死霊館 エンフィールド事件の前日譚にあたるホラー映画、THE NUNをレビュー及び評価、感想、解説。
あらすじ
ルーマニアの修道院で、尼僧が首吊り自殺するという一大事が起きた。事態を重く見たヴァチカンは、状況の把握のためにバーク神父と、見習い修道女のアイリーンを派遣。
尼僧の遺体を発見した旅商人フレンチーの案内で、事件の現場である聖カルタ修道院を訪れた。
ひと気のない院内を散策すると、黒衣のシスターと彼らは出会う。ヴェールの奥から囁く彼女は、「聖歌礼拝の終わる明日に、詳しい事情を話す」とだけ呟いた。
一晩を薄気味の悪い寝室で過ごすことになったバークとアイリーン。だが夜半に彼らの元を、人ならざる者が訪ねて来ては……
ネタバレ概略
- 1.自死ルーマニア郊外の聖カルタ修道院。ある夜、儀式に挑むひとりの修道女が悪魔に殺され、残った最後のヴィクトリアもまた、首に縄をかけて窓から飛び降りる。
- 2.発見ふもとの村で運送業を営むフィンチは、定期配達のために修道院を訪れる。
そこで彼は、首を吊ったまま亡くなったシスターを発見してしまう。 - 3.要請一連の報告を受けたヴァチカンは、事態の調査にバーク神父を送り込む。また調査には、シスター見習いであるアイリーンを帯同させた。
- 4.道案内村に辿り着いたバーク神父らは、そこで通報者のフレンチと出会う。彼の道案内にて、聖カルタ修道院へと。
- 5.鍵遺体は放置されたままで、無残な有様だった。しかしフレンチは遺体の状態が異なっていると言い、それを訝しむ。
遺体は何らかの鍵を抱いており、それを拝借して一同は院の中へ進んでいく。 - 6.出迎え院内は暗く、人の気配もない。一同はシスターを探すと、そこで修道長が出迎えた。
彼女は、「聴取は礼拝の終わる翌日に」と言い、バークとアイリーンに宿泊の部屋を貸した。
フレンチは村へ戻るが、その道中で不気味な存在を墓場で見てしまう。 - 7.生き埋め悪霊の誘いで墓場に向かったバーク神父は、そこで生きたまま棺に入れられ、土の中に埋められる。
- 8.救助アイリーンもまた不気味な気配を感じ、院内を歩き回る。
やがて彼女は生き埋めにされたバークに気付き、なんとか彼を助ける。 - 9.礼拝翌日。開放された院の奥にアイリーンは案内されるも、男子禁制であるため、バークは広間で待つことにした。
礼拝堂でアイリーンは、悪魔封印のために、ひと時も絶やさぬ祈りの儀式が行われていることを知る。 - 10.不穏調べ物をするバーク神父とアイリーンに、悪魔の力が襲い掛かる。
- 11.迎え胸騒ぎのしたフレンチは迎えに行く際、銃を持参する。彼は偶然悪魔に襲われていたバーク神父を助け、ともに通用口からアイリーンを救いに向かう。
- 12.全滅礼拝を行っていたはずのシスターが消え、既に聖カルタ修道院の全員が死亡していたことを悟るアイリーン。
三人は復活を間近に控えた悪魔を、亡くなったシスターに代わって封じることを決意。 - 13.聖遺物鍵の部屋を見つけ出したアイリーン。彼女はそこで、”キリストの血”を手にする。
- 14.ヴァラク悪魔ヴァラクが姿を現す。一同を力を合わせ、最後にはアイリーンがキリストの血を吹き付け、遂にヴァラクは滅ぼされた。
- 15.憑依平和の戻ったルーマニアの村。
しかしフレンチの中に、ひっそりとヴァラクは侵入していたのだった。
真相調査

