ウォーキング・デッドでお馴染みのローレン・コーハン主演、イギリスの洋館で人形の子守をベースに描くホラー映画、The Boyをレビュー及び評価、感想、解説、考察。
あらすじ
イギリスの郊外でベビーシッターとして雇われたグレタ。
しかし子守の実態は、なんと人形相手。
驚くグレタだったが、給金の良さもありこれを快諾。
心に傷のある老夫婦が、亡くした子供の身代わりを人形にさせているだけ。
そう思っていた彼女だが、次第に館で不気味な現象が起こり出す。
人形が動く。壁を叩く。衣服を隠す。
やがて老夫婦はしばらく旅行に出ると言い、人形のブラームスとグレタを残して館を出立した。
かくして不気味な心霊人形とベビーシッターの共同生活が始まる。
ネタバレ概略
- 1.ベビーシッターイギリスの郊外、豪奢な洋館。ベビーシッターとして勤務することになったグレタは迎えの車で老夫婦の家を訪れる。
- 2.配達坊や上がり込んだ部屋で彼女は、マルコムという男に出会う。
彼は屋敷に週イチで配達に来ている雑貨屋だという。 - 3.人形老夫婦はグレタに、”人形の子守”をしてほしいと言う。彼らは至極マジメで、ブラームスと名付けたその人形を人間のように扱っていた。
- 4.ルール気味が悪いと思いつつも、アメリカから逃げて来た彼女には行く当てもない。
奇妙な10か条のルールに従って、彼女はブラームスを子守することを決意する。 - 5.旅行夫婦はしばらく旅行に出ると言い、留守中の家とブラームスをグレタに託す。
彼女は、実質的に仕事の放棄を認められたような状況を喜んで受け入れた。 - 6.怪異人形の世話などそっちのけで、大きな家で好きなように過ごす日々を送るグレタ。
しかし彼女の周囲では、たびたび不気味な現象が起き始めていた。 - 7.週末配達に赴いたマルコムは、気が滅入ってないかとグレタを週末の遊びに誘った。
留守にするのは気が引けるグレタだったが、結局はそれを楽しもうと決める。 - 8.屋根裏家の中の物音に気付いたグレタ。屋根裏のはしごがいつの間にか降りており、彼女はそこを確かめることに。
しかしはしごは跳ね上げられてしまい、彼女はそこに閉じ込められることになった。 - 9.存在ひと晩立つと、不思議なことに自然とはしごは降りた。
恐る恐る部屋を確かめると、彼女の荷物が荒らされている。ここでグレタは、屋敷に潜む何者かの存在に気付くことになった。 - 10.故人ブラームスが実在の子供で、過去に亡くなっていた事実をマルコムから聞かされる。
やがて彼女は屋敷に潜む気配の正体は、人形に憑りついたブラームスの霊魂だと信じるようになっていった。 - 11.職務グレタは奔放に休暇を満喫することをやめ、ブラームスの世話をし始める。
- 12.手紙老夫婦は旅先で自宅宛ての手紙を書きあげると、ふたりで入水自殺を図った。
- 13.証明ブラームスの世話に入れ込むグレタを心配したマルコムだったが、彼女は人形に憑いた霊魂の存在を証明してみせた。
- 14.執着アメリカからグレタを追ってきたコールという暴力夫。彼は勝手に屋敷へ上がり込み、彼女にアメリカへ帰るように懇願した。
- 15.恫喝深夜コールが目を醒ますと、壁に血のりで「帰れ」と落書きがあった。
彼はマルコムかグレタのいずれかが行ったイタズラだと思ったが、ふたりはブラームスの仕業だと確信していた。 - 16.破壊人形の存在に憤ったコールは、ブラームスを椅子に叩きつけて粉々に破壊してしまう。
その時、屋敷中で大きな物音が響き渡る。 - 17.殺害壁の中から現れた男。彼はコールを組み伏せると、喉を陶器の破片で切り裂いて殺した。
- 18.ブラームス壁から現れた男がブラームス本人だと気付いたグレタとマルコム。必死に逃げ惑うことに。
死を偽装したブラームスは屋敷の隠し部屋でずっと生活しており、人形に憑いた霊魂など初めから存在しなかったのだ。 - 19.母逃げる最中でマルコムは捕まってしまう。彼を見捨てられないグレタは、子をあやす母としてブラームスを諭す。
彼の一瞬の隙を見出すと、その腹にドライバーを突き立てた。 - 20.隠遁無事に逃げおおせたグレタとマルコム。
生き延びたブラームスは、誰も帰らない屋敷の隠し部屋で新たな人形を作り始めた。
子守のルール

- 詮索しないこと
- ブラームスを独りにしないこと
- 冷蔵庫に食事を残すこと
- ブラームスの顔を覆わないこと
- 寝る前に本を読み聞かせること
- 音楽を大音量で流すこと
- 罠を見回ること
- 配達はマルコムだけにさせること
- ブラームスの側を離れないこと
- おやすみのキスをすること
これらが課されたルールになる。
2と9がやや重複気味なのは、10か条というキリの良さにこだわったせいと思われる。
不気味の谷感マシマシ

人形のビジュアルはかなりキマっている。
アナベルやロバートに比べると、全くキズや汚れは見られない。
しかしその不気味な容姿は、心霊人形の役割を表すに十二分な働きを示しているのだ。
これには不気味の谷現象の作用が見られる。
- 不気味の谷とは?

