異星の基地で起きる細菌との闘いを描くSFスリラー映画、INFINIをレビュー及び評価、感想、解説 、考察。
あらすじ
時は23世紀、地球にて。
惑星インフィニへのワープ航法を行った西SS師団の分隊。しかし探索は失敗に終わり、彼らは危険な細菌を母星に持ち帰った。
直ちに行われるデルタ・ロックダウン。すなわち、ガスによる師団全員の処分だ。
すんでのところでワープを行ったウィットは難を逃れるも、辿り着いたのは遠い異星、インフィニだった。
時を同じく、東師団。選び抜かれた精鋭がインフィニへ特殊作戦を実行するため集っていた。
任務はウィットの救出及び、インフィニから発射されると見られる危険な細菌。
果たして彼らは、遠い惑星で何を見るのか。
ネタバレ概略
- 1.感染惑星インフィニに設立された基地へと、調査のためテレポートを行った西SS師団の分隊員。
彼らは任務中に危険なウィルス汚染を引き起こし、師団に病原菌を持ち帰ることになる。 - 2.手順緊急時プロトコル発動。汚染拡大防止のため、残らず全員がロックダウン施工=ガス毒殺されることになった師団員。
- 3.逃避ロックダウンから逃れるため、ウィットはブラックボックスを使用した緊急テレポートを発動。
彼は単身、惑星インフィニへと旅立つことになる。 - 4.任務インフィニには先遣したモントーリという男が居り、彼は強制期間を拒否し、地球上へ向けて危険な物質をペイロード伝送しようと目論んでいる。
東SS師団の任務はこれを阻止し、また緊急テレポートを行ったウィットを救助することになる。 - 5.生存凍り付いた基地に電源を入れると、その惨劇が明らかになる。血みどろの争いの痕跡が、そこかしこに見られた。
チームはそこで、唯一生き延びたウィットを発見する。 - 6.強制停止プログラムを理解しているウィット主導で、一同はペイロード伝送を停止させることに成功。
だがその時制御室に、感染者の男が現れる。 - 7.惨劇大尉は斧で襲われ重傷を受ける。
更に襲い来る男を銃撃した折、血しぶきが全員に降りかかってしまった。 - 8.隠遁すぐさま発症の見られるチームの中で、唯一難を逃れたハリスへ、どこかに隠れるよう言うウィット。
彼自身もまた、これから起きる殺し合いを予見し、逃走を開始する。 - 9.兆候感染から逃れる手立てを求めてバイオラボを訪れたウィットだったが、そこで彼にも発症の兆候が見られるようになる。
- 10.合流ラボに現れたハリスは状況の整理を求める。資料を見たウィットは、この現象がインフィニで生まれた知的生命体による自己淘汰であることを察した。
- 11.襲撃ラボに飛び込んで来たマニングス。彼はハリスを組み伏せると、目の前で銃口を咥えて自殺した。
感染した彼を、ウィットはやむなく射殺した。 - 12.要請未だ発症の見られないハンティントンと出会ったウィットは、既に帰還要請を送ったことを告げられる。
しかし八時間後のテレポートに対して、感染者に残された時間は約二時間しかない。ウィットは感染を遅らせるためにも、衛生兵のクレアを探すことに。 - 13.愛憎クレアとジャクラーは互いを殺し合い、その果てにふたりとも死亡する。
手立ての消えたウィットの背後に、凶暴性を発現し始めたハンティントンが迫る。 - 14.決着死闘の末に、ウィットは最後の生存者となった。
- 15.遺言惑星の生命体へ向け、その誤った生存本能を告げるウィット。
彼は手首を切り、全ての惨劇に決着をつける。 - 16.復活目覚めると、全員が無事だった。記憶の一部抜けていることを除けば、誰ひとり死傷者は居なかった。
- 17.帰還地球へと帰還した一同。検疫を通り抜けると、日常へと戻っていった。
ハードSF + スリラー

未来における惑星探査が主軸となるため、SF色はかなり強い。特に冒頭の一連を理解するには、ある程度は宇宙系SF作品への予備知識が必要とされる。
探査中はスリラーパートがメイン。科学的な用語も織り交ぜつつ、ここではインフェクションパニックの段となる。
といっても早々に探査チームは全員が感染することとなるので、感染自体に怯えるシーンを描くのでなく、感染から発症までの狂気過程を描くのがメインではある。
スリップストリームとは?

