催眠療法をテーマとしたスリラー映画、Tranceをレビュー及び評価、感想、解説。
あらすじ
著名絵画家ゴヤ渾身の一作、「魔女たちの飛翔」を首尾よく盗み出したフランク率いる強盗団。
競売人サイモンの手引きもあって、犯行は易々と行われた。
が、隠れ家で包装を解いて状況は一変。
なんと時価総額2500万ポンド以上の貴重な絵画は、忽然と姿を消していたのだ。
怒るフランク。最後に「魔女たちの飛翔」を手にしていたのは、紛れもなくサイモンなのだ。
しかし彼は、事件の際に受けた昏倒のショックで当該部分の出来事を忘失。一時的な記憶喪失状態になっていた。
そこでフランクは催眠療法士のエリザベスに当時の記憶を引き出させようと目論むのだったが……。
演出全般

記憶喪失のサイモンから消えた絵画の在り処を探るため、エリザベスはたびたび催眠療法を施すことになる。
ここに関してはリアリティよりもテンポを重視しているため、催眠導入過程は非常に短い。これが作品の質を損なうこともないので、選択は正しいように思える。
一部で妄想とはいえ、多少のショッキングシーンも含むことになるので、お茶の間での視聴は控えよう。
また全体的にエログロが散りばめられており、思いのほか成人向けな一面もある。
だが主題に反して、現実と催眠の境目を疑わせるような描写や、現実感の喪失などは見られない。
SFサイコホラー的な演出に期待していると、肩透かしな気分になるだろう。
ここで問題なのが、催眠を扱ったシナリオであるにも関わらず、ストーリーの解釈の幅が非常に狭いことが挙がる。
およそ何度見直しても、違和感や齟齬をもたらす場面が見当たらない。
一本道の額面通りにしか解答は示されていないのだ。
完全にして唯一無二の最適解を求めるユーザーには親切であるものの、ある程度の謎を残さないと話題性には乏しくなるだろう。
これがアクションやコメディであれば議論の余地は無いが、往々にミステリーを含む作品にはそれが求められる。
やや親切に解答を提示しすぎているため、それが視聴者から考える意思を奪っているとも言える。
正直この説明過多に関してはがっかりした。
その他の仲間のガヤ感

物語の大半はサイモン、エリザベス、フランクで構成されている。よってお仲間の強盗団の存在が、ほとんど無意味なガヤと化している。
フランクの凶暴性を際立たせるために数の力を使ったとは思うが、それにしてもキャラがスカスカの中身薄だ。
催眠にかかったネイトのように、もっと全員にサイドストーリーを割り振る必要があったように感じた。でなければ彼らは、金で雇った一期一会として早々に退場させるべきだ。
この”記念出演”のようなサブキャラのおかげで、フランクは尖った狂人ぶりを獲得する必要を失っている。
逆に言えば、もっと濃密なキャラクター性を与えるべきであったということだ。
彼に対して畏怖や狂気を感じることが無いため、スリリングな展開を完全に手放している。
また冒頭の爪剥ぎで圧倒的な暴力性を見せつけたつもりだろうが、その後のサイモンに対する拘束がヌルすぎる。
現実的に考えて、もっと強烈な監禁状態を用いるべきだろう。
「怖がっていると催眠が効かない」という設定の意味がちょっと分からない。
これは演者への忖度だろうか?
脅威を感じない気の良いおじさんフランクと、悠々自適な生活を満喫する拘禁者サイモン。
キャストミス或いは、演技指導不足と判断する。
安いラストシーン

それっぽい後引くエンディングではあるが、この手の場面は伏線が無いと始まらない。
最も論争となったもので記憶に新しいのはインセプションだろうか。
トーテムのその後に関しては、様々な説が飛び交っている。
本作は明らかにこうした幕引きを狙ったようなラストシーンだが、これが驚くほど興味を惹かない。
なぜなら作中でこうした二択のチョイスは一度もなく、突然提示された引用元不明の演出になるからだ。
”それっぽさ”を狙ったのは理解出来るが、あまりにも突飛だとチープ以外に感想が湧かない。
また制作者の意図が透けて見えてしまうのも悪い部分になる。
一応こうした背景に、
という目的があるのは見える。
サイモンに絵画を盗ませ、最後には殺す。
切り取って文字に起こすといかにもワルそうだが、この根底に彼女がストーカー被害者というバックボーンがあるのがいただけない。
どうせなら峰不二子ばりに、悪気なくルパンを騙すしたたかさが欲しかった。
或いは殺人に関してもこれは言える。
フランクの仲間を全員始末した上で、サイモンとフランクもまとめて焼き殺すぐらいの気概は見たかった。
中途半端に善人で被害者な一面を見せるために、どっちつかずの女催眠師という薄い印象しか残らないのだ。
どうせやるなら、徹底的に。
評価
とはいえ一定のクオリティは保っている。
謎解きファンにはオススメの一作だろう。

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