孤島で繰り広げられる犯罪捜査映画作品、Shutter Islandをレビュー及び 評価、感想、解説。
あらすじ
連邦保安官テディとチャックはボストン沖の孤島へ、脱走した女囚人を捜索する任務で派遣された。
物々しい警備と只ならぬ雰囲気に包まれたこのシャッターアイランドは、通常回復の見込みの無い精神病に侵された凶悪犯罪者を受け入れることで有名だ。
院長は精神医学に卓越した人物らしく、国内外から助言を乞われる優秀な医者らしい。
脱獄した女囚、レイチェルの捜索は難航する。密室に近い状態から瞬時に消えた彼女には、協力者が存在すると踏んだテディは、囚人及び職員の聞き取り調査を開始した。
しかし結果は芳しくない。誰も彼もが関与は無いか、知らぬと白を切るのだ。
何者かの意図により、口裏を合わせさせられている。テディが疑いを持つのに時間はかからなかった。
更にはテディと過去に因縁を持つ、レディスという男の存在。彼がこの島で療養を受けていることを事前に調べ上げていたテディは、レイチェル捜索の任を一番に願い出ていた。
無き妻の仇であるレディスに、あと一歩で手が届くところまで来た。
公務、そして私怨のために、テディとチャックは閉ざされた島の謎を明らかにしていくのだった。
テディ・ダニエルズ
連邦保安官。過去に火事で妻を亡くしており、放火の犯人と思われるレディスに制裁を加える為にシャッターアイランドの任務を受けた。
強引で荒っぽい手段を取りがちで、その度にチャックにとりなされる。
ノルマンディー上陸作戦で歩兵連隊の一員であった過去があり、当時の痛ましい光景によって心に傷を抱えている。時折フラッシュバックする記憶の残滓は、未だ彼の中では色褪せずに生々しい景色のままだ。
チャック・オール

連邦保安官。テディを「ボス」と呼び付き従う。孤島へ向かう船で乗り合わせる以前は面識は無かったようで、今回の任務で初めてバディを組むことになった。
レイチェル・ソランド
脱走した女囚。自らの子供三人を死なせた恐ろしい過去を持つ。
療養施設にいること自体を認識できず、周囲の職員や囚人は牛乳屋や配達員だと思い込んでいるようだ。彼女の世界では、この孤島はバークシャーの自宅であり、未だ子供たちは元気で暮らしていると信じているようである。
ネタバレ概略
- 1.渡航水恐怖症に怯えながらも、テディは船に乗り孤島へ向かう。船で落ち合った相棒となるチャックと共に、精神病棟から消えた女囚人を探すために。
- 2.携帯禁止刑務所内での安全のため、身につけた拳銃を預けるように促される捜査官たち。訝しいものを感じつつも、彼らはそれに従う。
- 3.院長テディらはまず、院長室へ案内された。消えたレイチェル・ソランドの人となりを聞くために、やや怪しげな老人の話に耳を傾ける捜査官ら。
- 4.手引密室状態の自室から逃げ出すには、職員の協力が不可欠。
テディは刑務所の従業員らを怪しみ、彼らに聴取を行った。 - 5.疑念院長と同席したナーリング医師の話を聞き、疑念の高まるテディ。「患者の個人的な情報は、守秘義務によって明かせない」そう言い切る彼らには、何か後ろ暗い秘密があるように思えてならない。
- 6.嵐大きな嵐が来る。もはや本土に戻ることもかなわない捜査官たちは、今度は患者ひとりひとりに聞き取り調査を行うこととした。
彼らは職員らと寸分違わぬ証言を繰り返したが、あまりにも画一的なその答えに増々テディの中の疑念は大きくなる。 - 7.復讐テディが聞き込みの中で口にした、”レディス”という人物について尋ねるチャック。重々しく口を開くテディからは、個人的な思惑が語られる。
テディにはかつて妻がおり、放火によって殺された。その後犯人と思しき男が収監されたのが、まさに今居るこの島なのだそうだ。
テディは個人的な復讐を果たすため、進んでこの任務を受けたという。 - 8.発見「レイチェルなど、はじめから居ないのでは?」チャックはそうテディに陰謀論を唱えたが、そこで驚くことに、なんとレイチェルが発見されたという一報が入る。
失踪人と面会すると、彼女はやはり元来の妄想癖がひどく、状況を聞き出せるような状態ではなかった。 - 9.頭痛光に過敏な反応を示し、テディは倒れ込む。院長の処方した薬を飲むと、彼は悪夢の中に引き込まれていった。
- 10.探索目覚めると朝だった。嵐の被害は酷く、誰もが倒れた木々の撤去や改修作業を行っている。
忙しい職員らの目を誤魔化すには絶好のチャンスと見た捜査官たちは、重犯罪者の収監されるC棟へ赴くことにした。 - 11.再会ある檻の中で泣いている男にテディは気付く。彼は以前、情報屋として使っていたジョージ・ノイスだった。
既に司法取引で釈放されたはずの彼が再び収監されていたことで、テディは大きく取り乱す。ジョージは言う、「お前のせいだ」 - 12.灯台海岸沿いに建てられた怪しげな灯台に、全ての答えがあると踏んだテディ。だがチャックは危険な行為であるためこれを止める。
すると目を離した隙に、一瞬の内にチャックは消えていた。テディは崖下に倒れ伏した彼の姿を頼りに、崖を降っていく。 - 13.洞穴崖下にチャックの姿は無かった。そこでテディは、小さな洞窟に気付いた。何者かの気配がある。
恐る恐る確かめると、そこにはなんとあの失踪人、レイチェルの姿があった。 - 14.本物洞窟のレイチェルは、自分こそが本物だと言う。実際には患者でなく医師だった彼女は、何かの陰謀から逃れるためにこのほら穴で暮らしているというのだ。
そこで彼女は、テディが院長から貰った薬や煙草に、何らかの精神作用を及ぼす薬品が混入させられている可能性を示した。 - 15.帰還警備隊長に発見され、刑務所へ戻ったテディ。もはやあらゆる疑念が確信へと変わった彼は、ナーリング医師に鎮静剤を注射し、閉ざされた病棟から逃げ出した。
- 16.囮灯台へ向かうため、院長の車を爆破して気を引く作戦に出るテディ。
そこへ妄想の中の少女と亡き妻が現れ、彼らは爆炎に呑まれていった。 - 17.真相灯台でテディを待ち受けていた院長は、全ての真実を話した。
「君は三年前からここに入院している。君の名前はレディス。子ども三人を殺した妻を、またその手で殺めた慚愧で精神に異常を来たした患者だよ」 - 18.医師消えたチャックがそこで現れる。陰謀のために消されたと思っていた相棒は、実は彼の主治医だったのだ。
既に、自分の主治医すらも覚えられないほどの状態にレディスは陥っていたのだ。 - 19.宣告院長が数日間テディ捜査官という猿芝居に加担したのは、レディスが妄想の中で事件を完結し、新たに踏み出すきっかけになると信じていたからだった。
しかし一向に改善の見られない彼に待ち受けるのは、もうロボトミー手術しか残されていない。 - 20.最期最後のチャンスとして、薬を飲んで眠ったあと、全てをレディスが受け入れられるか否かが争点となった。
彼は眠りに落ち、刑務所の前で再びチャックと出会う。 - 21.執行「島を出ようチャック」どんな治療も効果を見せなかったレディスに、ロボトミー手術の指示が下る。
しかし彼が最期にどのような記憶を持っていたかは、彼自身にしか分からない。
閉鎖的な島の人々
彼らは果たして、本当にレイチェルを探し出す気があるのだろうか。
捜査中にテディは何度も憤る。協力するそぶりを見せながらも、肝心な情報については秘匿する院長たちに不信感はどんどんと増していく。
レイチェルのことだけではない。不可解な暗号、怪しげな脳手術の噂、院長から飲まされたアスピリン。
恐るべき陰謀によって望まぬゲームへの参加を強制されていることに気が付いた時、テディの中の漠然とした疑惑は形を伴った確信へと変わっていく。
秀逸な空気感
物語をすすめる内、凶悪犯を収監した精神病棟を扱う題材にしては、静的なシーンが多いことに気付くだろう。
我を見失って身が千切れんばかりに暴れ狂うような者はおらず、引き攣った笑い声がこだますることもない。患者たちは誰もが静寂を携え、しかし内に秘めた狂気をちらりと垣間見せる。
対比するように動的なのは加熱していくテディの捜査手法だ。
威圧し、暴走し、時に暴力で示す。
およそ連邦保安官として許されない振る舞いを見せる彼に、チャックは戸惑いを隠せなくなる。
それらに呼応するかのように、襲い来る頭痛は頻度を増し、眠る度トラウマが回想する。
段々と島の狂気に侵されていくテディ。全てが解決したとて、果たして無事にこの島から出ることは出来るのだろうか。
違和感演出

