FBIとその協力者で連続殺人鬼を追うサスペンス映画、Solaceをレビュー及び評価、感想、解説 、考察。
あらすじ
延髄を突かれた死体。
既に数件の犠牲者を出している連続殺人を調査するFBIだが、現場には一切の遺留品が見当たらず、指揮するジョーはある手段を用いることとした。
緑豊かな自然の中で暮らすジョンを訪ねるジョーとキャサリン。既に引退した元医師のジョンは、かつてジョーと相棒を組んでいたサイキック捜査官。彼の手腕で解決した事件は多く、FBIからも一定の信頼を置かれている。
しかし事件の捜査は一筋縄ではいかなかった。
挑発するように新たな犠牲者を生み出しては、現場に意図の不明な書置きを残す犯人。
やがてジョンはこの殺人鬼の正体が、通常の人間の範疇を超えていると気付き……
リーディング能力

主にジョンのリーディング能力で現場の痕跡を読み取り、犯人を追い詰めることでストーリーは展開してゆく。
触れた対象の過去と未来にアクセスする能力であり、連続した長時間映像としては出力出来ないものの、断片的なメモリーを引き出すことが可能。
しかしジョンは自身を超能力者と呼ぶよりは、”異常にカンが鋭い者の延長上”としている。
このあくまで科学的見地から逸脱しない立ち位置によって、彼の能力はより信憑性を得ているのだ。FBIが彼を信用するのは、こうした背景に基づいているだろう。
また過去視に関してはともかく、未来視の内容はある程度書き換えることが可能なようだ。
より強力なリーディング能力を持つ犯人アンブローズとの対決では、額を撃ち抜かれるキャサリンの未来を見事に変えることに成功する。
フラッシュバックの汎用性

序盤からジョンの脳裏に浮かぶフラッシュバック演出は作中でほぼ具体的に再現され、それは同時に伏線の回収を意味する。
しかし伏線の張り方として、フラッシュバックは最も容易く、汎用性が高いテクになる。
なぜなら記憶喪失の者やサイキックに要所で最終局面のワンカットを仕込んでおけば、あとは物語を進める中で自動的に回収されるからだ。
つまり技法としては下の下、映像作品ならではの安直演出とも言える。
作中で仕込まれる伏線は大半がジョンの脳内ビジョンに絞られ、その他で驚くようなトリックはほぼ見えない。これはミステリーやサスペンス映画としては、かなり訴求力の弱い事実になる。
リーディング能力という特殊技法に寄りかかり過ぎて、映画の基本を見失ったと言って過言でないだろう。
動機

アンブローズは快楽殺人者でもカルト宗教員でもなく、いわゆる救済者と自らを位置付けた。
神そのものではないにしろ、神の代行者を気取っていたと言っていい。
救われない未来を持つ者を”救済”しようと殺人を目論む者を描く作品は多々あり、その点で言えば目新しさは皆無だった。もうひとひねり裏切りがあると、断然作品の色が映えたと思う。
だが独自性には欠けたものの、彼の有する能力がいかに優れているかを表すことは成功した。
未来視によって微細な事柄すらも見据えていることは、キャサリンに宛てたビデオレターの場面で窺い知れる。
一風変わった面白味に溢れる演出だったように感じた。
また一見、彼の企みは完全敗北に終わったように見える。だがラストシーンでは、受け取り方によっては全く逆の意味合いを持つ。詳しくは考察部で解説したい。
やや危機感に欠ける

ほぼ完全に足取りを掴ませないアンブローズを追うとなれば、そのコンタクトは困難を極める。よって捜査中に危機的状況を演出するのは難しく、下手をすると間延びしかねない。
そこでテコ入れとして登場させられたのが、207号室の画家。彼はたまたま快楽殺人を起こしたことをアンブローズに知られ、その存在を利用された。
彼の存在は作品に起伏を与えるための布石と言っていい。もちろんこれは悪い意味合いで、単純に退屈になりそうな場面で投入された道化師の役割となる。
また同時に死亡したジョーに関しても同様だ。作品に悲劇的な風味を含ませるための、拡がって消えゆくパーティクルのような扱いであった。
彼が銃撃で死亡するのはこれまでの”救済”方法と乖離しており、脚本中で死なせるならば、せめてアンブローズの手によって同じ手口で殺すべきであった。
この部分も、ジョンといまわの際にお涙頂戴ストーリーを演出したかったからに他ならない。
二兎を追って、手に持った猟銃すら落とすような顛末になった。
評価
不満点を色々と書いたが、全体的に上質なサスペンスであることは否定しない。
謎解きやスリリングな映画好きならば、大いに勧められる一作だ。
以下、考察及びネタバレ注意。
殺人鬼の違和感

