ハリーポッターと同一の世界観で描かれるファンタジー映画、Fantastic Beasts and Where to Find Themをレビュー及び評価、感想、解説。
あらすじ
禁酒法時代のNYを、ひとりの青年が訪れた。
彼の名はニュート・スキャマンダー。イギリスはホグワーツで学んだ、紛れもない魔法使いだ。
彼は魔法動物を扱うことを得意としており、一見して何の変哲もないスーツケースの中には、奇妙で素敵な動物たちの保護区が広がっているのだ。
そんな彼は、ふとしたことで逃げ出した魔法動物の一匹を追いかけて銀行へ入り、そこで図らずも錠破りを犯すこととなった。
そこで出会ったノー・マジ=マグル(非魔法使い)のジェイコブと、彼は誤って手持ちのスーツケースを入れ替えてしまったのである。
また目撃者の記憶消し魔法を使わなかった罪で、彼はアメリカ魔法省のティナにその場で逮捕されることに。
失ったスーツケースを取り戻し、魔法省から逃れ、謎に包まれた自身の目的を遂げる。
今、魔法の世界が再び幕を開けようとしている。
登場人物
ニュート・スキャマンダー

魔法使い。魔法動物の保護や、それについての執筆を生業にしている。
魔法の腕はそこそこ立つようで、闘いにおいても引けはとらない。
性格は自他ともに認める変人であり、そのせいか学生時代からはぐれ者であったようだ。
基本的に熱くなったり取り乱すことはないが、魔法動物の処遇についてだけは譲れない想いを抱いている。
入寮はハッフルパフ。また当時から彼に目をかけていたのは、あの伝説の魔法使いダンブルドアだった。
ニュート自身は、なぜ彼に気に入られているのかさっぱりだそうだ。
ポーペンティナ・ゴールドスタイン(ティナ)

アメリカ魔法省、元闇祓い。ニュートがジェイコブにオブリビエイト(忘却魔法)し忘れた罪を目撃し、彼を連行することになる。
規律を重んじ義理人情に厚いが、冷静さを失いやすいエモーショナルな一面も見える。
ニュートが感情を表さないぶん、作品上では彼の対比や補完としての役割を果たす。
ジェイコブ・コワルスキー

缶詰工場で働く、パン屋を開きたい男。
銀行に融資の相談に向かったところで、ニフラーを追いかけるニュートと出会った。
そこで彼らが同型のスーツケースを入れ替えてしまったことから、物語は始まった。
完全なる非魔法使いであり、およそ魔法の世界で問題に立ち向かう力は皆無。
しかしニュートに言わせれば彼は紛れもなく仲間であり、友でもある。
クイニー・ゴールドスタイン

ティナの妹。読心術の魔術を体質的に備えており、おおよそ対面した相手の心を読むことが出来る。
ひと目でジェイコブと彼女は恋に落ちる。しかし当時のアメリカで魔法使いと非魔法使いの婚姻は大罪とみなされ、死刑を免れない厳しいものであった。
彼らの前途は多難に見える。
パーシバル・グレイブス

アメリカ魔法保安局長官。捕縛されたニュートとティナに、即時死刑を言い渡した。
孤児院のクリーデンスに水面下で”あるモノ”を探させている。怪しげなその振る舞いから、魔法世界の規律を守る人物としての相応しさを視聴者は疑わされることになる。
クリーデンス・ベアボーン

孤児院の青年。人間界に居るが、実際には魔法使いの血を引いている。
院の長である義理の母からは、ことあるごとに体罰を受けている。曰く、「お前の母親は魔女だ」
グレイブスのつてで魔法界へ移住することを夢見ており、そのために彼の黒い陰謀に加担する。
舞台はNY

