【映画】スーサイド・ボマー/イスラム×NY×テロリズム【ネタバレ:レビュー】

サスペンス

イスラム過激派による自爆テロを描いたサスペンス映画、The Martyr Makerをレビュー及び評価、感想、解説。

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あらすじ

国際テロリスト、サイフディン。
潜伏中のこのムスリムは、主に少年や女性を自爆テロ犯=スーサイド・ボマーへ洗脳することを得意としている。
CIAのデイビスは彼がNYに潜入したことを補足。新たなテロルの気配を感じ、急ぎNY市警察と合流することに。

一方、アメリカ生まれのムスリム、ザヒド。
イスラムの教えなど生まれてこの方気にも留めたことのない、生粋のアメリカ人の彼だったが、ある一件でそれが一変してしまい……。

悩めるムスリム

父に反発するザヒド

作品の主軸として、「ザヒドの悩み」がフォーカスされる。
ここで言う悩みとは仕事や恋愛程度のものでなく、もっと根源的な奥底の信条のことだ。

アメリカ生まれのアメリカ人×流れる血は純ムスリム



父も母も中東系の彼にとっては、この板挟みで大きく苦しむことになる。
思想や宗教観は紛れもなく米国民なのに、流れる血と父の眼がそれを許さないのだ。

自由の国に在りながら、自由を感じられないザヒド。
やがてサイフディンに見込まれた彼は、自爆テロ犯として洗脳されていくことになる。


この辺りの彼らを取り巻く心模様はリアリティがある。

特に父の押しつけがましい思想や、それを受け入れざるを得ない母と妹。女性の発言権が著しく低い中東の闇を表すような、不愉快で理不尽なシステムが垣間見える。

こうした教えに反発するザヒドだが、それも警官らに受けた差別によって徐々に雲行きは変わりつつある。
その隙間に上手く入り込んだサイフディン。現実でも恐らく、こうした間隙を縫って扇動者は人心を掌握するのだろう。


単純な密入国での侵入でなく、ひとりのテロリストが生まれる様を描く。
イスラムならではの思想を密接に添えながら描写するこれらに、脚本に注いだ努力の陰が垣間見える。

おっかないCIA

容疑者を銃で脅すデイビス

単一的な善悪構造を避けるために設定されたとは思うが、CIAのデイビスがとにかくとんでもない。

捜査令状や証拠保全など彼には全く関係無い。口を割らせるために撃ち殺し、怪しげなそぶりを見せればまた撃ち殺す。

テロを避けるためならなんでもする

ジャック・バウアーばりの強引な手法で、次々にイスラム過激派を葬るデイビス。

彼が合同捜査になった、NY市警察との初対面は痛快だ。

ビルのふたつも守れなかったお前らとは違う
NYは足を引っ張っている
他の州は大迷惑してんだ



およそ本物のNY執行機関員に聞かれれば、恐ろしいほどのヘイトを買うような表現だ。
この口の悪さが作中では、特徴的で見どころにもなっている。


が、実際には彼ほどの悪目立ちをCIA職員は避ける。バーで背後を取られたからと毎度毎度射殺していては、始末書を書くだけで一週間が終わってしまうだろう。

また国内の犯罪者を追うのは主にFBIの領分と言われる。
その真の姿は謎に包まれているとはいえ、CIAがわざわざ市警察に介入してくることは考え辛いだろう。

特にラストシーンで家屋爆散を指示したという示唆部分は、脅威対象の死亡確認を取れないことからも、執行機関の選ばない手段の最たるものになる。


このような側面からデイビスがリアリティを欠いていることは否めない。
彼の存在は、あくまでエンターテイメントとして捉えるのが正しい作法だろう。

自爆の矛盾

巧みな話術で子供たちを惑わす指導者

現実でも存在する自爆を強要するメンターたち。彼らの一見して理屈の通った巧みな話術により、無知で無垢な子供らは腹にしこたまの爆薬を抱かされる。
曰く、「天国に行ける」と。

だがここで壮大な自己矛盾が起きる。
彼らは聖戦で命を落とすことは天国への切符だと唱える一方で、自らは決してその片棒を担ごうとはしない。
安全圏から舌を動かすのみで、最も死を恐れているのは自分だということを言外に語っているのだ。

このような矛盾は多くの者から指摘を受けている。
また自爆を強要される者の中にも、こうした疑問を抱くことは少ないケースではないだろう。

しかし家族や自分の命の危機をちらつかせることで、メンターたちはこうした逃げ場を奪う。
奪う一方で、今度は与える。それは自己犠牲の尊さや、来世での成功の約束を。
そうして洗脳は完了する。


本作のラストシーンは意外なほど呆気なく、そして爽快でも幸福でもない。
だがサイフディンに抗ったザヒドの意思をそこに垣間見た時、不思議と安らかで気高い心持ちになるだろう。

演出の心配は無し

爆発する建物のラストシーン

最大にして唯一の心配だったのが、「爆弾をウリにした映画で、爆発がショボくはないだろうか?」という疑問。

結論から言うと、これは杞憂。クライマックスシーンでの爆発は、きちんとした描かれ方をされる。

これ以外のド派手アクションや爆破シーンなどは皆無であるものの、本作に求められるのはそうしたエフェクトの盛り合わせではない。
あくまでテーマはザヒドの心。それ一択でしかない。

とはいえ、最終的に見せる盛り上がりの部分を欠いては全体が安っぽく仕上がるのは否定しない。
そこでキメるところでキメた本作は、「ちゃんと分かってる」作品であると誇示したカタチだ。


主に射撃や拷問シーンなど、足りていない要素は数え上げればキリがない。
だがそうしたマイナスポイントをあげつらうでなく、良いと思える部分の方が上回っていたとエンディングでは感じた。

予算にしては、良く出来た映画だった。

評価

知名度、予算に反して良好なサスペンス映画



思いのほか良い出来だった。

★★★☆☆
三ツ星の良作。
スーサイド・ボマー(字幕版)
スーサイド・ボマー(字幕版)

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