Apple TV+より配信中のドラマ、For All Mankindシーズン1エピソード1をレビュー及び 評価、感想、解説。
あらすじ
月面着陸を競う、冷戦を象徴する宇宙開発レース。
その日月に初めて降り立った宇宙飛行士は、ソ連の男だった。
エド

本作主役と思しき男。
アポロ10号の乗員として月面の寸前まで到達したものの、当初予定されていなかった着陸は行われなかった。
その後11号の月面着陸を前に、ソ連が初の有人飛行を成功させてしまう。
バーで記者に不満を言うように誘導された彼は、思わず言ってはならない言葉を口走ってしまう。
ディーク

NASAの指揮官。
大統領からハッパをかけられた長官と宇宙飛行士らの間を取り持つ、重要な立ち位置に居る。
ソ連が月面着陸を成功させたことでショックを受けた飛行士らに、訓練の一日中止と憂さ晴らしを命じた。
ブラウン博士

ロケット開発技術に長けた最重要人物。
彼の作成したV2ロケットは宇宙のためのものであったが、政治によって軍事に転用された過去があり、それを今も苦々しく思っている。
元はドイツ国民であり、第二次世界大戦後にアメリカへ亡命した。
そのせいか、未だ大戦後の感情を引きずる者からは「ドイツ野郎」と揶揄されることもある。
ネタバレ概要
- 1.生中継全世界五億人が見守る中、月面に初の有人飛行が行われる。
その地を初めて踏みしめたのは、ソ連の飛行士だった。 - 2.憂さ晴らし翌日。NASAの指揮官ディーク・スレイトンは、宇宙飛行士らに招集をかけた。
正常な精神状態で訓練を行えないと見た彼は、その日の訓練を中止。出かけて憂さを晴らして来い、と命じる。 - 3.アメリカ米大統領ニクソンは失望を露わにする。CIAは報告の精度を揶揄され、NASAはアポロ10号で強気の着陸をしなかったことを責められることに。
次期11号に、早急で確実な着陸が求められた。 - 4.失言バーで飲んだくれたエドは、記者に対してうっかり口を滑らせる。
任務については他言無用であるにも関わらず、「今のNASAにはガッツがない」と愚痴を漏らしてしまったのだ。 - 5.移民メキシコ移民のアレイダという少女は、その日父と共に祖国を去り、アメリカへと密入国を図ろうとしていた。
- 6.1202NASAにて訓練中、1202というコードと警報が鳴り響く。
マーゴはいち早くそのコード内容に気付いていたものの、声を上げることにためらった。 - 7.中止管制官にそれを伝えたマーゴだったが、既に事態は手遅れだった。
模擬とはいえ、月面着陸は失敗に終わる。 - 8.叱咤ブラウン博士は着陸が失敗に終わったのはマーゴのせいだと言った。
それは彼女が指揮系統を無視したことでなく、答えを知りながらためらったことにあると。 - 9.雑誌宇宙雑誌にエドの失言が載せられる。事態は想像以上に重く見られ、NASAは求心力を失いつつあった。
ブラウン博士はエドを計画から外せと命じたが、ディークは少なくとも事務として携わらせるにとどめる。 - 10.11号11号の月面着陸失敗をもって、アポロ計画全体の終焉を迎えかねない。
ニール、バズ、マイクの三名は、アメリカの希望を背負って宇宙へと旅立った。 - 11.妻宇宙飛行士の妻たちは、テレビ中継を同じ場で見守ることにした。
そこへ現れたディークの妻=マージは、エドの妻=カレンに話を持ちかけた。 - 12.否定エドが宇宙飛行士として復帰するためには、公に記事の内容を否定することが必要だとマージは言う。
海軍出身の夫はウソを言えないと悩むカレンだったが、マージはブラウン博士を説得するにはその道しか残されていないと言った。 - 13.月面多くの者が固唾を飲んでイーグル号の月面着陸を見守る。
だが地表にコンタクトする瞬間、NASA管制室との通信が途絶えた。 - 14.混迷状況の全く不明な事態に困惑する管制室。爆発の兆候はないにせよ、仮に墜落したとなれば、ニールとバズを救出する作戦など用意されておらず、すなわち彼らの死を意味する。
- 15.苦渋数時間経っても通信は復活しない。ニクソンは全国放送枠を確保し、事態の説明を国民へ向けて発表する段取りを組ませた。
多くの人々が、この計画の頓挫を意識した。 - 16.拒否月面上を待機していたコロンビア号のマイクは、「何が起きてもひとりでは帰らない」と帰還を拒否。ニールとバズを待つと言い張る。
- 17.復帰だがその時。誰もが諦めていた通信が回復し、ニールは着陸の成功を伝えた。
おおいに沸き立つアメリカ国民。
前提:時代背景と史実の理解
本作は史実にある、
アメリカは資本主義の偉大さを世界に知らしめ、長い冷戦において大きなアドバンテージを得た
この図式が破綻し、ソ連に先を越された、という”ifストーリー“となっている。
よって史実や時代背景をある程度理解した上で、その部分との乖離を追っていくのが正しい作法となる。
では以下で、この年代で繰り広げられていた冷戦のポイントを抑えていこう。
ケネディの発案した”月レース”

