不気味な魔物ババドックを扱ったホラー映画、The BABADOOKをレビュー及び 評価、感想、解説。
あらすじ
母子家庭の、アメリアとサミュエル。
日頃から母アメリアは、息子の問題行動に手を焼いていた。
暴力的思考やお手製の武器工作、喧嘩を繰り返しては周囲を傷付けた。
小学校では問題児扱いで、もはや通常クラスで授業を受けることすら拒否されてしまう。
そんなサミュエルに、母は愛情を注ぐことすらも躊躇するようになっていく。

ある夜、サミュエルのために日課にしている眠る前の本読みで、息子は奇妙な本を選んだ。
本棚に入れた覚えのないそのタイトルは「ミスター・ババドック」
気味の悪い本だ。
眠る前に三度のノック。奴を見た者は、一睡も出来ない。
アメリアはそのおかしな絵本を目につかぬ場所へ押し込むと、二度と息子が手に取らぬように願った。
しかしその夜から奇妙なことが起き始める。
まるでババドックが、本当にこの家に来ているかのような。
アメリア

母親。看護助手。
夫を亡くしており、表には出さぬがその時に負った心の傷は未だ癒えていない。
息子の振る舞いに手を焼いており、それが彼女を追い詰めることになっていく。
またババドックの絵本との出会いによって、更に肉体的にも精神的にも摩耗していく。
サミュエル

アメリアのひとり息子。
過激な発言や行動で、周囲からは問題児扱いを受けている。
それらの根幹には「母を守る」という行動理念があるのだが、しかしアメリアにすら理解されない。
普段から架空の怪物を打ちのめすことを空想しており、幼児期にありがちなイマジナリー・フレンドならぬ、イマジナリー・エネミーとでも呼ぶべきか。
怪物の「頭を潰してやる」と啖呵を切るのが癖だ。
ババドックの存在をいち早く察知し、奴に対抗しようと武装する。
ババドック

絵本を読んだ者に纏わりつき、眠りを奪い取る魔物。
存在を否定されればされるほど力を増し、最終的には肉体を得るまでに成長する。
この薄気味の悪い化け物について多くは判明しておらず、取り立てて対抗する手段も見つからない。
夜半眠りに落ちる前、三度ノックされたら覚悟しよう。ドアの向こうには、ババドックが立っている。
「バ・バ ドックドックドック」
ダウナーな攻め口

ホラー作品は大きく二分すると、
に分けられる。
多くの場合、非日常空間に予期せず足を踏み入れて恐怖に遭遇するパターンでは、アグレッシブで動的な恐怖演出が用いられやすい。
これらはどちらが優れているかの問題でなく、単にタイプとして分岐するだけの話で、作品の優劣をここで見極めることは出来ない。
ババドックは日常空間で遭遇するタイプにあたり、やはり静的でナーバスな雰囲気を漂わせている。
更に遭遇=即死の呪怨的脅威ではなく、徐々に対象者を衰弱させてゆく型のモンスターだ。
少しずつ壊れていく母子の姿を、我々はじっと固唾を飲んで見守るほかない。
過程で描かれる疲労感や絶望感は非常にうまく描写されていて、深く沈んだ気分を味わわせてくれるだろう。
古典的、しかし効果的

ババドックを否定してはならない。彼は更に力を増して、帰ってくるだろう。
作中で本を焼き払うシーンがあるが、聡い視聴者であればすぐに気付くだろう。
厄介な呪いの品はこの手の方法で処分をしても、必ず舞い戻ってくることに。
これは古来日本でも怪談として多く伝えられる伝統の演出であり、それは海外でも同じことだ。
人形であったり掛け軸であったり、或いは絵画や壺、硬貨や紙幣と枚挙にいとまがない。
事実、現代の日本でもお焚き上げには多くの品が寄せられる。
念のこもった物体には、人智を超えた不気味な想念が宿ることがあるのだ。
演技力

恐るべき形相だ。
母アメリアは初め倦怠感を纏い、続けて疲弊感、最後に激情を演じる。
この移り変わりのスムーズさと、時折正気へ戻り母親の顔を見せる配分が良いバランスでマッチしている。
だがここで特筆すべきは息子サミュエル役の子供だ。
序盤から狂気と無邪気さを融合した素晴らしい役作りに成功している。
ヒステリックで攻撃的、妄想癖や口の悪さも目立つ悪童。
しかし単純な問題児と括りに入れるには早計だ。
節々に家族思いな一面も見せ、それをうまく表現する術を未だ知らない子供でもある。
彼の表情や叫びをしっかり注目しよう。
この映画の雰囲気を作り出したのは、間違いなくサミュエルの力なのだ。
奇怪なラスト

今作では相当珍しいタイプのエンディングを迎える。
解釈にかなり幅が出る表現であり、一概に正解を示すにはやや難しいと思われた。
これも受け取り手で様々噛み砕くことが出来る、味わい深いラストであると捉えよう。
あなたの心の中に生まれた解答、それこそが唯一無二の真実だ。
評価
ありがちなホラー映画と思いきや、一風変わった表現も多い作品だ。
全体に陰鬱で不愉快、出口の無い霧を彷徨うような薄気味悪さは他では味わい辛い描写に思える。
単純な大騒ぎパニックホラーに食傷気味の方には是非ともお勧めの一作であった。
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