近未来SF映画、Oblivionをレビュー及び 評価、感想、解説。
あらすじ
人類は地球を失いかけている。
地球に赴任した、たったふたりだけの人類。それがジャックとヴィカ。
彼らの採水プラントを防衛する任務も、残すところあと僅かに迫っていた。
ある日奇妙な飛行物体が危険区域に不時着。これをジャックは危険を承知で探索した。
すると宇宙船にはコールドスリープ中の人間が幾人も居り、また奇妙なことにNASAの刻印が見えた。
ジャックが唯一救えたのは、ジュリアという女性だった。
彼女を助けたことで、彼らの運命は大きく変わっていくことになる。
ジャック・ハーパー

採水プラント警備で地球に赴任しているエージェント。
地球上での任務に支障のないよう、五年前にテット司令により記憶を抹消されている。
記憶の抹消があった事実については認識している。
その任期も二週間を切っており、あともうわずかで母なる星を去ることに心残りがあるようだ。
ヴィカのナビゲートを受けての現地任務が主で、飛行ユニット及び二輪車型走行ユニットの操舵や銃火器での射撃、身体を使った運動性に優れている。
ときおり脳裏にフラッシュバックする妙な光景に既視感を抱いている。
知らないはずの女性と滅びる以前の地球を観光するモノクロームは一体、なにを意味するのだろうか。
ヴィクトリア・オルセン

ジャックと共に警備任務にあたる相棒。
主に通信担当であり、レーダー探知やドローンからの映像で現地詳細を解析して的確なサポートを受け持つほか、テットの司令官からの命令をジャックへ橋渡しする役目もある。
規律を遵守し、職務に感情を持ち込まないタイプ。彼女もジャックと同じく任期終了まで二週間だ。
相棒であるジャックとは同僚以上恋人未満の微妙な関係性であり、互いに踏み込み過ぎないように自制している節がある。
ジュリア・ルサコーヴァ