アメリカ合衆国第35代大統領、ジョン・F・ケネディ。
前任のアイゼンハワーがNASAに着想させた大まかなアポロ計画を、具体的な形として示したのが彼になる。
ソ連との長い冷戦において、宇宙計画や月面着陸にて優位性を示そうと目論んだのが発端となる。
ケネディのあとにはリンドン・ジョンソン、そして作中のニクソン大統領に計画は引き継がれる。
多くの期待を寄せられるアポロ計画は、ニクソンにとって軽視出来るような些事ではなかった。
よって月面着陸とは単なる技術発展の延長上には無く、この時代、戦争の代替手段として用いられていた。
これに勝利することはアメリカにとってマストな一手であり、かならずソ連に先んじなくてはならなかった。
しかし作中では、このレースでトップに躍り出たのはソ連になる。
史実ではソ連は一度も月面に着陸出来ていない。
この部分は、大きなフィクション部、そして物語の根幹となる部分だ。
ニクソンにまつわる史実
史実ではアポロ11号を人類史上初、月面着陸させたニクソン大統領。
彼は1973年に再選を果たし、その翌年に有名な”ウォーターゲート事件“で弾劾裁判を受け、アメリカ大統領としては初の辞任を迫られた人物になる。
作中の時点では1969年であり、いまだ当選の当年になる。
今後の展開次第で、彼を取り巻く環境が大きく変わることは予想に易い。
このあたりをどのようにフィクションとして描くかが、本作のキモになるだろう。
ケネディ?
驚くことに作中でニクソン大統領は、
と言っている。また至る箇所でケネディはニクソンを揶揄し、その影響力の基盤を揺るがそうと目論んでいる。
しかし周知のように、ジョン・F・ケネディといえば暗殺されたことで有名だ。
彼の暗殺事件は 1963年11月22日であり、作中の1969年には既に故人であったはずだ。
よってこの部分はオリジナル要素が垣間見えるだろう。
ケネディは暗殺されなかったか、もしくはこの後に暗殺されることになる可能性が高い。
ニクソンとケネディの大統領選での争いというと、作中の時代よりも以前の、1960年の戦いが有名だ。
当時は僅差でケネディがニクソンを破り、見事に大統領となった。
このあたりの史実も、若干の脚色が為される可能性はある。
いずれにしろケネディが存命でアポロ計画の失敗を揶揄するというものは、歴史オタクには垂涎の馳走になるだろう。
11/09追記
どうやらケネディはケネディでも、作中で再三ニクソンを非難しているのは末弟のテッド・ケネディ(エドワード・ケネディ)だったようだ。
よくよく考えれば一度大統領を務めたジョン・F・ケネディが再度出馬するというのはおかしいので、やはり彼は暗殺されていたと見るのが正しそうだ。
よって本作の現実との相違点は、ソ連に月面開発で遅れをとったという一点のみなのだろう。
マルクス主義とは?