ジョンを上回るサイキック能力を有していたアンブローズ。
だが彼にはいささか、不明な点がいくつか見えるだろう。
ひとつひとつ考察していこう。
不明な点:なぜ逃げない?
かなり遠くの未来まで見通せる超能力であれば、自身の危機を察知するなど容易い。
であるならばそもそも、自身の身を犠牲にしてまでジョンに後任を託すのはおかしい。
寿命から言っても、長く救済を続けられるのは明らかにアンブローズの方だ。
すなわち最終の攻防戦の存在自体が無意味に思えるだろう。
これには、明確な解答がひとつだけ存在する。
しかしひとまずは、現時点で判明している不明瞭な箇所をピックアップしよう。
不明な点:キャサリンを撃つ
この場面のアンブローズはおかしなことを言う。よくよく噛み砕くと、回答になっていないのだ。
殺す必要が無いと言い切っているにも関わらず、彼は発砲した。結果的にジョンが身を挺すことでキャサリンは救われたが、そもそもこの行為は必要だったのだろうか?
またジョンに自分を撃たせる、という目標のためであるにせよ、結果的に彼は死亡せず、手術で一命を取り留めた。
しかしあの場面でジョンは、運命を切り拓くほどの決断を下せたか?
特段の意思力でもって格上をねじ伏せるほど、驚くような行動を見せたか?
自らのビジョンに反するような、分岐路を跨ぐターニングポイントはあったか?
これらの解は、やはりひとつしか見当たらない。
不明な点:予言の過ち
この二点のみが、作中で誤り、或いは未知のままエンディングを迎える部分になる。
実際にはジョンが運命を変えたかのように描かれるこれらだが、前述のように彼は特別、それに相応しい行いはしていない。
ここで我々はひとつ、大きなミスリードを抱えさせられている。
それはアンブローズが全知の能力を持っているために起きる弊害だ。全てを見通す彼の言は、すなわち事実と誤認しやすい。
つまり、
具体的に言うと、「ジョンが自分を撃って殺す」という箇所になる。
これらから導かれるのは、彼が既にエンドロールまでのいきさつを全て想定済みであった、という事実しかない。
解答:未来は変えられない
これを示したのはジョンだ。見ていたビジョンに逆らうことで、キャサリンの悲劇を防いだ。
しかしこれはあくまで”ジョンの視点から”であって、同じビジョンをアンブローズが見ていたとは言い切れない。
つまり格下の能力を有するジョンの見ている未来が変わろうと、アンブローズの見ている未来は別のモノであり、そしてそれは絶対に不変なのだ。
これが彼の不可解な行動の説明をする、唯一の解だ。
このような事実に行き当る。
無駄にFBIを挑発して自身を追わせるのも、キャサリンに放った無意味な銃弾も。
これらは不変の未来であり、一見して無意味でも、そうせざるを得ない事柄なのだ。
そうすると、もうひとつ新たな解釈が生まれる。それはジョンについてだ。
ジョンの行く末

作中ラストシーンを観た者は、こう受け取るかもしれない。
だが額面通りの受け取り方で、本当に正しいのか?このエンディングが示すのは単純な家族愛や絆なのか?
自己矛盾に気付けるか
この感想に、疑問が湧かないだろうか?
同じことを作中で語ったのは誰だったか思い出そう。
そう、それはアンブローズの言葉だ。
なぜ、家族なら救済の殺人を許すのか?
アンブローズが救いを求める人々に、ジョンが娘に注ぐと同じ愛を向けなかった証拠は?
隣人を救えと言う教えは、蔑ろにされるべきか?
本質は少しも変わらない
つまりジョンの行為を肯定する者は、同時にアンブローズを肯定する者でもある。
これは巧妙に仕掛けられたトリックであり、ついつい場面のエモーションに惑わされて見失う事実だろう。
なぜラストシーンで描写されたのか?
この過去のエピソードが最後に持ち込まれた意図を考えよう。
ヒントは、
この図式が前項で示されたことだ。
作中でジョンは自身を殺人者でないとした。しかし本質的に同じものを抱えるジョンとアンブローズは、互いへの非難がそのまま自分に返って来る。
よって彼が一方的に付与した殺人鬼というレッテルは、そのまま自己への罰符でもあるのだ。
またこれは、ラスト直前で距離を置いていた妻との再会でも示される。
彼は娘を喪ったショックで妻と距離を置いたのでなく、娘を殺した自責で家族を遠ざけていたという示唆なのである。
つまるところ、最終シーンで示す事実はこうだ。
後継者
前段でアンブローズの未来視が絶対であると示した。
すると忘れてはならない事柄が残る。
この予言だ。
一見してその未来は打ち砕かれたかのようであったが、実際には全てがアンブローズの手の中で踊らされていたに過ぎない。
それはエンドロール前のモノローグで明白だ。
この意味あり気な呟きと、これまでの全てのエビデンス。これらから示される未来はひとつ。
アンブローズの見たビジョン通りに、報われない者たちを救済=殺人する後継者になることを彼は決意した。
これこそ、作品の暗示する昏い未来である。
終わりに
額面通りの受け取り方と、真逆の印象を与える真のメッセージ。
道中の不満点を覆す、ワザ有りのラストシーンであった。
コメント
ジョンもまた殺人者だった。
アンブローズが言った通り、文字通り同類なのだ。
苦しむ娘を安楽死させたことと、苦しむであろう他人に敬意を持って安らかに殺したことの差は何か?
研ぎ澄ますとほぼ変わらない。が、長く距離を置いていた元?妻エリザベスと娘を失った悲しみを共に分かち合い、また親しくしていた刑事の死が一つの家族から夫と父親を奪った事実を客観視したことで、なんとか一瞬同類であったかもしれないが、コリンの後継者にはならずに生きていく決意を垣間見ました。
深い考察ありがとうございます。ここまで考察している方がいて、よかったです。
考察が深くて嬉しくなりました。
自分も、ジョンの未来は後継者になるのだと感じました。
妻と疎遠になっていたのは、娘を安楽死させてしまった罪悪感からなので
妻と復縁したのは、罪悪感が和らいだため。→ 心境の変化
最後の台詞「また会おう、ジョン」は回想で、二人の再会の暗示?
額の傷も、後継者の象徴?と解釈したからなのですが
銃撃戦を見直しましたが、ジョンは額には被弾や怪我をしていない。
額の傷の意味が分かりませんでした。