検死官の父子を不可解な恐怖が襲うホラー映画、The Autopsy of Jane Doeをレビュー及び 評価、感想、解説、考察。
あらすじ
父トミーと息子オースティンは警察からの依頼で、遺体の検死を生業としている。
ある夜、奇妙な依頼が舞い込んだ。
一家惨殺の現場にて、正体不明の女性が地下の土に埋もれていたのだ。
彼女には殺害された一家との関わりは無く、また一切の身元が不明。
いわゆる、ジェーン・ドゥ(身元不明人)だった。
凄惨な事件の被害者のひとりと思われる彼女に対して、警察は速やかな検死を希望。
トミーはこれを受け、息子と共に一夜を費やして女性の死因を探ることにした。
だが彼女を解剖していくにつれ、奇妙な事実の判明や、不可思議な現象が次々に巻き起こり出す。
ジェーン・ドゥ

地下から掘り出された女性。
全裸で遺棄されていた彼女には、一切の身元を示すものがなかった。
このような不明の遺体は便宜的に「ジェーン・ドゥ」と呼称される。
土の中から発見されたものの、遺体に損傷や腐敗は見られない。
また目立った外傷もなく、トミー親子らは初期段階から異常なものを感じることになる。
ネタバレ概略
- 1.惨殺事件一家四人、惨殺事件の一報。家中に血しぶきの舞う凄惨な現場の地下室で、無傷の女性が遺体で発見される。
- 2.検死官検死を生業にするトミーとオースティン父子。
彼らの元に、地下から掘り出された謎の女性が運び込まれ、検死を依頼されることになった。 - 3.謎手足の関節が折られ、舌を切り取られた女性。
死斑や死後硬直もなく、死亡推定時刻も全く不明なままであり、検死を進めれば進めるほど謎が深まっていく。 - 4.内傷外傷の全くない外見と裏腹に、彼女の内臓には切り傷が見られた。
肺は真っ黒に煤け、よほどの大火を浴びないとこうはならないとトミーは語る。 - 5.物音検死中に物音を聞いたオースティンは、通風孔で飼い猫のスタンリーが重傷を負っているのに気付く。
猫は苦しまないように首を折られ、火葬された。 - 6.異変徐々に起こりつつある異変をオースティンは察し、通常の検死でなくなっていることを父に言う。
だがトミーは朝までに結果を出すと頑なに言い、検死を続けることに。
その時ラジオから、猛烈な嵐が訪れているとニュースが入る。 - 7.胃胃の中から取り出されたのは、麻酔用の花とアルカナ紋様の魔術布。
また布にくるまれていたのは、彼女の抜けた臼歯だった。 - 8.皮膚皮膚を切り開くと、その裏側には布と同じ紋様が刻み込まれていた。
その時突如、嵐の影響か、停電が彼らを襲う。 - 9.脱出不可出入り用のエレベータは停止し、地上への出口である通用口も倒木によって塞がれる。
彼らは死体の群れと共に、地下室に閉じ込められた。 - 10.徘徊所内を明らかに何者かが歩き回っている。ふたりしか居ないはずの空間で、彼らは不気味な存在に追い回されることになる。
オースティンはジェーン・ドゥを解剖したことが原因だと言った。 - 11.火葬もはや検死を続けることは出来ず、彼女を火葬してしまうことで現象の沈静化を図ろうとする父子。
だが検死室の外を死体に囲まれた彼らは、そこに閉じ込められる。 - 12.焼却検死台に引火性液体を振りかけると、その場で焼却を試みる。すると火は凄まじい勢いで燃え広がり、室内を火の海にした。
慌てて消火器をふりかけるトミー。 - 13.無傷消化が済むと、そこでふたりは信じられないものを見る。
それは焼却されたにもかかわらず、まったく無傷のジェーン・ドゥだった。 - 14.斧これ以上は手に負えぬと、通電したエレベータから逃げ出そうとする父子だったが、そこへ死体がゆっくりと追いすがる。
トミーは消防斧を握ると、死体が目の前に来た時に振り下ろした。 - 15.エマだがそこに倒れていたのは、オースティンの恋人のエマだった。
様子を見に来た彼女は死体と間違われ、斧の一撃で死亡する。 - 16.意図ジェーン・ドゥの意図が、自分の死因を確かめてほしいはず、と思い当たったオースティン。
彼らは今一度、彼女の検死を再開することにした。 - 17.死因切り開いた脳の一部を切除し、オースティンは顕微鏡でそれを確かめる。
そこで見たものは、未だ活き活きと活動を続ける細胞の姿だった。
彼女はまだ、死んでいないのだ。 - 18.出自ジェーン・ドゥから検出された魔術布によって、彼女がセイラム魔女裁判の被害者であると判断したトミー。
彼女は生前の復讐を怨念として振り撒く、呪いの道具と化していた。 - 19.身代わりトミーは息子を救うため、ジェーン・ドゥの痛みを引き受けることを決意。
肺を焼かれ、手首を折られ、内臓を斬りつけられるトミー。 - 20.慈悲痛みに耐えかねたトミーは、息子に介錯を願う。
オースティンは哀しみを背負いながらも父へ慈悲の死を与えた。 - 21.朝朝が来た。オースティンは通用口を叩く音に必死で助けを求める。だが助けの相手が、人間でないことに気付いた。
そして彼もまた、背後から迫る不気味な存在によって命を落とした。 - 22.移送翌日。父子とエマの死体を見た警察は、不可解な事件としてこれを処理。
ジェーン・ドゥの遺体は大学病院へ運び込まれることになった。 - 23.謎の男遺体へ話しかける警官。ジェーン・ドゥの正体を知る彼は、「なあベイビー、二度としないって」と言った。
ゴア表現

