【映画】インフェルノ/ゾブリストの思惑、矛盾点を徹底解明【考察あり:ネタバレ注意】

サスペンス

詩人ダンテの地獄篇をテーマにしたミステリー映画、INFERNOをレビュー及び 評価、感想、解説、考察。

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あらすじ

病院で目を醒ましたロバートは、自身の記憶が曖昧であることに気が付く。担当した医師のシエナによれば、銃弾が頭をかすめ、その時に転倒したショックで一時的な記憶喪失に陥っているという。

おぼつかない足取りの彼を待つことなく、急展開で試練は訪れる。突如現れた女性警官が院内スタッフを射殺、更には自分を狙っているようなのだ。
辛くもシエナと共に逃げ延びたロバートは、フラッシュバックする記憶を頼りに自分の使命を徐々に取り戻していく。

首の捻じれた男。仮面の医師。血の海に浸る街。

地獄の裁きが、地上を襲う日は近い。
ロバートは果たして、真相に辿り着くことは出来るのか。

ロバート

眠りから目覚めるロバート

ハーバード教授。アメリカ在住のはずが、気が付くとイタリアの病院で目覚めた。
一時的な記憶喪失と、ダンテの地獄篇に似たフラッシュバックに悩まされる。

彼の持ち物にあったポインターに描かれる、地獄篇を絵画化したマップにヒントを受けて謎を究明することを選択。

シアナ

ロバートを看護したシアナ

昏倒していたロバートの担当医。勤務中に女性警官による襲撃を受けて、その後なし崩し的にロバートと行動を共にする。

責任感の強さからか、数々の追っ手の迫るロバートから離れようとはせず、危険を承知で地獄篇の謎を解こうとする。

最高に盛り上がる序盤から……

ビルを吹き飛ばす血の海と黒衣の女性

トレイラーやSSで街を覆う地獄の裁きを見た者の多くは、序盤で繰り返されるロバートのフラッシュバックに心躍らせるだろう。

この恐るべきディザスターパニックに陥った時、いったいどのような結末を迎えるのか?
更に謎の女、いくつもの暗躍する組織、そしてロバート自身の過去とは?

多くのクエスチョンマークをはらんだ序盤から謎が明らかになるにつれ、段々と不安な気持ちが募って来る。
SFサイコホラー的な事態はどうも一向に起きる気配が無いし、謎の組織間対立図も思ったような複雑さは見えない。何よりロバートの過去がどうにも、骨子ある厚みを感じるに足らない。

大丈夫か?


少しも大丈夫ではないので前もって明記すると、サイコホラー演出は妄想の中だけの肩透かしに終わり、結局この映画はありきたりなバイオテロリズム作品でしかないということだ。
「地獄」を名乗るには、力不足としか言いようがない顛末に終わることを事前に知る必要がある。

壮大かつ荘厳の皮を被った、使い古しの既視感にまみれたシナリオ作。それがインフェルノの正体だ。

記憶喪失

フラッシュバックの中に見える女性

記憶喪失を扱った作品は、現代では難しい立ち位置に置かれる。というのも、これは昔から数多使われてきたストーリー構成の手法であるため、もう大概視聴者は見飽きている。

それでもこの茨の道を選ぶ作品の多くは、意外性や大どんでん返し、冒頭からの価値観をひっくり返すような驚愕性を用いてそのハンディキャップを乗り越える必要に迫られる。
多くの作品がそれに挑み、これまでに無いような驚きを我々に与えることもしばしばある。


さてインフェルノで記憶喪失のロバートだが、この脚本でこの手法を用いるのは些か無謀だったのでは。意外性も伏線も背景構築も、何もかもがもう一歩、いや二、三歩足りていない。

特にフラッシュバック演出はCGの出来が良いだけに逆効果をもたらした。
悪い意味で観客を裏切る、後半失速型の典型例である。

史実

博物館に飾られた絵画

実存する絵画や建造物をシナリオに加え、そこに独自解釈でメッセージ性を見出すなどのシナリオは多くの反響を呼びやすい。それらがセンシティブな宗教観を含めばなおさらで、いわゆる「炎上」狙いの映画も多々見られる。

インフェルノではそこまで際どい宗教観には触れぬものの、ポピュラーな観光地を舞台に謎解きをして回るのは一種のアミューズメント旅行気分になれるかもしれない。

だが一方で史実や実存絵画にタッチしておけば、なんとなくそれらしさを感じた視聴者が勝手に熱くなって論議を醸してくれるんじゃなかろうか、といったあざとさや厭らしさを感じないこともない。

だが謎の厚みが薄く、行間で読ませて後を引くようなミステリアスな仕掛けも存在しないので、話題としての質は乏しい。
単純なエンターテイメントとしては問題ないが、それ以上を求めるのは酷だ。

評価

CGの出来は良く、俳優の演技も素晴らしい。それ以外の目新しい要素は一切無い。
謎解きサイコホラーでなく、バイオテロリズム作品好きなら見てもいいかもしれない。

★★☆☆☆
二つ星。
インフェルノ (字幕版)
インフェルノ (字幕版)




以下、考察及びネタバレ注意。






ゾブリストの正義

公演を行うゾブリスト

作中で一方的に悪のテロリスト扱いを受けて勧善懲悪のお裁きを受けたゾブリスト。彼を扱う正義感の陳腐さが、この作品を貶める要因のひとつでもある。
冒頭で単純に彼を殺してしまうから、思想の対立や信念のぶつけ合いを演じることが出来なかったのだ。