人間に似せた人形やロボットは、その成り立ちが似れば似るほど、共感や愛着が増す。
しかしある一点から、それが急速に下降するポイントがある。
この「中途半端に似ている」人形へ対して、人間は不快感や恐怖を抱くようになっている。
だがそのポイントを超えたある部分から、またプラスの感情は爆発的に上昇するのだ。
このグラフに生まれる曲線を指して、「不気味の谷」と呼ぶ。
明らかに作中ではこの谷の底部分を狙っており、それは成功していると言える。
とにかく眼力が強い。吸い込まれそうな瞳が不気味さを増し、不健康な肌色が人間らしさからの乖離を目指している。
しばしばこの人形は画面越しに我々を見つめるのだが、その昏い瞳がなんとも言えぬ味を出している。夜中に枕元に居て欲しくないタイプだ。
ホラー感は低め

呪い人形各種に比べ、本作では怪奇現象は少なめに抑えられている。
概ねブラームスの移動が主で、念動力やポルターガイストなどの霊的アピールは行われない。
よっておぞましい恐怖映画と比べた時には、それほどの恐怖感を味わうことは出来ないだろう。
メインは「不気味」であり、直接的な表現は用いられない。
徘徊の気配を漂わせるブラームスと、それに怯えるグレタ。
派手なスプラッターや直接表現の登場に慣れてしまった観客にとっては、拍子抜けでもあり、また新鮮でもある。
ただしこれらは、作中に仕掛けられた巧妙なトリックでもある。
ネタバレしてしまうと圧倒的に面白味が減じるので、出来得る限り前情報無しで挑むのが正しい作法だろう。
真骨頂であるクライマックスシーンでは、予想だにしない方向へ物語は進んでいく。
構成が完璧

大きいタスクと並行して、小さなタスクをいくつか走らせる。
映像作品において鉄板の仕様であるこのシステムをきちんと踏襲しているのが見られた。
マルコムとコール。この小タスクふたつをブラームスという大タスクへ帰結させるクライマックスシーンは、熟練の妙技とも言えるシナリオ展開となった。
全体的に無駄なシーンが無いのも好感触だ。
あらゆる場面はなんらかの意味を持ち、そこでもテンポの良さと雰囲気形成の天秤を上手く取り持っている。
それとない伏線は自然に張り巡らされ、強調し過ぎないために違和感も生まれていない。
完全に100点満点の組み立てであることは異論無いだろう。
評価
派手さや大風呂敷とは無縁ながらも、映画の本質を突いた良作。
以下、考察及びネタバレ注意。
伏線回収
正体は心霊人形ではなく、隠し部屋に潜んだ殺人鬼であったブラームス。
では作中で撒かれた伏線を拾い集めてみよう。
音楽は大音量で

実際にブラームスが音楽を好んでいたかは不明であるが、夫人が大音量にこだわったのには理由があるだろう。
恐らくは、音楽をかけたタイミングで隠し部屋のブラームスは行動を行っていた。
冷蔵庫やベッド、バスルーム。
あらゆる生活音はこれによって遮断された。
読み聞かせ

幼少期から隠し部屋で生活していたブラームスには、学校で習うような教養が圧倒的に欠けている。
そこで夫人は詩などを読み聞かせることで、知識や教養を身につかせようと画策していた。
「大きな声で」というのは、隠し部屋に居るブラームスにも聞こえるようにするためのものだ。
食事

食事の残り物を冷蔵庫にしまっていた理由は、隠し部屋のブラームスに与えるためだ。
グレアに見られないタイミングでキッチンを訪れては、この中に収められた食事を持ち帰っていたと思われる。
ネズミ捕り

ネズミは習性として、壁裏や屋根裏などの棲み処を好む。
ブラームスの隠し部屋などは最高のロケーションだっただろう。
動物の嫌いな息子のために、老夫妻は慮った。
マルコムは怪しい?

