
しかしガスステーションに立ち寄った際に、なんと武装強盗にワーゲンを奪われる事件が。
だが驚くべきことにこの事件は狂言強盗であり、すなわち強盗犯の正体はワーゲンの所有者、ジョージ自身であった。
やがてスコットとジョーはこの一件を機に、とんでもない事件に巻き込まれ始める。
スコット

ジョージの甥。
アメリカを5年間放浪していた過去がある。
狂言強盗のため無断で協力させられた上、愛犬をさらわれるハメになる。
ヒステリックブロンドのような煩わしさが特徴的。
女々しく叫ぶ。
ジョー(ジョエル)

アルコール依存症。従軍経験有り。
度を越した間抜けぶりが随所に見られる。
イライラ担当。
ジョージ

スコットの叔父。
闇ポーカーで勝ち分を出資者のバック&チャーリーに誤魔化したため、残金の支払いを迫られた。
金が惜しいジョージは、”ワーゲンに積んだ大金を強盗された”というシナリオを思い付く。
バック&チャーリー

ジョージの出資者。彼に残金の支払いを迫る。
狂言強盗を見抜き、スコットの犬を誘拐して身代金を要求することにした。
ドニー

中古車ディーラー兼、サイコキラー。
作中ではサイコパスとされているが、人の見ていないところで犬を可愛がったりとおかしな部分が多々見受けられる。
ネタバレ概略
- 1.叔父変わり者の叔父の家に呼び出されるスコット。友人のジョーを伴って訪れた彼は、そこで妙な頼みごとをされる。
「中古車の契約に立ち会ってくれ」 - 2.中古車ディーラードニーの経営する中古車店を訪れるジョージら一同。
話はすぐに済み、そこその程度のマシなワーゲンを手に入れる。 - 3.納車納車の当日ジョージは、予定があるから代わりにクルマを取って来てほしい、とスコットたちに頼む。
断る理由もないため、男たちはワーゲンに乗って、一路ジョージの住処を目指すことに。 - 4.強盗ガソリンスタンドへ寄って給油中、突如スコットは車強盗に襲われる。
強盗犯はいかにも金にならなそうなワーゲンを盗むと、あっという間に走り去ってしまった。 - 5.被害届事情を聞いたジョージは警察へ赴き、保険請求のための防犯カメラ画像を要求。
しかし警察は保険会社と直接やり取りをすると言い、カメラ映像は渡さなかった。 - 6.取り立て借金を取り立てに来たバックとチャーリー。ジョージは、「カネはクルマと一緒に盗まれちまった」と言うが、都合が良すぎる話を彼らは信じなかった。
- 7.GPS再度ドニーの店を訪れるスコットとジョー。
彼らは盗まれたワーゲンを取り戻すヒントはないかと尋ねると、なんとドニーは、販売した車両の全てにGPSを付けていることを悪びれずに言ったのだ。 - 8.追跡違法なドニーの行為だが、この場合は役に立った。
ひと気のない郊外に放置されたワーゲンを発見し、車内を覗くスコットは、座席に見覚えのあるジッポライターが落ちているのに気付く。
それは叔父の、ジョージの愛用品だった。 - 9.誘拐ジョージの怪しい行動に思考を巡らせながら自宅へ戻るスコットだが、何者かの侵入の痕跡が。
なんと彼の愛犬は、借金のカタにバックとチャーリーに誘拐されてしまったのだ。 - 10.狂言車強盗自体が、自作自演の狂言であったことが判明。
金を渡したくないジョージは、不慮の事件に巻き込まれた、という体で借金を誤魔化そうとしたのだ。 - 11.賭けポーカーバックとチャーリーの正体は、賭けポーカーに挑むジョージの出資者だった。
ジョージは奇跡的な勝利ののち、約束した配分の金を彼ら兄弟に渡さなかったのだ。 - 12.本物金を返す決心をしたジョージ。スコットと共に約束した場所へ向かうが、その時後方を走る警察車両に停車を命じられる。
彼らが奇妙に思ったその時には、既にワーゲンと3万ポンドは盗まれていた。
なんとここに来て、警官を装った本物の車強盗が現れてしまったのだ。 - 13.投書スコットの自宅に、「カネとクルマは預かった」という文言の文書が届く。
記された番号に電話をかけると、金を返す代わりに、指定の家のポルシェを盗むように指示された。 - 14.届け物バックとチャーリーの家に、知らぬ間に死体が置かれていた。
驚いた彼らだが、警察を嫌ったために、手頃な墓地にその不明な遺体を埋めることにする。 - 15.失敗夜間にポルシェ窃盗を目論むスコットとジョージだったが、なぜかジョーが手伝いに現れる。彼のせいで計画は失敗し、更にはクルマを乗り捨てるハメになる。
- 16.犯人手紙の落書きから、ドニーこそが一連の黒幕であることを察したスコット。ジョージに真相と伝えようとしたものの、彼は行方不明になっていた。
- 17.対面バックとチャーリーの前に姿を現すドニー。彼は兄弟に対し、二つの選択肢を与えた。
1.金だけを持って逃げ、殺人の重要参考人として指名手配される
2.犬を飼い主に返し、何もなかったことにする - 18.拒絶死体を家に遺棄した犯人だと知っていた兄弟は、ドニーの提案を一蹴。
すると彼はその答えを知っていたかのように、ふたりを射殺した。 - 19.死体叔父の失踪を心配したスコットは警察に連絡を入れると、そこで彼の死を告げられた。池のほとりで、ワーゲンの中に二日ほど放置されていたのだ。
それのみならずジョーの貸家ではバックとチャーリーの死体も見つかっており、また別件のハルプレヒトという人物の血痕も見つかっている。 - 20.逮捕友人の関与を否定するスコットだったが、ジョーは四件の殺人の容疑で拘留されることになった。
- 21.持ち主帰宅したスコットは、玄関前に繋がれた愛犬と、一通の手紙を見つける。
そこにはドニーが、「正当な後継者へ全てを返し、罪は自分が受ける」という旨の内容が記されていた。 - 22.中古車手紙の住所を訪ねると、あのワーゲンが止まっており、中には3万ポンドがあった。
スコットは中古車に乗ると、エンジンをかけてその場を去った。
設定が全然活きない