ではそもそも彼の論じた「11時59分説」は的外れなのだろうか?
落下死した彼に代わって考察してみよう。

100億人

現実で人口数の減少している国は、意外なことに世界で僅かしかない。その代表格が日本だ。

その他は戦争や飢餓で毎日大量の死者を出している国々でさえ、人口数は毎月毎年上昇傾向にある。
ゾブリストが「バクテリア」に例えたのは非常に的を射ている。我々は死滅を上回る勢いで加速度的に増殖し続ける、地球に巣食う細菌のようなものだ。


国連の世界人口予測2017年版によると、地球の総人口は現在の75億5000万人から30年には85億5100万人に達し、55年には100億人を突破すると考えられる。


100億人をボーダーとした予想は様々な専門家が指摘し、その多くが2055~2056年とされている。これは単純にキリのいい数字ということでなく、100億人到達地点でゾブリストの指した臨界点に達すると考えられているからだ。

食糧枯渇

100億人の人類が飢えずに毎食を摂ることは不可能になる。現在でさえ、一日一食で暮らす人々は少なくない。しかもその食事メニューは、粗末なものだ。

およそ100億人到達時点で限界に達した人々による暴動が行われるだろうと、ある専門家は予測した。食料を奪い合って殺人が常在化し、或いは屍肉をむさぼる者も絶えなくなる。

飲料水不足

食糧だけでなく、水もまた強奪が始まる。現代より遥かに貴重となった水を巡り、命がけの殺戮が幕を開ける。シャワーでの水浴びや風呂に浸かる習慣は廃れ、朝露や泥水すらも金塊のような価値を持つ。

熱帯、砂漠化

温暖化の本質は機械でなく、人間にシフトされる。100億人ぶんの家を建てるために森林は伐採され続け、吐く息に含まれるCo2を浄化する緑は消え失せる。
地球が金星や火星のような姿になるのも遠くない未来だろう。

30億へ

無論、各国の研究者たちは日々、代替食料や飲料水の精製、樹木の枯渇や砂漠化を防ぐ為の対抗策を練っている。ゾブリストとは違うベクトルから、人類全体を救済しようと試みているのだ。

2055年までにこれらが実を結べば、我々は「インフェルノ」から逃れることが叶う。


あるシミュレーションでは人類100億人到達後、殺戮や飢え、乾きによって七割の人類は短い間に死亡するそうだ。
生き残った30億の人類は快適さを取り戻し、再び100億人への階段を昇り始める。

隣人の七割が死亡する世界。
ゾブリストの提唱した全滅説まではいかぬものの、それは恐ろしい光景に違いない。
本当の地獄は、たしかにここにありそうだ。

是非は?

以上から彼の持論が的外れでない、現実問題に即した提議であったことは否めない。
それを直接的手段で間引くのは非難されるのも仕方のないことではあるが、かと言って彼の声を全て無視するのは現実逃避や思考停止に他ならない。

インフェルノのシナリオが味気なく薄っぺらい出来映えである理由としては、こういった人類全体に不可欠な現実の問題提起を自ら投げかけておいて、それについての解を作中で勧善懲悪という不確かで危うい倫理観を用いて葬った部分にある。

象徴的バイオホラーの一面を最初から捨てて、正義感の対立を軸としたゾブリストとのバイオテロルを巡る攻防に仕上げていればここまで粗の目立つ出来映えにはならかったろう。

ゾブリストの謎

バシリカ・シスタンの地下貯水池で行われるコンサート

設定の甘さと断すればそれで終わりだがここでは真面目に、ゾブリストが何故ウィルス精製を終え次第、すぐさま適当な駅や空港でそれを散布せずに、わざわざイスタンブールのバシリカ・シスタンの地下貯水池に仕掛けたのだろうか。

ここではこれについてを推察しよう。

蔓延を狙う

コンサート当日は多くの国から客人が集っていた。効率良くウィルス蔓延を狙ったゾブリストは、敢えてこの日まで危険を冒してでもウィルスを水中に保管し続けた。

高効率での蔓延を狙ったが、爆薬を設置し忘れていたのはケアレスミスである


という説。

イスタンブールに配置した仲間や、シエナに計画を伝えるのを選ばなかったのは手痛い失敗だったろう。自分の身の危険を感じているなら尚更。

案外凡人

シムズの会社にビデオ公開を委託していた部分から読み取れるように彼が思った以上に、

抱える思想よりも承認欲求を満たす為に行動していた


という説。

大々的パフォーマンスで世間を席巻するのが真の狙いであり、ニュースやSNSで騒がれるのを何よりも至福としていたのだろう。
その為大掛かりな謎解きの仕掛けを用いて追跡者を翻弄し、仲間にすら計画の全貌を伝えなかった。


この説の場合、ウィルス自体がブラフである可能性がある。
世間に警鐘を鳴らすのが目的であり、自身の命を賭してでも喫緊の課題について思慮させたかったのだ。

とは言っても、そういった描写は一切無かったのだが。

シエナへのテスト

全てはシエナの知性を確かめるためのテストだった。


という説。

彼女が思惑通りにことを運べるかを、自身は高みの見物しようという思いで。

だが想定外にも彼女はアメリカの教授を利用して謎解きをズルでパスし、挙句には自分は飛び降り自殺をするハメになった。


恋人同士の愛を確かめ合うなら、もっと別の、誰にも迷惑でない方法でやっていてほしいものだ。

終わりに

ゾブリストのキャラクターと問題提起性には光るものを感じただけに、彼を対立構造に加えないのはやはり納得し難い。

「間引き」という危ないワードで物議を醸さないための配慮か、それとも単なる手抜きか。

いずれにしろ彼がもっとストーリーの中で跳ね回れば、格段に面白い作品になったと思えば惜しい存在だったように感じる。

インフェルノ (字幕版)
インフェルノ (字幕版)

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