【映画】タイム・トゥ・ラン/計画の裏側に秘めた真相を究明【考察あり:ネタバレ注意】

スリラー

大金を巡って巻き起こるバスジャック事件にフォーカスしたサスペンス映画、Heist/Bus 657をレビュー及び 評価、感想、解説、考察。

スポンサーリンク

あらすじ

金曜朝、七時までに30万ドル。

気の遠くなるような大金を得る必要に駆られたヴォーンは、ディーラーとして勤めるカジノの長、ポープに借金の無心をした。
だが彼はこれを断ると、長年仕えた部下を解雇処分としたのだった。


一方で警備担当のコックスは、毎週カジノの顧客として現れる、中国人マフィアによる資金洗浄が行われていることを発見。この汚染された大金ならば、マフィアの追跡はあっても警察からの追求は免れる。
そう踏んだ彼は、金庫の暗証番号を知るヴォーンに強盗の相談を持ちかけた。

当然、裏街道の大物であるポープから金を盗むことは危険な橋だ。捕まれば死よりも恐ろしい目に遭うかもしれない。

だがヴォーンに迷う暇はない。重病に侵された娘の命を救うため、今危険な強盗劇が幕を開ける。

ヴォーン

悲壮に暮れるヴォーン

カジノディーラー。カードトリックが得意なようだ。元軍人で、銃器の扱いや格闘戦にも長けている。

娘の病にかかる莫大な医療費を捻出しようと試みるが、給料だけで賄える額ではなかった。
そこでタイムリミットの刻限前に、ポープから強奪した中国人マフィアの金で30万ドルを支払うことを決意。

人を傷つけることを拒んでおり、バスジャック中にも犠牲者が出ないように立ち回っている。

ポープ

脅しをかけるポープ

カジノ「スワン」のボス。近々引退を考えているようで、後継者のデリックに帝王学や経営学の全てを教え込んだ。

一見して非道な手口が目立つが、全ては己に課した信条に従った結果である。

また連絡のつかない娘を探しているようで、家族への愛を見せる一面もある。

武装強盗

強奪計画を立てる四人

数か月から数年練りこんだ綿密な計画で強奪するストーリーではなく、間に合わせの突貫計画で武装強盗は進行する。
かなり序盤から危うさを漂わせており、OPの一悶着からも窺えるように一筋縄ではいかない気配が蔓延している。

危険な性格の見えるコックスに、頼りがいのないミッキーとダンテ



顔合わせもそこそこに重罪のパートナーに選ぶには、いささか不安なメンツである。

しかしヴォーンには時間が無い。パートナーたちを吟味する余裕など存在せず、なし崩しで計画は進行していくことになる。
彼の不安げな表情からも、雲行きの怪しさが見て取れた。


展開自体はシリアス100%仕上げであり、コミカルな演出やジョークじみたものは一切無い。最初から最後までノンストップで緊張感を保たせている。

アクションもイケる

バスの屋根に強襲するSWAT

サスペンス色の強い本作だが、アクションシーンもかなりこってりとした仕上がりだ。
銃撃戦やバスでの乱戦など、随所で緊迫感溢れる闘いが繰り広げられる。
シリアスでストイックな空気感を演出するにはもってこいなバトルを、固唾を飲んで見守ろう。


細かい部分で言うと、デリックがサプレッサー付きの拳銃を発砲する際の演技が、他作品にないリアリティを醸し出している。
どういうことかと言うと、

反動の描き方


である。

多くの作品では発砲に於ける反動=リコイルを実銃に比べてやや軽いか、または全く感じない描き方を用いる。



実際に実銃をシューティングレンジで使用したことのある方は理解出来るだろうが、本物の銃火器から伝わるリコイルは想像を絶する。

筆者は.44マグナムやAK47を試射した際、火薬量を減らした弾丸であるにも関わらずその絶大な反動に目を剥くことになった記憶がある。

映像作品における銃の反動というものは、案外重要視されない傾向にある。



それは訓練で反動制御を扱える兵士であるという設定だったり、または世界観による補正が為されていたりと様々だ。特にサプレッサー付きの拳銃に対しての反動の扱いは、霞のようなものに近い。


さて本作のシーンを例のシーンを見直そう。

サプレッサー付きの拳銃を構える影


実銃使ってるの?


と思うようなリアル感溢れる発砲。

筆者的フェイバリットシーンはここにあった。

価値観

顔にキズを受けた女性警官

裏テーマとして存在しているポープの内面的葛藤だが、彼以外の人物の心模様も本作では多く描かれる。

しかしこの部分でやや不整合、或いは善悪の判断基準を少し都合の良い側へと寄せ過ぎたのは、若干の違和感を残す所となったのは否定出来ない。
彼らが心を動かすまでに要した葛藤があまりにも安っぽく、またそれにかける時もかなり短い。

時間の縛りを持った映画という作品であるにしろ、ご都合主義スレスレのタッチダウンと言えなくもないだろう。
この辺りに関しては、やや描写を失敗したのでないかと感じた。

評価

優良サスペンス作品



ロバート・デ・ニーロの老練な演技力と、ジェフリー・ディーン・モーガンの渋い父親像がクリティカルな役割を果たした。

多くの方に勧められる一作だろう。

★★★★☆
四つ星の優良作。
タイム・トゥ・ラン(字幕版)
タイム・トゥ・ラン(字幕版)




以下、考察及びネタバレ注意。






コックス?