今作ではあらゆる要所で「違和感」をもたらす演出が仕掛けられている。
逆戻りする紫煙、目に見えないコップの水を飲む女性、死んだはずの妻の幻影。
これらは全て伏線である。不気味な中に、どこか儚く美しい感覚をおぼえるものが多いこれらに注目すれば、なお一層物語を楽しむことが出来るだろう。
真相は

ラストシーンを迎えた我々には、二通りの受け取り方が残される。
- レディスは妄想癖の患者で、妻を殺した悔恨で気が触れた
- テディは実在しており、孤島で行われた精神操作によってレディスだと思い込まされた
額面通りならば1.であり、更に深読み派には概ね2.が支持される。
どちらを選んでも個人の主観なので誤りではないものの、作中で示されるエビデンスからは、やはり1.の説が濃厚になる。
2.を選んでも齟齬は無いものの、主観視点であるレディスの見たものが圧倒的に信憑性に欠けるため、実際に起きた事実というものが拾い集め辛い。
よって陰謀により精神を破壊されたと示す証拠はいささか不足気味だ。
またロボトミー手術直前に保っていた意識に関しては、
以上の言葉から、間違いなく一連の事件についての記憶は有していたと思う方が都合が良い。
彼はロボトミーによって、狂った自分に始末をつけようと試みたのだろう。
ロボトミー手術とは

そもそもロボトミー手術とは何なのかと言うと、
こう言われていた。
言われていた、というのはもちろん過ちだったという意味だ。
実際にこの手術は単なる脳の破壊行為でしかなく、術後の患者が大人しくなった、というのも単に重要器官を破壊されたことで植物状態に近くなったというだけのことだ。
しかしこの危険な傷害行為を以前は聖杯として崇め、多くの医師が採用していたというのだから驚かせられる。
主に統合失調症の患者向けに採用されることの多かったこの技術は、20年間に渡って世界各国で扱われた。
ロボトミー手術で死ぬのか?
作中のレディスは「善人のまま死ぬ」ことを選んだが、もちろんロボトミー手術の目的は安楽死ではない。
術後の副作用で死亡するリスクもいくらかあったものの、実際には生還する可能性が高い。
よってレディスが望んだような甘い死はもたらされず、廃人のような姿で生きていく公算が高い。
もっとも彼が、「誰にも邪魔されない自分だけの世界」を求めていたとしたらば、話は別だが。
評価
主演、助演、端役すべての演技力が光る一作だった。
ストーリー構築や演出も素晴らしく、万人にお勧め出来る作品と言っても問題ないだろう。

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