ペテン超能力者たちを暴くスリラー映画、Red Lightsをレビュー及び 評価、感想、解説、考察。
あらすじ
博士号を持つマーガレットとトムは、大学で教鞭を振るうかたわら、超常現象に悩まされる人々を訪れては問題を解決していた。
しかし彼らは決してスピリチュアルな能力者ではなく、あくまで科学の見地からそれらを見破る側の者だ。事実、過去三十年間で疑いようのない奇跡を見たことなど、一度もないとマーガレットは言う。
ある日引退していたサイキック、サイモン・シルバーが三十年ぶりにステージに上がるとのニュースが。世間は誰もがこの伝説の超能力者を噂した。
シルバーのペテンを見破ろうと躍起になるトムだが、ことのほかマーガレットは消極的だった。普段と違う様子を見せる彼女に、トムは独断でシルバーを調査しようとするのだが……。
マーガレット

大学教授。超常現象を科学的視野で分析することを教えている。
大多数の怪異が説明のつくペテンであるとする一方で、全ての超常現象を否定している訳ではない。
だが彼女の携わった案件に関しては、漏らすことなくインチキであったと語る。
十数年間、意識不明の息子がいるようである。
トム

博士号を持つ、マーガレットの助役。自立した別の道を辿れば経済的にも地位的にも余裕のある生活を送れるものの、彼女の仕事を手伝うことを選んでいる。
あらゆる超常現象に懐疑的であり、この世のペテンを全て暴こうという気概が見える。
スリラー系

主に前半部ではマーガレットとトムが超常現象のペテンを暴くことになるが、ある程度進行した場面以降はそれらが一変。襲い来る怪奇現象とシルバーに立ち向かうことになる。
それら場面ではホラーとまでは言わぬものの、かなり不気味で怪しげな気配感を漂わせることに成功している。
大半はサイコキネシスによる念動力で事象は起こるが、一部ではスピリチュアルなシーンも含まれる。だがそういった場面でも単純な怖さよりも、疑いや驚きへのフォーカスが強い。
恐怖映画が苦手な方でも視聴には差し支えないと思われる。
徐々に追い詰められていくトムは、次第に平静を失い、疑心暗鬼に陥り始める。シルバーとの対峙を経て、彼が見るものは何なのだろうか。
ブームの記憶

マーガレットはその慧眼によって、あらゆる超常現象の裏に隠された真実を即座に見破る。
それら論理は非常に合理的且つ、とても素早く導かれる。
現実でも数十年前はテレビショーで、多くのサイキックがお茶の間を沸かせた。それら存在を肯定する者と否定する者で大きな対立を生み、単一のテーマで二時間枠を占めることも少なくなかった。
日本国内の現在では超能力ブームは下火であり、また怪異を扱う番組がこぞって撤退を見せた。これはある一件を皮切りにしたとされているが、本作とは関係が無いので割愛する。
当時の番組を見ていた世代にとって、この手の題材を取り扱う作品は懐かしい過去を連想させるだろう。当時マーガレットのような博識な知者が居たならば、かなり心霊肯定派にとってはやり辛い相手だったはずだ。
消えたオカルトブーム。現在ではぽつぽつとそれらを取り扱う番組も増えてはきたが、もう以前のようなセンセーショナルぶりを見せる未来は来ないだろう。
本作ではそうした、猥雑で楽しい、失われた過去をもう一度やり直させてくれる。
驚愕のラスト

ミステリーやサスペンスにとって、伏線とその回収は一大イベントである。クライマックスでこれまでの仕掛け罠を一斉にほどいてゆくその瞬間こそ、もっとも盛り上がりを見せると言っても過言でない。
本作もキッチリと、映画としてのエンターテイメント性を保っている。
一方で段階が進行するほど、台詞回しが象徴的になっていく一面もあった。はっきりと明言を避けた霞のような言葉で真相を剥き出していくので、やや明瞭感に欠けることになる。
その為理解度の不足したまま流し見してしまうと、なんとなくぼやけた印象でエンドロールを迎えることは不可避でないかと感じる。
ライトユーザー向けに、もっと噛み砕いた表現方法が備えられていても良かったとは思った。
評価
多くの方に勧められる一作と思う。