キリスト教義において、自殺は大罪である。これに例外はなく、如何に信仰の厚い者でも神の国へ足を踏み入れることは許されず、すなわち地獄行きが確定する厳しい罪なのだ。
ヴァチカン教皇庁にとっては、管轄内でこのような恥が露見することは出来るだけ避けたい。周辺に知れ渡れば求心力を失うことに繋がり、ひいては勢力規模の縮小を引き起こすからだ。
が、ここまでは表の理由になる。
ヴァチカンは独自のチャンネルでこの院にまつわる呪縛の話を把握しており、敬虔なシスターが自害するには、それ相応の裏があると読んでいる。
奇跡調査で名高いバーク神父を指名したのには、そういうからくりがあるのだ。
恐怖演出

今作はゴア表現がしばしば見られ、冒頭の自殺したヴィクトリアがいい例になる。
腐敗した全身をカラスについばまれる姿は、なかなかグロテスクに仕上がっている。
しかしそれ以外、特筆すべき恐怖パートが無い。とにかく無いのだ。
全体的にホラー映画というよりは、”場末の遊園地でお化けアトラクションを巡らされている気分”、というのが最もしっくりくる表現になる。
なんだかこう、グッとこない。迫り来る獰猛シスターもおっかない叫び声も、確かに対面したら恐ろしいだろう。
だがひたすら傍観者の立ち位置を揺るがずに与えられ続ける我々は、自動進行するトロッコに乗ってただただ、ワッと飛び出しては引っ込んでいく修道女を眺めているだけ。
全く共感が沸かない。
入り込むほど感情を震わせるシーンは無く、縮み上がるほど恐ろしいシーンも無い。
定速で流れるコンベアから直接口の中に放り込まれる寿司ネタを噛むたびに、「今食ったのはなんて魚だったか」と無思考な時間が続く。
しかもこのシャリ、ちょっと固くてすっぱいな。
驚くほどチンケな伏線

採用するのに正気を失うような伏線がふたつほどある。この手の取ってつけたような無理くりの導線を見るといつも、
このような自問に陥る。
もちろん最低なのは”回収されないパターン”であることは理解出来る。しかし丁寧に回収したところで、安易で面白味のないものであるなら、初めから無くても構わないとも思う。
伏線などなかろうと、映画は作れるし観れる。
彼がモーリスだった
この事実によって、何作もウォーレン夫妻の資料ビデオの中に出ていた人物と繋がることになる。
彼は本作のあとで悪魔に憑依された。事件の最中にシスターに潜む悪魔に種を植え付けられたまま、気付かずに過ごしていたためだろう。
驚きといえば驚きだが、やはり伏線としてはチンケな部類になる。
続編の予定が正確には決定出来ていない死霊館スピンオフシリーズにおいてこのトリックは、後付けのねじ込み感がかなり匂う設定になった。
悪魔シスターズがイマイチ

怖いと言えば怖い。夜中に部屋の隅に立っていたり、狭い夜道で向かいから現れたら恐らく絶叫するとも思う。
しかし溢れ出るチープさが彼女らの脅威を半減させている。これは何が要因か。
声色が安直
悪魔の声というと、獣のようであるというのは伝承される史実通りだ。作中でも同じく低い咆哮がオーバーレイされ、いかにもな悪魔ボイスを表現している。
このいかにも、というのがキモであり、すなわち想像の範疇を抜け出ていないということでもある。
もっと蚊の鳴くようなかすれ声ですすり泣くだとか、或いは人語の体を為さないような不気味ボイスでインパクトが欲しい。
もしくは誰ひとり声を出さないというのもアリでないだろうか。
特殊メイクが安直
尖った歯に濁った眼、血涙が溢れ出し、土気色の肌を晒す。
基本的なホラー感は押さえているが、それはパンチの弱さとも取れるだろう。
個人的にはヴェールを被った修道女や、頭陀袋を被せられているタイプの方がより恐ろしさを感じられた。見せない方が時には、イマジネーションという最大の武器を手にすることもあるだろう。
ムーヴが安直
スーッ、と平行移動。振り向いたら後ろに。グイッ、と首絞め。
これらはもう何千回観たか分からないほど、使い古されたムーヴだ。
この画一的な所作を繰り返しても、もう未来はない。新たな試みを取り組まなければ、埋もれる運命を免れることはないだろう。
評価
増えれば増えるほどクオリティの下がる死霊館シリーズ。このままでは次作も危ういのでは。

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