【映画】108時間/事件の経緯とラストシーンを考察【考察あり:ネタバレ注意】

ホラー

断眠をテーマにしたホラー映画、No Dormirásをレビュー及び 評価、感想、解説、考察。

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あらすじ

女優を志すビアンカはある日、演劇作家としてその道で名高いアルマからのスカウトを受ける。
彼女は苦痛や狂気をベースにした演出を用いることで有名であり、その手法には多くの賛否の声が寄せられている。

今回ビアンカに求められたのは、「断眠」だ。長く眠らないことで精神と肉体を疲弊させ、疑似的な精神疾患を引き起こし、妄想の世界へ踏み入ることで別次元の演技力を手にする、というのだ。

怪しげな施設での公演を目標に、五人の男女の不眠生活が始まった。
しかし同時に、徐々に怪しげな幻覚の見え出したビアンカの身に、想像を絶する恐怖が降りかかり始める。

ビアンカ

父に電話するビアンカ

女優の卵。アルマから持ちかけられた断眠実験に加わり、公演の主役である「ドラ役」を得ることを志す。
彼女にとって主演の花形は夢であり希望だ。そうした目標のためであれば、厳しい実験にも耐えられると感じているようだ。

また精神疾患を患っている父親を持ち、元々狂気の世界との縁が深い。

セシリア

バスに乗るセシリア

ビアンカと同じく女優志望。先の公演では彼女を抜いて主役へと抜擢され、その演技力を窺わせる。
また彼女と同じようにアルマから断眠実験を持ちかけられ、それに挑む。

両親を亡くした過去があり、それが現在のセシリアを形成した出来事と思われる。

アルマ

実験を嬉々と見つめるアルマ

演劇作家。過激なパフォーマンスで一世を風靡しており、その手法は問題視もされる。

今回彼女が取り組むのは睡眠を絶つことで生まれる狂気を乗り越え、その先にある別世界への扉を開かせることだ。
限界を超えた役への没頭が、これまでにない演技を見せると信じて疑わない。

ビアンカとセシリアと競わせ、主演である「ドラ役」の争奪戦を演出する。果たして彼女らのどちらが、この狂宴の主役へと抜擢されるのだろうか。

断眠

断眠中にストレッチでリフレッシュする演者たち

貴方はどのぐらい眠らなかったことがあるだろうか?
多くの方は一徹、長くても二轍程度だろう。


作中でビアンカらが臨むのは108時間、つまり4日半だ。

これは通常であれば、とてつもない疲労感と眠気に常時襲われ、歩くことすらままならないのは想像に難くない。
気を抜けば眠りに落ち、それを互いに支え合う必要性に駆られる、当初はそう思って作品を見ていた。
実際に序盤ではそうした保護プロトコルに関して説明がなされ、実験の過酷さを物語る。


だが蓋を開けば、彼女らに断眠の厳しさを表すような仕草が一切見られないのだ。
昼も夜も全く苦にせず、まどろみに落ちたり呆けるようなこともない。

終盤の断眠から108時間近くでも、特殊メイクや不眠者特有の演技などでやつれ具合を演出することもない。
彼女らにはまったく、睡眠を絶つことの厳しさを表す証拠が見られないのだ。


もちろん精神的に異常を発する描写はあるものの、それすらも幻覚症状や悪夢にとどまる。
常軌を逸した行動や思考はほぼ見られない。更に肉体的な損耗に関しては、設定を忘れていたのかと感じるほどだ。


正直言って、不手際か手抜きにしか思えない。或いは断眠と銘打っておきながら、実際には寝ているのでないかとすら思わせるだろう。
若しくは演者への忖度ですら見え隠れしてしまう。
彼ら彼女らを酷使することへ、制作陣が遠慮しているという馬鹿げた構図だ。


断眠をテーマにしておきながら、その過酷さを塵ほども見せない。こんな体たらくでこのジャンルに挑めるほど、簡単でちょろい業界ではない。

結局オカルト

バスルームから恐る恐る抜け出すビアンカ

ホラーが観たいと思う者には、霊魂を登場させれば満足なのか?