シーンの多くが解剖に費やされるため、当然ながらグロテスクな場面がほとんどを占める。
検死である以上、臓器を抜いて脳を取り出し、あらゆる部分を調べるからだ。
また身元不明女性は外見にこそ損傷はないものの、調べれば調べるほどに無残な状態であることが露わになっていく。
苦手な方は視聴しないことを勧める。
非常に精巧に作り出されている内臓や脳は、接写でもリアリティを損なうことはない。熱の入りようがよく伝わってくる仕上がりだった。
検死

腕の良い検死官である父トミーは非常に見識高く、あらゆる状況をリサーチするのに長けている。
詳細でリアルな仕事ぶりと、浮上した疑問に対して息子との質疑応答形式が非常によくハマっている。
検死というと難解でとっつき辛いイメージだが、彼らの簡潔で分かり易い解説がテンポよく挟まれるので、見ていてストレスな部分は一切無かった。
怪異

検死作業のある段階で、ホラーパートへと移行する。
初めは異常事態を認めようとしないトミーであったが、怪異に襲われてからはその認識を改めることとなる。
逃げ出そうにも運悪く、大型の嵐が突如発生。
彼らは一夜を死体とともに過ごさざるを得ない。閉鎖された地下を舞台に、命を懸けた鬼ごっこを強いられるのだ。
演出的には、暗闇と光をうまく使い分けたメリハリのある魅せ方が上手い。
驚かせるためのドッキリ演出は用いているものの、受け取り手のトミーとオースティンのリアクションが脂っこくないのが好印象だ。
検死官が、甲高く泣きわめく演技派女優でなくて本当に良かったと思う。
ある時点から施設内を薄気味の悪い何かが徘徊し始めるのだが、その表現法も素晴らしい。
直写では収めず、間接的にディテールが薄っすら確認出来る何かが、しかし確かな足取りでゆっくりと近づいてきている恐怖感は、主に首筋に来るタイプだ。
真相

多くの仮説を打ち出したトミーとオースティンだったが、結局真実は闇の中であることに変わりはなかった。
あらゆる角度から考査することの出来るシナリオであるので、是非自分だけの解を導いてみてほしい。
額面通りに受け取るか、まったく別のアプローチをするか。それは視聴者に委ねられている。
果たしてジェーン・ドゥは、何者なのか。
評価
薄気味悪さとグロテスク感では一級品。コアなホラーファンを自称するならば、チェックしておきたい一作だ。
以下、考察及びネタバレ注意。
ジェーン・ドゥの正体は?

魔女?悪魔?
胃袋から摘出されたアルカナ紋様の記された布に、オースティンはヒントを見出した。
レビ記20章27節はトミーの読み上げた通り、口寄せや霊媒を行う者、つまりは魔女を殺さなければならないと記している。
状況から察するに彼女が本当に魔女であったか、或いはそう誤認され、酷い仕打ちを受けたことに間違いはないだろう。
どちらが真実かは判然としないが、いずれにしろ現代において彼女が超常的な能力を有した「生ける死体」であることに変わりはない。
そもそも魔女の定義とは悪魔に従属する人間を指すものであり、同じサイドの立ち位置だ。
魔女であった彼女が長い年月恨みを抱いて過ごし、その区切りすらも曖昧になったとて驚きはない。
現実でも実際に、魔女としか思えないような人物が撮影される事態は最近でも起きている。
インターネット上にいくつかあるそれらの映像に興味のある方は、検索してみるといいだろう。
1693年
オースティンの読み解いた1693年について、セイラムの魔女裁判のことをトミーは言及する。
これは実際の事件であり、文献の中で記憶にある方もいるだろう。
検索すればすぐに出て来るので詳細は省くが、この大規模な魔女騒ぎの多くは1692年初頭から巻き起こり、胃から検出されたアルカナ布の示す1693年の半ばにはおおよそが収束した。
魔女であると自供した者はほぼすべて無罪判決を受け、逆にそれを否定した者が次々に有罪判決を下されるという恐るべき事態であった。
その中で1693年に死亡した人物はある程度判明しており、彼女たちの中に今作のジェーン・ドゥのモチーフとなった人物が居ると思われる。
ラストシーンの意味