60年前から飛来したNASAの脱出ポッドに搭乗していた乗組員のひとりで、唯一の生き残り。
デルタスリープから目覚めたばかりの彼女は、地球が滅びつつあることも、スカヴとの大戦も知らなかった。
ジャックの走馬燈に度々現れる女性であり、謎が多い。彼女との邂逅で物語の展開は火が付いたように大きく広がっていくだろう。
ネタバレ概略
- 1.過去半世紀前、スカヴの侵略により月を失った地球。大地は枯れ、砂漠が拡がり、大規模な地震によって多くの命が失われた。
人類は勝利したものの、もはや地球は居を構えるに最適な土地ではなくなった。
ジャックとヴィカは宇宙ステーション・テットから派遣された兵士であり、採水プラントの防衛任務にあたっている。 - 2.不時着スカヴとの闘いで故障したドローン戦闘機の修理を要請されたジャック。飛行ユニットで向かった先には、不時着したボットが確かに居た。
修理を済ませ、偵察任務へ戻っていくドローン。 - 3.穴倉同じく故障したドローンが、砂漠の中で信号を出し続けている。追加で修理に向かうジャックだったが、どうやら地下の穴に墜落したようだ。
二輪ユニットのウィンチでロープを張りながら地下へ潜るジャック。 - 4.罠しかしドローンは見当たらず、妙な胸騒ぎが起こる。その時ジャックは、信号ユニットだけが床に置かれているのを発見。つまりこれは、スカヴの仕掛けた罠だったのだ。
- 5.増援危うい所だったものの、増援で現れたドローンがスカヴを一掃。ジャックは何とか地上へ戻ることに成功した。
- 6.郷愁美しい大地に惹かれ、テットに戻りたくないジャック。だが反して、ヴィカは任務にあくまで忠実だった。
残り二週間で宇宙へ戻ると思うと、ジャックには残念な気持ちが溢れた。 - 7.破壊明け方、採水プラントの一基が破壊された。レベル6のメルトダウンを起こした当該施設は、もはや修復不能のダメージを負う。
現地を視察するジャックはそこで、未確認の信号をキャッチする。 - 8.展望台発信源を探るとそこは、かつての展望台のような場所だった。
既に廃墟と化したその施設を探るジャック。そこでは更に、別の座標を示す信号が送られていた。
しかし当該座標にはなにもなく、ただの荒涼とした砂漠が広がるだけだった。 - 9.隠れ家ジャックは気晴らしに、こっそりと自力で立てた質素な小屋を訪れる。貴重な緑に囲まれた僅かなオアシスでのひと時に癒しを感じるジャック。
だがその時、空を謎の飛行物体が横切った。 - 10.NASA墜落現場を強引に偵察するジャック。残骸はコールドスリープ装置と宇宙船で、そこには解体されたはずのNASAのロゴが見えた。
遅れて現場に到着したドローンだったが、そこで何故かAIは生き残りの睡眠装置を破壊し始める。 - 11.ジュリア身を挺してなんとか一台だけ守れたコールドスリープ装置からは、ジュリアという女性が目覚める。彼女は半世紀前、つまりスカヴとの戦前から長期睡眠に入っており、地球の現状を知らないようだった。
- 12.記憶テットから任務を受諾した際、ジャックとヴィカは記憶を消去されている。任務のためと割り切っていたことだったが、ヴィカにはジュリアに関する記憶が残っている節があった。
ジャックの中に、真実を知りたいという欲求が芽生える。 - 13.包囲ヴィカの制止を振り切って、ジュリアと共に墜落現場を再度訪れるジャック。
しかしそこにはスカヴが待ち伏せており、彼らは為す術なく捕らえられてしまった。 - 14.正体スカヴのリーダーはジャックへ素顔を見せた。なんとその正体は、紛れもなく同じ人間だったのだ。
奇怪な異装はステルス技術のための装備であり、異星人と思いながら相対していた生物は、同じ地球の輩だったのだ。 - 15.要求リーダー=マルコムの要求は、「核爆弾を積んだドローンを、テットに帰還するよう認証しろ」というものだった。
ここでマルコムは敢えてジャックとジュリアを逃がす。曰く、「汚染地区に真実がある」と。 - 16.妻信号地だった展望台を訪れたジャックとジュリア。そこでジャックは、たびたび感じていたフラッシュバックのデジャヴが、まさに今この場所だと確信する。
そして全てを思い出させるためにジュリアは、半世紀前にこの場所で交わした婚約の誓いを口にしたのだった。 - 17.別離テットに記憶を書き換えられていた。
事実に行き当ったジャックは、ベースのヴィカに、共に逃げることを提案した。だが彼女はそれを断り、任務に背いたとしてジャックの謀反をテットに報告。
その時、起動したドローンの射撃がヴィカを貫いた。 - 18.ドッグ・ファイトドローンを無力化したジャックとジュリアは、追加で現れた追っ手のドローンから飛行ユニットで逃げる。
迫り来る全ての追っ手を振り払ったジャックだったが、飛行ユニットも損害を受け不時着した。 - 19.ジャックとジャック不時着した付近に見覚えのある飛行ユニットを目撃したジャック。なんとそこには、自分と同じ姿をした人間の姿があった。
話し合いに応じないジャックは襲い掛かり、その巻き添えでジュリアに銃弾が放たれた。 - 20.同質なんとか自分自身を制したジャック。飛行ユニットで「52号」を自称し、登録されたベースへ帰還要請を出した。
するとそこには、死んだはずのヴィカと同じ姿の人間が、何も知らないような顔で彼の帰りを待っていたのだった。 - 21.手当応急処置キットを取り出したジャックは、ジュリアの待つ砂漠へと引き返す。処置は成功し、ジュリアは生き延びる。
ジャックは緑豊かな秘密の隠れ家へ彼女を招待すると、そこで過ごす未来を夢想した。 - 22.逆襲自分のクローンをもって、自らの故郷を破壊させられていたジャック。彼はマルコムの元へ戻ると、核爆弾を輸送するための認証作業を行うこととした。
- 23.急襲ドローン発射まであと一歩のところで、人間軍の隠れ家がとうとうテット側に露見した。襲い来るドローンによって、次々に死んでいく人間たち。
全てを制した時には、瀕死のマルコムと壊れてしまったドローンが残った。 - 24.従順テットの希望は、ジュリアを連れてジャックが帰還することだ。
そこで長期睡眠装置内に核燃料電池の爆弾を仕込み、自らを犠牲にテットを爆破する計画へ変更することとなった。
別れの言葉を交わす夫妻。 - 25.追憶半世紀前、NASAのミッションでテットを調査していた記憶を取り戻すジャック。
停止の効かない母船に自らとヴィカが残り、長期睡眠中の仲間たちだけでも地球へ送還したのが全ての事実だった。
テットの中に吸いこまれ、記憶を失った過去を思い出したジャック。 - 26.決着テットのマザー=サリーと対話するジャック。コールドスリープ装置から現れたのは、ジュリアではなく、マルコムと核爆弾だった。
「くたばれ サリー」 - 27.小屋ジャックの隠れ家で目覚めたジュリア。自分を助けて、犠牲になった夫を想う。
それから数年後。お腹の子どもを無事に生んだジュリアの元に、懐かしいあの男が現れる。
それは砂漠で出会ったもうひとりの、52号のジャックだった。
核の炎で失われた楽園