作中でのコックスは、さながら口輪の外れた狂犬だった。


しかしバス乗客を震え上がらせた彼だが、いつの間にやらフェードアウトしている。
いったいどこへ行ってしまったのだろうか?

一瞬しか映らない彼の行方を見失ってしまった方が居るかもしれないと思い、一枚の画像を用意した。

間一髪で救われた運転手と死亡したコックス



運転手の脇に倒れ伏しているのはよくよく見れば狂犬:コックスの亡骸であり、すなわちこれはヴォーンによる射殺だった。
電話口で言ったように、運転手を殺害しかけたコックスをヴォーンが殺害したのが真実だったのだ。

これにより彼は、乗客らの口裏合わせという協力を得ることに成功した。無論それ以前の彼の態度や振る舞いもそれを後押ししたことは言うまでもない。

兄妹の策略

腹に偽の胎児を偽装するポーリン

ラストシーンで明らかになる、妹ポーリンとの共謀。彼らは今回の件で、当初はどういう青写真を描いていたのか?

金の移送

当然ながらポーリンの役割は大金を病院へと運ぶことだ。ダミーの赤子を用意してそこに金を仕込み、誰にも気づかれぬ内に姪の治療費を払い込む。

冒頭でバスに先に乗ったのは彼女であり、つまりこれらからヴォーンが後から、或いは同時に乗り合わせる予定であったことが推察される。

1ドル25セント

全てのシーンに意味があると考えよう。
するとバスに乗った際に彼女がパスカードを通す場面に目がいく。

この場面を描写する意味は何か?

時間稼ぎ



カードが使えないのはミスでなく、故意であった。わざともたついて時間を稼ぐことで彼女は待ったのだ。

何を待ったか?



当然ながら、兄の同乗だ。

本来ならばスムーズに強奪が済んだ場合、もっと早くにカジノをあとに出来る計算であったのは、銃撃戦から明らかだ。

バスジャックはヴォーンの予定内?

この説は否定される。
わざわざ目立つジャック事件を起こしてしまえば、逮捕と追跡のリスクが格段に高まる。

またポーリンを降車させるタイミングが無いことも問題だ。
七時に間に合わなければ、娘の医療行為は打ち切られる。先の読めないカーチェイスが予想されるジャック事件を起こせば、タイムアウトの可能性は大いに高まるだろう。


なお作中でヴォーンの呟いた、

「巻き込んで悪いな」



という言葉は、ジャック犯とその被害者という立ち位置で交わされていない。
これは予定調和を乱した兄からの、妹への謝罪だった。

何故自分で届けないのか?

最大の疑問である、ヴォーンが自分で30万ドルを届けなかった理由。

想定外の出来事であるバスジャック事件を予想していない段階で、何故彼は妹に大金を託したのか?


これはラストでポープの呟いた、キリスト教にて最大の美徳である”自己犠牲”に関与する。
すなわち、

自身の死を予期していた



これ以外の解は無い。

恐らくどう足掻こうとポープの追っ手が振り切れぬと前段階で踏んだヴォーンは、初めから死ぬつもりだったのだ。そしてその事実を、ラストシーンでポープは悟った。

ポープの銃口

彼が心変わりでデリックを撃ったのは、単純に病に苦しむヴォーンの娘を慮っただけではない。
また同じく、後継者の暗君としての未来を憂慮したためでもない。

彼は自分の為せなかった過去を、ヴォーンの未来に見たのだ。

家族を犠牲に、自身の栄光を追求した過去

×

病床の娘のために、自身を犠牲にする未来



作中ではヴォーンが過去に、「愛の為にすべてを捨てた」ことを、ポープは悔しいような懐かしいような口調で語る。
恐らく当時にも、そういう人生の選択肢を取るべきだったことを悔いたと考えられる。

彼が「金をやるべきだったか?」と信条を曲げるような質問をデリックに投げかけたのは、こうした背景に基づく。


あらゆる意味で対極を描いたふたり。ポープは変えられない過去より、変えられる未来を選んだ。
それが例え、自身に関与の無い人生であろうと。

終わりに

哀愁を見せるマフィアの親玉

「娘に会いに行く」と聞かされたシーン。なんという演技力だろうか。

まさに後悔の無い人生のために、正しく生きることを教える作品だった。

タイム・トゥ・ラン(字幕版)
タイム・トゥ・ラン(字幕版)

コメント