二度としない
彼はジェーン・ドゥへ語る。
「なあベイビー、二度としないって」
この意味ありげなカット。この黒人警官が事件に関与していそうなのは間違いない。
少なくともここで確定したのは、トミーが彼女の痛みを引き受けたことが無意味だった、という事実だ。
怨みを振り撒いて痛みを誰かに背負わせることをジェーン・ドゥは望んでおらず、ひっそりと隠れていたいという願いがこのひと言から見えている。
よって息子を守るために手足を折られ肺を焼かれ、内臓を斬りつけられたトミーは犬死だった。
ではまずこの男、その狙いはいかなるものだったのだろうか?
ジェーン・ドゥの力を行使し、殺人を計画説
このパターンだと、トミーとオースティンが恨みを買っている描写は一切ないので、彼らは単なる巻き添えだと考えられる。
狙いは最初の惨殺された一家か、或いはこの後搬送されるバージニア・コモンウェルス大学の誰かしらを狙った犯行だろう。
後者の場合はこの黒人警官は嘘をついていることになるが、ジェーン・ドゥの取り扱いに関して特別な知識を有しているか、または彼女にとって彼が特別な存在であるかという前提をもってすれば、死の定めを逃れることは容易いのではないだろうか。
偶然掘り出されたジェーン・ドゥを取り返しに来た説
冒頭で「泥棒の入った形跡がない」とされているので、こちらの方が有力かもしれない。
彼が積極的に彼女の怨念を世に撒き散らしたいわけでなく、安らかな安息を願っているパターンだ。
こちらの説だと、些か時間超越を疑いたくなる理論になる。
「ベイビー」という一言で、彼らが長い年月を寄り添っているかのような間柄に思えるからだ。
「もう二度としないよ」
とまで言わしめるのであれば、彼が簡単に遺体を掘り起こせる場所に隠すことは考え辛い。
ならばジェーン・ドゥが公に露出するのは頻繁なことでなく、にも関わらず彼らが親しい仲だと示唆される。
であるならば、この黒人警官もまた、通常の人間でないと判断せざるを得ないと思う。
年月で朽ちぬ身体を有した何者か。
彼の正体は分からない。
ラジオ
ラジオからは「ヘブライ書4章、神の言葉によれば……」
とある。
この4章では、主に神の安息所についての事柄が書かれている。
解剖中に混線したラジオから流れる歌もこの安息について示唆しており、「にっこり笑わないと悪魔が入ってくる」と歌詞にあった。
この歌は表面的な意味だと、
上記になる。つまり、悪魔=乱暴でだらしない男のことになる。
「悪い男に引っかからないでね」、という母親の願いを表した歌だ。
しかし作中で母娘は登場せず、また粗野な男による性的暴力のシーンも無い。
よってこれらは裏の意味合いを読む必要があるだろう。
ここを宗教的に読みかえると、「入ってくる」のはつまり神の開いた安息所で、「にっこり笑う」のは神への従順さや、信仰及び誓いだろう。
12節で、
神の言は生きていて、力があり、もろ刃のつるぎよりも鋭くて、精神と霊魂と、関節と骨髄とを切り離すまでに刺しとおして、心の思いと志とを見分けることができる。
関節に関しての記述がある。彼女のくるぶしが粉々だったのを思い出してほしい。
以上からジェーン・ドゥが安息を求めているかのような意思を感じ取ることが出来る。
彼女は神に従順でない=悪魔に魅入られた為、神の安息所へ入ることを禁じられた。
それが生来の体質か怨念によって後天的に付与された呪縛かは定かでないが、ともかく今の状態で彼女は神の家に招かれることは出来ない=死ねない。
これにより導かれるのは、
しかし人の目に触れ家人を皆殺しにし、また解剖を受けてその痛みをトミーとオースティンへ返した。
これにより彼女はまた一歩神の赦しから遠ざかり、死を享受することが出来なくなる。それに対して謎の黒人警官が詫びた。
こんなところだろうか。
この説だと前項の「力を悪用説」は否定されそうだが、彼女の願いを知ってはいるが、協力するつもりが無い、というケースも考えられるので一概には言えない。
終わりに
深読みのし過ぎかもしれないが、こういった見えない部分に想像力を掻き立ててくる作品はとても良いアクセントになる。
結果的にすべて推測の域を出ないのも、それはそれでいいのだ。
コメント
素晴らしい考察感謝します。
ただひとつ思ったのは、最後の男はただ単に耳にイヤホンをつけて妻か恋人に話しかけてただけだと思います。人それぞれの解釈があると思うので言及はしませんが。これからも色々な考察楽しみにしています。