スリップストリームは主にモータースポーツで用いられる単語になる。
前進する個体が受ける空気抵抗により、後方で螺旋状の空気渦が発生することを指す。
これをSF的に解釈したのがスタートレックだ。本作と同じ名前の航法として、作中でアートゥリスという人物が量子スリップストリームを提唱した。
量子スリップストリーム(quantum slipstream)という亜空間の流れをディフレクターを使って艦の前方に作り出し、その流れに押し流されるように怒濤のごとく滑走(光速の数十万倍以上)するというものである。
ワームホールのようなトンネルを作り出すので見かけ上はボーグの方法に似ているが、常にフィールドを前方に作りながら航行するので、スラスターで姿勢を変更するだけで自由に進路を制御できる。
いわゆるワームホール作成タイプのワープになる。
しかしインフィニでは、特段宇宙船を使用する場面はない。
使用するのは首筋のAPEX装置のみ。
宇宙船を使用しない人間単位のテレポート技術。
その内容については明示されないものの、過流をイメージさせるこのネーミングはやや失敗だったように思う。
さわりだけ聞くとたいそう深い背景設定がありそうに見えて、その実空虚な見せかけのワードを羅列しているのが窺える。
この部分は残念に思えた。
作中スリップストリーム航法のルール
- 基本はワープルームからの出立を行う
- ワープ中の死亡率は高い(ワームホール逸脱等)
- 緊急時のみ、ブラックボックスを使用することで独断専行が可能
- ワープは単独で行えない(意図的に首筋にAPEX装置を設置しているため)
- 地球帰還時は専任の要員から申請が必須(危険因子持ち込みの排除)
概ねこのようなものが見える。
余談:最も現実的なワープは?

光速を超えるワープ技術の確立は宇宙探査の命題とも言える必須技術となる、と言われている。
遠い惑星に無人であれ有人であれ探査飛行する場合、途方もない時間を毎度浪費するわけにはいかないからだ。
フィクションでなくリアルにおいて、最も実現のシナリオが見えるワープ航法は、おおよそ二種類のいずれかと考えられている。
- ワームホール生成
- 分子テレポート
時空間に短縮路をこじ開け、目的地までのショートカットを生成するのがイメージ的な最大公約数となる。
ワームホールや多次元を要領よく説明するのに用いられるのが、
「平面の紙に点をふたつ打ち、紙を折りたたんだり丸めたりして二点を同軸に置く」
上記が分かりやすい。
すなわちワームホール生成とは、紙を丸める行為自体を指す。
全く現実的でないようだが、重力解析や多次元アクセスへの造詣が深まるとこれらは応用される見込みだという。
確立されれば、最もポピュラーで安全性の高い航法となるだろう。
分子テレポートとは、
「分子単位で物体を読み取り、離れた場所で全く同じ組成の物体を生成する」
という技術になる。
読み込んだ送信元データを、受信側で完全再現するのが概要になる。
いわば3Dプリンターの上位互換だ。
現代でも量子単位のこれは実現されており、量子テレポートで検索するとその偉業を知ることが可能だ。
より大きな分子構造を完全解析可能なら、これは最も現代科学に近いテレポート技術となる予感をさせる。
しかし分子テレポートには大きな問題もある。
- 読み取り、書き出しでミスがあると悲惨な事態になる
仮に分子構造の一か所でも誤ると、書き出された物体は粉々に飛散してしまう。
これが単純な無機物ならば構わないものの、人体でこの間違いを起こした場合の結果は想像もしたくないだろう。
よってよほど技術の高まらない限りは、人間をテレポートさせるには弊害が大きすぎる。
- 送信元のデータが残る
3Dプリンターの特性を持つということは、すなわちテレポートというよりはコピーに近いという根底に気付くだろう。
つまり読み取り後の送信元データは残ったままになる。
わざわざ送信元の物体を消去するような仕組みにするのは手間とリスクしかないのだ。
これが人間で行われた場合、テレポートのたびに同じ人間がどんどん増えることになる。
- 送信データ自体が光速を超えられない
最大の難点がこれだ。
受信側にテレポート準備を行わせるのも、実際にデータ送信を行うのも光速以下でしか行えないのだ。
古典的なデータ通信手段であればこれは不可避の問題になる。
よって遠く離れた惑星へのテレポートには向かないこととなる。地球上限定の技術としかならないだろう。
やや拍子抜け

尺の大半は探査中のスリラーパートなのだが、正直言ってそれほど内容に満ちているとは言い難い。
生き残りを懸けたバトルロワイアル形式以上のものではなく、深いからくりやトリックなどは潜んでいない。
狂気的な演技と感情の爆発を表したのは見事であるものの、もう少し流動的なストーリーを配備してほしかったのも事実だ。
現状、単純なアクションにゴアや微SFを付与したもの、としか呼べない。
こう言っては申し訳ないが、もっと明快なモンスターパニックを選んだ方が良かったようにさえ感じる。
冒頭の血まみれで帰還した小隊で膨れた期待感が、実状との乖離を大きく感じさせる結果になっている。
評価
特化した姿勢があればもっと訴求力に満ちただろう。
とはいえ、悪い作品ではない。
以下、考察及びネタバレ注意。
ラストシーン考察
全員が蘇り、帰還を果たしたエンディング。
これの意味するものとは?
蘇生なのか?