大地は枯れ、海は干上がり、過去の建立物も軒無き朽ち果てた。月を失ったことで起きた天変地異や核放射能のもたらした損害は、計り知れぬ爪痕を地球に残したのだ。
この失われた楽園に人類はもはや戻れないことを悟った。土星の月、タイタンへの移住が残された僅かな望みである。

だが一方で、汚染を免れた地域にはこのように恵まれた土地もわずかながら存在する。この青々と緑の茂る豊かな一角をジャックは愛し、簡素な小屋を作っては気晴らしに訪れている。
生い茂る木々の匂いや水面の静けさ、そしてそこに集う小さな生物たちの気配。
ジャックの心を地球に引き留めるのはこれらの素晴らしい自然であり、宇宙にはないものだ。
人間の中に伝えられてきたDNAはこれらの恵みを愛おしみ、享受したいと願う本能が備わっているのだろうか。
月と天変地異の因果関係
あまり馴染みのない方は冒頭で「月が壊されました。地震が起きました」というくだりでクエスチョンマークが出るかもしれない。
ここは作中での説明にリソースを割り振らなかったミスかもしれないので念のため小話として解説しておく。
興味の無い方は次項までスキップを推奨する。
そもそも太陽を中心とした「水金地火木土天海」の太陽系自体は奇跡的なバランスによって成り立っており、それは月の存在も加味しての話だ。
地球と月は互いの引力でギリギリ三番目の惑星位置をキープしており、月が壊れればいずれ、彗星や他の惑星からの引力によって現在の公転軸からの脱落を免れない。
そうなれば母なるこの母星は、漆黒の宇宙という冥夜に彷徨う冷たく冷え切ったはぐれ星になるか、灼熱の裁きによってあらゆるものの焼き尽くされる煉獄へと化すだろう。
公転で起こる問題の前に、自転が狂った影響で人類は死に絶えるかもしれない。
作中では大きな変動の無い描写だったが、識者による予想だと結果はもっと悲惨なものだ。
月が地球の自転速度が速まり過ぎないように、ブレーキの役目を果たしているのはご存知だろうか。その制動力が失われた地球は凄まじい勢いで自転速度を速めていくと言われている。
一日の長さは24時間から20時間、12時間とどんどん短くなり、太陰暦や太陽暦を用いたカレンダーは役に立たなくなるかもしれない。
自転が速まると暴風が吹き荒れる。大気圏の空気と地表の速度のずれが凄まじいことになるからだ。
木星のような秒速180mの風が吹くかもしれない。連続的に風速90m以上を浴び続ければ、全ての高層ビルは粉の様に瓦解するとシミュレーションされている。
更に時点の軸自体もただでは済まないだろう。23.4度という絶妙な傾きを常日頃支えていた相棒を失った地球は、その軸角度を安定させることが出来なくなる。
見慣れた四季は失われ、日によって大寒波や灼熱の暑さがランダムにころころと姿を見せる。
更に潮の満ち引きに月が関与しているのは周知だが、地殻のマントルや海底のプレートにも影響があることをご存知だろうか。
これらの安定性を欠いた大地では大地震が頻発し、大陸が消えては現れる。露出したマントルに触れた海水は有害な硫黄を吐き出しながらいずれは枯れ尽くすだろう。
作中でさらっと流していた地震の話は以上の事柄だ。これらはあくまで学者の予想で、全ての悪材料が実際に起こり得るかどうかは、その時にならねばわからないだろう。
言えることは、オブリビオンの世界の様に安定した地球の姿は非常に幸運なケースであったということだ。
スカヴ