答えは否。霊魂が観たいなら霊魂作品を見るし、そうでない場合にスピリチュアルな存在の登場は求めない。


108時間では、人間の限界を超えた断眠によって引き起こされる様々な疾患をテーマに扱うように見せかけ、その実結局はオカルトに頼った。

終盤まで見た方には周知だが、実際には霊廟じみた舞台と降霊術まがいの舞台装置だったことが判明する。
これは真摯に物語を見続けていた者への大いなる裏切りであり、作品の根底をぶち壊す愚行に他ならない。


もちろんこの手の、幻覚や疾患を扱った題材で霊魂が登場すること全てを否定しているつもりはない。しかしそれらはあくまでサブ要素であるべきで、今作のようにそもそもの基盤をすり替えるような仕組みであるべきでない。


これは幽霊作品。そうした前提を許容出来る方のみが本作を手に取るべきだ。

ホラーパート

ユニットバスから起き上がるビアンカ

肝心のホラー部分の演出はどうか。

時間の使い方

まず時間配分について言及する。

冒頭でちょっとした事件が起こり、つかみ的は飽きさせない努力もやや見られた。
しかし本題の断眠実験に至るまでは30分を要し、尚且つ恐怖演出まではそこから15分以上を必要とする。

断眠をテーマにしている作品が皮肉にも、睡眠を誘発しているという事実は笑えない。驚くほど退屈でだらだらとした前置きを耐えなければ、ホラーパートまでは辿り着けない。

恐怖演出

では実際に恐怖シーンはどうなのか。


結論から言うと低品質だ。

肝が冷えるような場面は存在せず、驚きに心臓が縮こまることもありはしない。
唯一の恐怖といえば、「このままでは尺が終わる」という満足感を得ない対価への、メタ的恐怖しかない。

評価

火の中で抱き合う女性たち

凡ホラー作。
全てのホラーを網羅したいと願う方にはお勧めかもしれない。

★★☆☆☆
二つ星。
Amazon.co.jp: 108時間(字幕版)を観る | Prime Video
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以下、考察及びネタバレ注意。






経緯

公演の成功を祝う演者と監督

ここでは物語の経緯をおさらい、解説しておこう。
ネタバレ感が強いので未見の方は注意。

ドラが亭主を刺殺、自宅に火を放つ。
娘セシリアを間一髪で持ち直した理性によりバスタブで守り、自身は絶命。
アルマによる断眠実験開始。マーリーンを108時間断眠させることでサブリナを呼び出し、霊界とのコンタクト方法を確信。
また実験後にマーリーンはアルマの信奉者となった。
アルマがセシリアの過去を知る。また彼女自身が母とのコンタクトで心中時の心境を知りたいと願った。
舞台となった施設での公演を考案。サラ、フォンソ、セシリアを起用するが、セシリアのみ霊界への適性がないことを知る。
セシリアの勧めでビアンカを起用。一見して彼女らに主演を競わせたが、実際にはビアンカ以上の適性はいなかった。
アルマらがビアンカの脱落を予期。マーリーンを呼び出し、彼女を連れ戻すことに協力させた。
密かに公演客を集客する。
ドラの憑依が成功。ビアンカは母の思いをセシリアへと代弁し、公演は大成功を収めた。
フォンソに憑依した暴力的な霊魂による放火。
これはアルマが観客にすら「安全ネット」を放棄するように求めたことになる。



以上が顛末になる。

ラストシーンの意味

ライターの火を見つめるビアンカ

火の向こうには彼らが見える

フォンソはこう語ったが、ラストシーンの意味するモノは二通りかと考えられる。

1.疾患の後遺症

霊界とのコンタクトで継続的な疾患症状がもたらされた説。

これは父との生活で狂気に触れることの多かった、ビアンカならではの後遺症と思われる。

2.実験中


火の向こうに彼らが見えるのであれば、すなわち断眠中である。
ライターの向こうを覗いて悲鳴をあげたビアンカ。つまり断眠実験はまだ、終わりを告げていない。

公演の成功や放火、セシリアの過去。
そういった全ての主観的事実は妄想世界の出来事であり、未だ断眠の実験フェーズは中途段階にある。

108時間を迎えるのはこれからだ。

終わりに

不明瞭な部分はいくらかあるが、全てに回答が用意されているようには感じない。
謎を噂させるためのからくりと受け取るのが良さそうだ。

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