最終的に無事な姿を見せたクルー一同だが、この点に疑問は残る。
作中で生命の蘇生を行えるような研究結果は示されておらず、明らかに死亡した彼らが蘇る道理は無い。
逆に、複製に関しての記述は見られた。
血液一滴から循環器系が培養されるように、新たな肉体を組成することは容易だという記録だ。
そして寄生に思われる初期段階も、支配という完全な状態へ移行することが示されている。
大量出血した一同により、既に土台は整っている。
彼らは蘇生したのではなく、支配を経て複製されたという結論が正しいだろう。
ウィットは無事だったのか?
帰還直前において、明らかにウィットを除いたクルーたちは異様に見える。
再三ウィットへ向けて、「言うことはないか?」と促すのが印象的だ。
また汚染チェックの段では、抑えきれない感情が爆発しているのも見られた。
これはオリジナルのクルーが実際には死亡しており、帰還したのが複製されたコピーである示唆になっている。
なぜウィットのみが異質な扱いであるかの推察だが、恐らく死亡前に複製が開始されたのが原因だろう。
失血死の前に細胞を復活させられたウィットは、完全な支配を受けるに至っていない。
が、寄生体が潜んでいる事実には変わりない。
一見して充血した瞳が消えたことで寄生からは解き放たれたようだが、これは細菌が方向性を転換したことに起因しており、依然として地球汚染のリスクに変化は無い。
よってウィットもこの後、無事には済まない。
写真の意味は?

ラストシーンで写真を持つ細菌たち。
この場面の意味はなんだろうか?
愛を理解した
ウィットが録音した独白により、細菌たちは新たな感情を獲得した。
それが”愛”だ。
これまでは種の繁栄には暴力性や強靭さなど、個の強さが大きく関与すると彼らは考えていた。
しかし寄生したクルーたちは、誰もが家族への愛を唱えた。
この愛という、一見して不合理で理解不能な感情に細菌は着目した。
ただしそれは、尊さや美しさという感情的な一面でなく、もっと合理的な主義に基づいた結論になる。
暴力よりも、愛で容易に支配出来る
つまりは方向転換である。
これまでは暴力による淘汰で種の優勢を高めようと画策した細菌だが、もっと効率的な手段をウィットから学んだ。
それは膨大な数で優位性を図る、という群れの理論になる。
これは、多人数で現れる細菌たちから示唆されている。
尖った個よりも、膨大な数。要は人間が辿った歴史と同じだ。
最終通告
これらから写真を見せる意味はすなわち、人類を完全に支配する手段を獲得した、という最終通告に他ならない。
優しさや思いやりが突如芽生えた、とするよりもよほど筋の通った仮説が以上だ。
細菌の目的は?

第一に種の繁栄がある。
インフィニという条件の悪い惑星を捨て、地球へ拠点を構えたいと考えるのは自然だろう。
つまり最終的に、地球へ種の移送を行うことこそ彼らの目的になる。
ペイロード伝送は失敗を見込んでいた?
サンフランシスコ沖に投下する予定だったペイロード伝送が妨害されることは、前もって理解していたと考えるのが自然だ。
仮にうまくいけば御の字だが、投下後に処理される確率は高い。
よって一連の騒動は人類をインフィニへ呼び込むためだった可能性が高いことになる。
人類をなぜ呼んだ?
当然ながら、寄生させた人類をテレポートで地球へ帰還させるのが最も容易い移送手段になるからだ。
このため冒頭の小隊は全滅せずに帰還した。
だが汚染が判明すると、ロックダウンによって師団全員が処理されることとなった。
これには暴力性を隠せず、寄生や支配と完全に隠匿することが出来ていないことが原因となる。
よって新たな作戦を練る必要性に駆られ、その解決策こそが「愛の獲得」だったということだ。
終わりに
見方にもよるが、バッドエンドの可能性が強い結果となった。
こうして新たな種による、地球支配が行われることとなる。
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