ハリーポッターと同じ世界観を擁する本作の、舞台は禁酒法時代NYになる。
当時を描いた作品というと、「アンタッチャブル」「ゴッドファーザー」また最近で言えば、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」も同様だ。
この時代背景を用いる作品は、常に独特の魅力溢れる描かれ方をする。それは悪法に抗う民衆の一体感であったり、暗躍するマフィアの美徳と悪徳を背中合わせに見せる手法であったりと様々だ。
そこに魔法の世界をミックスするとなれば、もうそれだけでワクワク感が止まらない。
古式ゆかしい街並みや古めかしいフォードを再現する中に、時代に即した魔法省の、どこかアナログを感じる佇まい。
作り上げられたオブジョエクトは実存、CG問わずどれも素晴らしく、圧倒的な苦労の片鱗が垣間見えるだろう。
世界観の制約

まずそもそもの基盤が、ハリーポッターシリーズと完全に同一であるという事実を知っておかねばならない。
つまり100%ファンタスティック・ビーストシリーズを味わい尽くすには、前もってハリーポッターシリーズの視聴、或いは読了が求められるということになる。
もちろん今作がシリーズ初見でも、決しておいてけぼりにならない仕様にはなっている。完結したハリーポッターシリーズでも、未見や途中参入を出来得る限りサポートする体制が整っていたことは記憶に新しい。
だがやはりダンブルドアや闇祓いといった、重要キーワードへの意識の寄せ方が段違いになる。未見ユーザーでは、この部分へのフォーカス度が著しく低下するのもやむないだろう。
これには書籍と異なり、映画には時間的制約が厳しいという一面がある。なのでじっくりと世界観を知り尽くすには、やはりハリーポッターシリーズの完全フォローを推奨する。
また世界観の共有というとコアなファンには嬉しいサプライズではあるものの、言い換えれば新たな別次元の開拓を怠ったとも取れる。
拭いきれない”あくまでスピンオフ”感の正体はこれだろう。
CGがスゴい

などという言葉はまことしやかに古参映画ファンから囁かれているが、本作にそれは当て嵌まらない。
暴れ狂うオブスキュラスや奇妙で魅力的な魔法動物など、最新技術でしか表現出来ない事柄は多岐に渡る。
これらは安全面や実現性でプラクティカル・エフェクトに大幅に水をあけており、ジャンルさえ間違わなければ最高の演出として誇れる技術と言えるだろう。
また目に見えないグラフィックスとの芝居を演じる、女房役の俳優にも注目すべきだ。
彼らは撮影の段階ではぬいぐるみやはりぼて、時には全く何もない空間との演技を要求される。
作品中の大部分で用いられるCGだが、ここに違和感を感じさせるような役者はひとりとして居なかった。素晴らしい演技指導、そして演技力の賜物だろう。
映像技術班及び演者の腕前、天晴れ。
長いシリーズの冒頭としての作品

今シリーズもかなりのロングランを匂わせる構成であり、いわば本作は出だしの一歩目、自己紹介のようなプロローグ編に過ぎない。
大きなタスクで見た物語の進行度は遅々としたものであり、結末のあっさり感に驚いた者も多いだろう。
また作中では、かなり多くの謎を残すことになる。
こうした部分に関しては次作以降のお楽しみとなる。
ハリーポッターシリーズに馴染みのあるユーザーにとってはいつものことだが、初見のカスタマーにはいささか不満の残る部分もあるだろう。
ハリーとニュート

主人公であるニュートは、ハリーとは全く異なる人物像を設定されている。
- ニュート
感情に左右されない
魔法は得意
ハッフルパフ
運命ではなく意思力
- ハリー
感情豊か
初めは落ちこぼれ
グリフィンドール
逃れられない運命の呪縛
表にすると、彼らはまるで真逆の性質である。
ヴォルデモートによる表裏の運命を刻まれたハリー。彼が定めに従うことは絶対であり、逃れらない呪縛でもあった。
対してニュートには、現時点でそうした運命めいた因縁は見えない。彼は自らの意志力でもって、自分なりの善を求めて動き出す。
かつてはハリーという存在そのものにもファンからは賛否があり、しかし結局のところは忘れ難いような人物として皆に記憶されることになった。
ニュートも相応の未来が待っていることは予想に難くない。しかし彼もまた、唯一無二の存在として刻まれることを期待したいものだ。
評価
作品自体のプロローグ感からも、単体での評価はそれほど高くない。未見のユーザーが飛び込むのには手放しで推奨は出来ないだろう。
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