以下、考察及びネタバレ注意。
トムの謎

実際にはシルバーはペテン師であり、真のサイキックはトムだった。
この事実に基づいて解説しよう。
無意識?
彼が能力発現に気付いたのがシルバーとの邂逅後なのか、或いは以前から自覚していたのかという疑問点。
このモノローグによって不明瞭になっているが、実際には以前から自覚していたと考えるのが有力に思える。これは後段の彼の目的についてを見れば、納得できると思われる。
トムの目的
マーガレットはこう問うた。
研究用の予算もロクに下りず、かなり冷遇を受けているマーガレットの研究室。本来であれば博士号を持つトムは早々に自分の仕事を持ち、独立すべきだった。彼女のコバンザメをしていても、輝ける未来とは遠い。
一般的な世俗感を持たない彼に対してマーガレットが感じていたのはこうした疑問であり、しかし彼は答えなかった。
ではトムはいったいどういった目的で、彼女の助手を務めていたのか。
それは、
これこそがトムの求める全てであり、それ以上はなかった。
トムには前半のペテン師たちが見せたような、”神の恩寵による治癒能力”であったり、”憑依体による自動筆記”の能力は無い。
彼が見せたのはもっと暴力的で荒々しく、とりたてて人を救うに適したような一面はなかった。
これを彼は超能力の本質であると理解しており、そこに例外の余地がないことを本能的に理解していたと思われる。
シルバーをよく調べぬ内にペテン師と断じていたのは、この為だろう。
また或いは、作中では明示されないがテレパス能力者であった可能性もある。
いずれにせよ彼にとって超能力は忌むべき未知の力であり、その悩みを共有する人物を生涯かけて探すことを目的としていた。
名誉や地位にこだわらなかったのは、この為である。
マーガレットの死
実態はペテン師であったシルバー。つまり彼女の死は他殺によるものでなく、示唆されていたように奇病による自然死だ。
では何故ここまで、トムはシルバーにこだわったのだろうか?
シルバーへの追求
モノローグで語るこれらは、マーガレットが昏睡状態の息子に対して罪悪感を感じていた事実に対してであり、これがシルバーへのこだわりを見せた理由だ。
シルバーをペテン師であると暴くことで、彼女の三十年来抱き続けた罪の記憶が浄化されると考えたトム。しかし実際には、彼女はそうした事実を目の当たりにするまえに逝った。
弔い合戦としての意味合いが強かったように見えるが、マーガレット存命の時にもやけにこだわったのはこの為だろう。
だが疑問として、マーガレットが過去の確執を語る以前からトムが躍起になっていたように見える部分が挙がる。
これはトムのリーディング能力(霊視)を示唆していると思われ、彼には人の口にしない事実すら視えていた可能性がある。
維持装置
ラストでマーガレットの息子が眠る病院を訪れると、そっと生命維持装置を切るトム。
この行為は単に生殺与奪を驕った采配者であるわけでなく、彼がサイキックであるという事実に基づく。
これ以外の解釈は無い。マーガレットの息子は昏睡のさなか、霊体を飛ばして必死に母親に願っていた。
つまりシルバーの脅迫じみた文言はその実的を射ていた。が、それを実際に聞いて語るのと、単に人を脅すために使うのとではまるで意味合いが異なる。
トムはこの部分も許せなかったのだろう。
彼には、声無き者の声が聞こえる。その声に従って逝かせてやったのだろう。
言うべき言葉
前述のモノローグをもう一度見直そう。
彼は単純な慰めとして、”何か”を口にしようとしたのだろうか?
ここで言う「何か」とはマーガレットとの会話であったように、
を指す。
彼が自分を許せないと思う部分と、超能力者であるという事実。これらを照らし合わせ、更に幽体離脱のシーンをプラスアルファしよう。すると、
このような推察に行き当る。
つまり彼は死後の世界が在ると知っており、そこでマーガレットの息子が安らかな平穏へと導かれることも知っていた。
にもかかわらず、彼にはそれを口にすることが出来なかった。これは、
これを慮った。
彼らの間柄では軽々に死後の世界や超常現象を認める言葉など交わしようもなく、それが例え慰めだとしても口にすることは憚られる。
ふたりの関係性を保つ為に口にしなかったトムだが、それは最大の後悔を残した。
終わりに
なかなか衝撃的などんでん返しを見せた本作。
見直すと、シルバーが最初の舞台で狼狽していたりと芸が細かい。

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