あらすじだけ見ると結構面白そうなのだが、結論から言うとこの映画は退屈でつまらない。
コメディにしては笑える箇所はゼロだし、サスペンスとしては展開がふざけすぎている。
笑いも驚きも何も生まれない、苦痛の時間を過ごすだろう。
最期まで辿り着くのは本当に辛く、修行のような心もちにさせられた。
大筋はそこそこ出来上がっているのに、細部が酷いのが一因にある。
無駄口や道化た行為が最たる例であり、「間抜けな部分にクスリと笑いを」という目論見は大幅にずっこけており、単なる苛立ちと落胆以外の効果は生み出せていない。
「犬を助けるために大金を届ける」という動機に関しても、正気を疑いたい。動物愛護の観点はさておき、これをフィクションで行う意味が全く不明だ。
もしや、それ自体がジョークのようなものと考えているのだろうか?
どちらにせよ、全然面白くない。
無駄なお喋りで混迷するシナリオ
とにかく登場人物らの無駄口がひどく、またそれがシナリオ上の行動に関わる部分であるのが問題。
単純な軽口で笑わせたいなら、大樹とは分岐した枝葉で示すべきである。
ちぐはぐなコンビネーションを表したいのは理解出来るが、大筋の方向性をあれこれ振り回す言葉を次々並べられては、フラストレーション以外に蓄積するものが無い。
特に酷いのがジョーだ。
彼がクルマの色が何色だの警察に自供するだのと、わけのわからないことを言うたびにどんどん話が煩雑で厄介になっていく。
架空の人物にこれほどのストレスを受けたのは久しぶりだ。
言い方は悪いが、彼が早々にサイコキラーの餌食になってくれたなら、この映画の価値はもっと高まっただろう。
ポルシェ前でもたつくシーンは、スコットとジョージ以上の憤慨を我々に与えた。
またイギリス映画なのに、やけにFワードを連発するのも違和感がある。えらくアメリカかぶれした姿に、若干イタいものを感じずにはいられないだろう。
素直にbloodyでいいのに。
ドニーは何を狙った?

見方が悪いのか見落としがあるのか定かでないが、少なくとも個人的にこの自称:サイコパスから受け取るものが何も無い。
行動理念も目的も定かでなく、完全に意味不明な精神病質者としてしか描かれていないのだ。
完全なる混沌を振り撒く者として描くのは、ややサイコパスの定義とは異なる。
彼らは自身の尺度で、あくまで自らの利益を追求するために行動を起こす。その中で殺人が必要ならば犯すのみであり、意味不明に暴力を撒き散らすことはない。
何回見直しても、やはり見えない。
何がしたかったんだ、この男。
評価
積極的に見る映画には値しない。

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