とある友人の葬儀を扱ったコメディ映画、Tyler Perry’s A Madea Family Funeralをレビュー及び評価、感想、解説。
あらすじ
友人夫婦の結婚記念日パーティを祝うために遠方へ旅行中のマデア一行。
辿り着いたホテルで偶然にもパーティの主役、アンソニーと出会うことになった。
しかし彼はパーティ当日にも関わらず、不貞行為の真っ最中だった。その上精力剤の過剰摂取と緊縛プレイにより意識昏倒。やがて懸命な手当ても空しく、急逝することとなった。
その上隣室には、これまた偶然にも彼の長男A.J.が宿泊中。彼は弟の婚約者と不貞の契りを交わしており、期せずしてダブル不倫がここに成立した。
哀しみにくれるアンソニーの妻ヴィエンヌは、マデアに葬式の一切を委託。快く受けたマデアだったが、当然ながら事態は簡単に収まることなく……。
Amazonの字幕について
デフォルトで字幕が表示されないが、右上キャプション設定で「日本語字幕」を選択することでちゃんと表示される。
機械翻訳ではなく血の通ったトランスレーションなので安心設計。
何もかもブラック

シリーズ初見に説明すると、
「ひたすら軽口を叩いては時に人生観を示す、愉快なコメディムービー」
と答える。
アメリカ系黒人社会を非常にうまく投影した会話が特徴的で、特に低所得層に類するマデア一行のジョーク合戦は見ものである。
マデア、バム、ハッティの凸凹トリオはバカバカしくて面白すぎる。
また車椅子の男ヒースローのキャラが強烈で、
- 一日52箱煙草を吸って、ノドに穴が空いた
- ギャングの嫁に手を出して脚を切られた
- 年老いても鎮静剤ジャンキー
とにかくクチの悪いこの男。
障碍者のハンディキャップなど微塵も感じない姿に、たくましさが溢れ出している。
声が出ない為にノドに当てる拡声器のオートチューン感もえらくクセになるだろう。
警察との掛け合いが闇

冒頭でジョージア州に向かう途中、一行の乗る車両は蛇行を不審に思った警官らに止められる。
ここでのやりとりが悪意ムンムンで、事あるごとに拳銃に手を伸ばしかける白人警官に闇しか感じない。
恐らく黒人なら誰しも、「あるある」とシンパシーを感じる部分だろう。
運転手のブライアンは「間違ったことをしていなければ問題は無い」と息巻くが、老練な父たちから言わせればそれは愚かな過ちだという。
しきりに警告を送るジョーたちの予想は的中し、白人警官は横暴な扱いを始める。
しかしブライアンの免許証から彼の仕事が判明すると一転、突如にこやかな笑みで道中の安全を祈るのだ。
我慢ならないと憤慨するブライアンだったが、年寄りたちはみな「諦めな」と促す。
現実問題に即した闇の深いサブテーマを、笑いと共感に変換して送られる当該シーン。
強いメッセージと痛快さを感じた。
葬式の問題

メインとなる葬儀のシーンだが、笑いもありつつ、やや風刺の色合いが濃い。
分厚いプログラムで何時間も拘束され、地獄ボイスのゴスペルや聖書の朗読会。
居眠りが頻発する遺族席に、用を足しに退出する老人たち。
挙句の果てには、請求書には9000ドルもの大金の数字だ。
こうした葬儀のシステムに既視感を覚える方も居るだろう。
日本国内でも昨今は簡易な葬儀を求める声が多く、簡略化の道を辿っている。
葬式とは故人よりも遺族のためのものであるという根底が見直されつつあり、そうした意識を訴える部分を作品から感じ取った。
墓穴の周りに集って祈りの言葉を唱えたら、すぐに解散だ
ジョーの言葉が痛快でたまらない。
彼の亡くなったいとこは未だ475ドルを75人の親戚から集められず、3年間経った今でも遺体を放置されているという。
低所得層の抱えるブラックな貧困を、明るいトーンで語るジョー。
テーマは「浮気」

- 弟の婚約者と不義を果たす兄
- 妻の親友と不倫の末に発作で死んだ父
- 人柄を見誤り、父と似た貞操観念の女性を選んだ弟
クライマックスでは、喪服姿の家族たちが胸の内を曝け出す。
誰もが傷付き傷付け、やり場のない怒りが全員の中にこだまする。
中でも母ヴィエンヌの独白は衝撃的だ。
タイラー・ペリーの作品が黒人女性層に強い支持があるのも頷ける。
彼は男性だが、子を持った母の苦しみや悩みに深い理解力を持っているのだ。
こうした意識は何も黒人だけのものでなく、世界共通で母という役割の者に大きな共感を得るだろうと予想される。
特にそれが、だらしない夫を持つ妻の身であれば尚更に。
本作のいいところは、やはりこの喧嘩騒ぎをまとめるマデアのお裁きぶりだ。
ぶつかり合うことから逃げ出させず、また容易に縁を切ることも勧めない。
時間と距離を使うことで変わるものを説くその姿は、悩める者にとっての牧師や神父と相違ない。
最低にクチの悪いトリオが、最高に輝くラストシーン。
少しもハッピーな終わりでないのに、胸がすくような気持にさせられるだろう。
おまけのマイク・タイソン

未亡人ヴィエンヌの新しい彼氏は、マイク・タイソン。
一泊旅行の行き先がベガスというのが、なんとも洒落乙だ。
評価
主に子育て世代の母親向けストーリーではあるが、男性でも十二分に楽しめる作品ではある。
コメント