メキシコに伝わるブギーマンを描いたホラー映画、Cucuy: The Boogeymanをレビュー及び 評価、感想、解説。
あらすじ
とある小さな田舎町で、子供の失踪事件が頻発。
目撃者の情報では、およそ人からかけ離れた人相、いわゆるブギーマンが犯人だという。
妹をエル・ククイに攫われた少女、ソフィア。彼女は独自の方法でブギーマンへと迫り……。
ネタバレ概略
- 1.ハビ失踪とある兄弟の元にエル・ククイが現れ、イタズラで手を焼かせる兄のハビをさらう。
警察は謎の失踪事件としてこれを処理。 - 2.姉妹の絆耳の不自由な妹アメリアがいじめられたことに腹を立て、姉のソフィアはいじめっ子を殴り倒す。
運悪く止めに入った警察官にも暴行を働いてしまい、逮捕、裁判を経て六か月の自宅謹慎処分を言い渡される。 - 3.不穏自宅謹慎のさなか、越してきたばかりの隣人に不審な影を見るソフィア。
- 4.シエラ失踪アメリアをネット上で笑い者にしていた主犯のシエラが失踪。
ククイによる被害者が続くことに。 - 5.マーフィー登場近所に住む男子、マーフィーと親しくなるソフィア。
- 6.トラビス失踪夜間に学校へ忍び込んで落書きをしていた三人組の内、トラビスがククイにさらわれる。これにより同席した友人から、ククイの人相が明らかになった。
しかし大人の大半はブギーマン伝説を信じず、人間による犯行だと決めつけていた。 - 7.ボイド宅侵入怪しげな隣人ボイドを一連の犯人と見たソフィア。家屋を留守中に調べようと決心したところ、妹アメリアが独断専行。
危険を冒しながらも、地下のコルクボードに貼りつけられた大量の失踪人のエビデンスを撮影することに成功した。 - 8.アメリア失踪夜間にアメリアは忽然と消える。同じ屋根の下に居たソフィアは、とうとう目前にククイの姿を見る。
- 9.ボイド逮捕、死亡アメリアの残した写真により、ボイド宅の捜索が行われる。
彼は逮捕、拘禁されるが、獄中のベッド下から現れたククイによって首を吊られて死亡する。
また彼の正体はシリアルキラーなどではなく、幼い頃に弟をさらわれた恨みでククイを追い続けるリベンジャーだった。 - 10.繋がり消えたいじめっ子たちとアメリアの間に、自殺したテレサという共通点があることを発見したソフィアとマーフィー。
ククイ出没の真相には、テレサの両親が娘の復讐をブギーマンに願ったことが原因だったことが判明。 - 11.罠ククイの袋に秘密があることを知ったソフィアは、敢えて怪物を呼び寄せることを決断。
隙を突き、自ら袋の中に飛び込むことでククイの洞窟へと侵入することに成功した。 - 12.再会洞窟で眠る妹を発見するソフィア。拘束を解くと、ひとりで先に逃げるように促した。
- 13.決着洞窟に戻ったククイとソフィアの最終決戦が始まる。
母やマーフィーの助けもあり、見事ククイを刺し殺すことに成功。眠っている子供たちは無事に家へと帰っていった。
エル・ククイ

メキシコに伝承される、人さらいの鬼。親の言いつけを守らない子供を攫っては、肉を貪り食うという。
全世界でこういったブギーマンは伝承されており、日本だと「なまはげ」、イタリアであればかつての政敵であった「ハンニバル」などが用いられている。
またスペインでは「エル・ココ」というよく似た名前の怪物が言い伝えられており、同じスペイン語圏での共通点を見出すことが出来る。
さて作中のククイだが、現実で言い伝えられる小男と呼ぶよりは、大柄な怪物として描かれる。
赤い瞳などの部分は踏襲したが、大きさではより脅威感を増すための脚色を用いたと思われる。
彼がずだ袋に子供を放り込むと、獲物は霧のように消える。棲み処と直結したワームホール的な能力が付与されているようだ。
また自身にもテレポート能力のようなものがあり、戸や鍵は彼の侵入を妨げる要因にはならない。
更には念動力のような力を持っており、触れていない子供を引き寄せる場面も見られる。
こうした描写からは、おどろおどろしいホラーよりもサイキック的な一面が強い。
見た目に反して、案外直接的な膂力を見せつけるシーンはほとんどないのだ。
欲を言えば、もう少し荒々しく凶暴な一面を見たかったのもある。
ククイの出自
実際に起きたか否かはさておき、エル・ククイの伝説の根幹となったおとぎ話は以下になる。
昔々あるところに、子供たちの振る舞いに困った父親が居ました。
彼は罰として、子供たちをクローゼットに閉じ込めるおしおきを思い付きます。
ところが父はすっかりその事実を忘れてしまい、街に用事を済ませに出かけてしまったのです。父が街から戻った時、悪いことに彼の家と納屋は火事になっていました。
クローゼットの中の子供たちは焼け死に、同時に父にも呪いが刻まれてしまいます。
後悔の中で正気を失った父は、化け物となったのです。以来、この呪われた父親は家々のクローゼットから現れては、自分の子供たちを探しています。もう死んでいるはずの子供らを。
そして彼の中には、抑え切れない食欲が膨れ上がりつつあります。
出典:URBAN
エル・ククイはクローゼットを起点に出没すると言われている。その根っこには、クローゼットの中で死なせてしまった子供たちへの慚愧が、歪んだ形で表れていると言ってもいいだろう。
少し物悲しい、南米のブギーマンのおとぎ話だ。
演出全般

少しも目新しい要素は無く、完全に既存作品の焼き直しになる。
大きめSEとビックリ演出による、心臓に負荷をかけるタイプの方式だ。
全編通してそれほど恐怖をおぼえるような場面はなく、あまり記憶に残った箇所も無い。
最終局面では、流行りの物理対決。使える物を全て使い、エル・ククイを叩きのめせ!
懐中電灯でティーン女子にボコられるククイを見ていると、少し同情すら湧いてしまう。
ラストは鋭利な突起物でトドメ。
怪物であろうと、研ぎ澄まされた先端には敵うはずもない。フェイタリティ!
対ホラー最終兵器:カーチャン

ホラー映画といえば家族愛。過程がどれだけグダグダでも、ラストあたりに家族の絆を描けばなんとなくそれっぽい仕上がりになるのだ。
娘のボーイフレンドにショートメッセージでククイの居場所を聞いた母。
怪しい袋をくぐって娘たちの元へ駆けつける。
対峙した怪物を見上げてひと言、「本物だわ」
クライマックスでは明らかに手を抜いたククイと、一家の壮絶な物理バトルが繰り広げられる。
何しに来たのかよく分からない母、逃げっぱなしで戻らない妹、体格に勝るククイをほぼひとりで抹殺する姉。
これが家族愛か。
ブギーマンゾーン

ラストで現れたシーンだが、案外この解釈は面白い。
要は大量のククイが存在しており、メキシコ中の子供たちを狙っているということだろう。
作中で明らかになったのが南米:エル・ククイ支部だとすると、世界中にこのネットワークはあるのかもしれない。
- 日本:なまはげ支部
- 中東:ジン支部
- 二次元:しまっちゃうおじさん支部
ブギーマン界隈も案外、世知辛い世の中かもしれない。
評価
良くも悪くもなく、何の感想も無いホラー。
来週には観たことを忘れていそうだ。
同じくメキシコの、実在するストーリーを基に伝説の女幽霊を描いた作品はコチラ。
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