チェ・ゲバラなどが共感を示したことで有名な、ざっくり言えば社会主義、共産主義になる。
当時の世界は資本主義社会とマルクス主義社会のいずれかを選択するよう強いられており、その代表として冷戦を繰り広げていたのがアメリカとソ連になる。
よってアポロ計画の敗北とは、単純なソ連への敗北だけでなく、世界全体への求心力にも関わる一大事であった。
史実ではソ連解体による冷戦の終結=マルクス主義敗北によって、世界の大半の国では資本主義経済を支持することとなった。
しかし本作はifストーリーであるため、容易にこの道筋を辿らないことが窺える。
単純な宇宙開発というミクロにとどまらず、社会全体の動向を映し出すマクロに着目した作品になっていることが見える。
早期終結されたアポロ計画

史実では六回の有人飛行を果たしたNASAは、当初計画されていたその後に控える、アポロ18、19、20号の飛行をキャンセルした。
これについては、
- NASAの予算削減による、金銭面の困難
- 予算の無駄遣いという国民のバッシングを受けた
- 月面で神秘的存在に警告を受けたとされる、オカルティックな理由
かなり様々な意見が飛び交った。
実際にNASAは予算縮小を受けたが、そこに至るまでの過程は明白にはなっていない。
SFやオカルト的思考だと、三番目が最も燃える展開ではあるのだが。
ともかく史実でキャンセルされた17号よりあとの三機だが、これが本作でどうなるかは未だ未知数だ。
もしかすると、テキサスのリンドン宇宙センターへ寄贈されたこれらが、幻のフライトを実現するシナリオになるのかもしれない。
アポロ1号の火災事故

エドがバーで記者に対して漏らした”アポロ1号の事故“とは、実際に起こった史実を基にしている。
ガス、ロジャー、エド・ホワイト。
三名の地上訓練中に突如機体が出火し、為す術なく焼死した痛ましい事故だ。
彼がバーで語ったように、この時からNASAは方針を変更したと言われている。
部品点検やプロトコル遵守に一層の注力を見せ、何よりも安全シークエンスを最重要視するようになった。
10号が実際に着陸可能であったかは不明なものの、こうした守りの姿勢を揶揄する言葉を、記者は巧みにエドから引き出したことになる。
結果的にそれは、のちのちに彼自身を大いに苦しめることになった。
感想

まず前提として史実の理解が必須である点。
当時をリアルタイムで知っている世代が、より味わい深いものを感じるストーリーであることは間違いない。
歴史マニアや陰謀論好きにも好まれる類いの物語になっていることは太鼓判を押せる。
知識ゼロでも楽しめる?
若年層や当時の情勢に疎い層だが、このあたりへの訴求性はかなり厳しいものになっている。
全く前知識無しでこの物語を楽しもうとするのは、かなり困難な試みだ。
あくまで史実との乖離を追いかけるストーリーであるため、本作単体で心躍るような仕上がりにはされていない。
頭の片隅にはいつも、ソ連との冷戦というファクターを置いておかねばならないのだ。
純粋なSFファンにも勧められない
画像イメージではSF的な層を呼び込みたいような仕様になっているものの、実態は乖離している。
単純にアポロ計画だけにフォーカスした宇宙探査作品でなく、ニクソンやソ連、世界を取り巻くあらゆるマクロ描く部分に本質がある。
よって純粋な宇宙ファンやSFファンであり、なおかつ政治ベースのシナリオを楽しめない者には肩透かしである一面もある。
実際に1-1時点での宇宙探査シーンは全体の1割程度に抑えられ、主軸として描くのはそこに至るまで過程と背景だ。
面白いのか?
筆者としてはかなり面白い部類の物語だったが、大いに人を選ぶことは間違いない。
冷戦という大きな時代のうねりを考慮しておかないと、彼らがアポロ計画に対して躍起になる、その原動力が見えてこない。
一応、作中でもそうした背景を窺わせるためのヒントは散りばめられている。
ただし懇切丁寧な説明などは一切省かれており、やはりある程度の前知識を有している層だけに向けたドラマになっていることは否めない。
総評
最終的に成功したアポロ11号の月面着陸。
しかしソ連に先んじられたアメリカの未来は、明るいものとはならないだろう。
それにしても絶対に失敗するフラグを立てまくりながら、予想に反して成功したアポロ11号の着陸。
いい意味の裏切りに驚かせられた。

また同じアポロ計画を題材にしながらも、あらゆる意味で真逆を描いた、”ファースト・マン“も、本作の理解を大きく手助けしてくれる。
こちらはニール・アームストロングの個人と宇宙というミクロへフォーカスしたつくりであり、大局を描くこのドラマとは全く似ても似つかない仕様に仕上がっている。
1-2は以下から。
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