暗闇では光る目で獲物を探し、黒塗りのアーマーで身を固めた侵略者。その姿から映画「プレデター」を連想した方も少なくないだろう。
人類との大戦から60年、生き残ったスカヴは地球上での妨害工作に勤しんでいる。彼らに破壊された採水プラントは少なくなく、その防衛こそがジャックとヴィカの最大の任務だ。
もはや敗残の兵と化したこの侵略者たちだが、何らかの計画を進行している節がある。レーダーでの観測を避ける為に地下に潜ったスカヴたちの目論見は定かではないが、人類にとって不都合なプランであることに疑いはない。
デジャヴ

ジャックはふとした折に走馬燈のようなものを見る。大戦で滅びる以前の美しい地球で、名前を思い出せない女性と過ごす休日の風景だ。
60年前のモノクロームは人々の活気に溢れ、輝かしい英知の遺産を見せている。
この走馬燈の残骸をある日ジャックは発見する。夢に見る姿と違い、今はもう滅びてしまったその展望台。
頻度を増す既視感に、ジャックはいつしか真実を求めたいと思うようになっていった。
構成

中盤までは宇宙モノのSFらしからず、地球上での任務がメインになる。後半パートではしっかり宇宙へ飛び立つので、宇宙マニアにも安心の設計だ。
ストーリー自体は起承転結を意識し、しっかりとした構築になっていると感じた。多少設定の都合にツッコミを入れたい箇所もあるが、そこは堪えて視聴すれば面白味を損なうことがないだろう。
物語の結びでは、若干の違和感を感じるかもしれない。筆者自身もやや納得のいかないような気がしたが、大事の前の小事ということだろうか。
ボットの性質

本作のドローンはブレていない。テットの指令に非常に忠実であり、プログラムされた行動を取ることに疑問を持たない。
作品としてはこの設定に疑問は無い。
しかしゲーム「ニーア:オートマタ」に登場するポッドのような「機械に芽生える自我」であったり、「スターウォーズ」「インターステラー」 のような「人間臭いロボット」を期待してしまっていれば、肩透かしをくらうハメになるだろう。
これはいわゆる機械萌えと呼ばれる趣向で、一定数のコアなファンを持つ。
これは別段、美少女アンドロイドのことを指すわけではないと筆者は定義している。
メカメカしいフォルムのロボがフランクなお喋りを見せたり、普段は冷徹に命令遵守のAIが定義されたプロトコルに反して感情のようなものを見せる瞬間のギャップにヤラれる手法だ。
これは昔からある演出方法だが、破壊力は今でも抜群だ。
だが前述したが、本作のAIはブレない。この点で良い意味の裏切りを期待してしまっている方が居るとすれば、予め言及しておこうと思う。
評価
良SF作品。
宇宙好き、アクション好き、伏線作品好きと色々な層に訴えかける一作であったと思う。

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