終盤までかなり疑わしいキャラクター性を保ったマルコム。
実際にはブラームスに殴打を受けていることから”シロ”と判断されがちだが、案外そうでもない可能性もある。
これにはグレタの前任ベビーシッターが居たのか否かが大きく関わる。
グレタ以前に子守は居なかった場合
老夫妻が雇った子守が、グレタが初であるならばマルコムは完璧にクリーンな男と思っていい。
彼に関する疑念は一切無く、気の良いイギリス紳士と呼ぶに相応しい男子だ。
しかしこの説は、やや根拠に乏しい。
それは次項の反対意見が相対的に強いからだ。
グレタ以前にも子守が居た場合
グレタが数人目の子守であった場合、マルコムの人柄はかなり怪しいものとなる。
これがなぜ彼の人柄を疑わせるかというと、ブラームスの殺人歴がエミリーの一件にとどまらず、尚且つそれにマルコムが間接的に協力していた可能性が浮上するからだ。
が、上記の仮説は一旦おいておき、まずはグレタに前任が居た可能性を追求しよう。
本作実は、前任が居たと仮定した場合の方が納得のいく場面が非常に多い。
これらを羅列することで、前任ベビーシッターの存在がより鮮明に浮かび上がるだろう。
システムが上手く出来過ぎている
老夫妻の提示した子守のシステムだが、想像以上に上手く作られている。
生活騒音のかき消しや食事の供給など、あらゆる面で隠し部屋のブラームスを匿いつつも不便させない仕組みになっているのだ。
が、これは外部者の無い状態では使う必要の無いシステムでもある。
あのような郊外ではマルコム以外に接触する人物は居らず、必然的に毎週の配達時にのみ気を遣えば良い。
にもかかわらずあれほどの仕様を確立させるということは、日常的に外部者の受け入れを行っていた可能性が高い。
よってこの点で、グレタ前任者の可能性を高める。
自殺した老夫妻
作中ではブラームスが数十年前に犯した罪=エミリー殺害に苛まれ、老夫妻は自ら命を絶ったように見える。
しかし現実的に考えて、今さら自害するほどの一件には思えない。
それほどに良心の呵責を抱えるならば、もっと早期段階で警察に駆け込むなりの行動を発していたはずだ。
つまりグレタ赴任の段階で彼らが自害するのは、直近でブラームスが追加で罪を犯したのでは?と考えられるだろう。
それは何かといえば、前任ベビーシッターたちの殺害だ。
面接落ちへの言い回し
「嫌がった」の含む意味合いによる。
グレタ赴任初日のように、合わないと思った段階で解雇を通知していれば殺人には発展していないだろう。
しかし同居の過程でブラームスが子守を嫌い、またベビーシッターも同じく人形を気味悪がっていたら話は違う。
クライマックスシーンのグレタのように、首を絞められて殺された者も居ただろう。
10か条に記されたマルコムの名前
最もマルコムの立場を危うくしたのが、件のメモ書きだ。
ブラームスのライフラインと同列に語られる、マルコムの介在。
これでは一連の関与を疑われてもおかしくはないだろう。
- なぜ夫妻はわざわざ、彼にだけ配達を託したのか?
- なぜあそこまで、秘められた過去に詳しいのか?
- なぜ執拗に、グレタを外に誘うのか?
様々な状況から、マルコムはグレタ以前のベビーシッターが死亡、或いは失踪していた事実を黙認していたと考えるほかない。
またそれらには彼の手引きも一因としてあった可能性もある。
ブラームスの生存自体は認知していなかったと思われるものの、「精霊やゴーストの存在かはわからない」と語ったように、何らかの存在が洋館に棲みついていたことは知っていたと考えるのが自然だろう。
またしきりに外出を誘うのも、彼女に惹かれたというより、ブラームスの存在を公にしない忖度であった可能性すらある。
以上から、「ブラームス多重殺人犯&マルコム介入説」が成り立つこととなる。
終わりに
おじさんが子供の声色なのが地味に一番怖かった。
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コメント
なかなかおもしろい考察でした。
ですが、私は少し違う捉え方をしました。
ブラームスは、単純に知的障害の子だったのでは?と思っています。
(写真では普通の…賢そうにすら見える風貌でしたが)
誕生日に女の子を殺してしまったのも、些細なケンカか何かで鈍器で殴ってしまったのかも知れません。
結果殺してしまったと。
物で頭を殴ったら、どういう結果になるか、理解が出来ない子だったのでは?
父親が言った「変わった子だった」と言う表現は、猟奇的(サイコパスの様な)というより知的障害(知恵遅れ)の方が近い感覚がします。
両親が女の子の件を知り、
息子を守るために、火事を自作し息子を死んだことにした。
家に手を加え、隠し部屋や、壁内の通路も作り、暖炉などの穴も塞いで隠れて過ごせる様にした。
自分たちが老いて、この先息子をどうしたら良いのか…と苦悩し始め、
いずれ先に死んだら息子の世話は…といった、引きこもりの子供がいる家庭と同じような心配を始めたのではないかと。
自分たちの罪も合わせて疲れてしまったのかな、と。
ブラームスの世話をし続ければ、給料は払い続けられる様に手配してあったと思います。
頭の弱い子だったと感じたのは、
正体現してから寝かしつけられそうになったくだりとか、
「動いてくれないと帰っちゃうわよ」とか「合図を送って」とか、言われてすぐ行動して(聞き入れて)しまうトコ
遊ぼう遊ぼうと言ってる事など、随所に年相応ではない様子がうかがえます。