バイオテロに立ち向かうCIA職員を描いたアクション映画、Unlockedをレビュー及び 評価、感想、解説、考察。
あらすじ
イギリス移民局に潜入しているCIA職員、アリス。
現地でMI5との連携により日々の対テロ活動にいそしむ彼女だが、その本分は尋問官だった。
しかし2012年のパリで起きた大規模テロを防げなかったことに自責を感じ、今は一線を退いている。
そんなある日、彼女にCIAから要請が。
英国内で対米テロを予期したため、ある人物の尋問を依頼されたのだ。
当初予定されていた尋問官は直前で死亡しており、対応可能な人物が居ないため、現役でないアリスにお鉢が回ったことになる。
しかしこの一件、単なるテロ事件でなかった。
やがてアリスは大きな陰謀に巻き込まれることとなり……。
ネタバレ概略
- 1.テロリスト過激派の指導者として求心力の高い男、ハリル。
釈放されて間もない彼が新たなテロ計画を練り、その伝言を頼んだ男を捕獲した、CIAイギリス支局。 - 2.カムバック伝言役の男=ラティーフから情報を聞き出す予定の尋問官が、不審死を遂げる。
CIAは急遽代打として、既に尋問官としては一線を退いたアリスへカムバック要請をする。 - 3.尋問否応なくアリスを指名したCIA。仕方なしに受けたアリスは、ラティーフへの尋問を開始した。
- 4.偽装重要情報=認証手順を聞き出したところで、アリスの携帯電話へ連絡が入る。
それは驚くことに、CIAからの尋問要請だった。
では今周囲を囲んでいるこの男たちは、誰なのか? - 5.脱出護送中のラティーフを拉致した偽CIAは、間違いなく用済みになった自分を消すだろう。
アリスはラティーフを伴い、尋問場所のビルから脱出を図る。 - 6.死亡逃げ延びる最中、ラティーフは銃撃で死亡する。
アリスは信頼できる上司であり友人の、ラッシュ宅へ駆け込んだ。 - 7.襲撃ラッシュは、不仲の妻が使っているアパートをセーフハウスにするようアリスに言う。
準備を整えて出立の間際、追っ手がラッシュ宅に襲撃をかける。
ラッシュはアリスをかばい、撃たれて死亡する。 - 8.セーフハウスアパートへ逃げ込んだアリス。しかしそこには、留守中の家を物色する泥棒の姿があった。
男はジャックといい、ケチな泥棒稼業だった。彼を縛り上げたアリスは、CIAに連絡を入れた。 - 9.逆探知連絡を入れた数分後、ロンドン市警の突入があった。これにより裏切り者の存在が浮き彫りになる。
アパートを逃げ出すアリスに迫る市警。危険なところを救ったのは先程の泥棒、ジャックだった。 - 10.協力元海兵隊のジャックは、愛国心からアリスへ協力を申し出る。
頼る先のない彼女は、彼の力を借りることにした。 - 11.指導者移民局で世話をしたアムジャトという若者の協力を乞うアリス。
一同は指導者ハリスに辿り着くため、彼の影響下にあるダイナーを訪れる。 - 12.逆ハリスを引っ張り出したアリスは、認証手順を持った伝言役が拉致され、殺されたことを伝える。
ハリスはそれを聞き、伝言の内容がテロ実行でなく、テロ中止を告げるものだったと告白した。 - 13.裏切りMI5のエミリーから認証地点を横流しして貰ったアリスは、次にむかうべき場所が夜の桟橋であることを知る。
しかしそこでジャックが内通者であると判明。危険な戦いをなんとか切り抜けるアリス。 - 14.素人時間が無く然るべき人物を用意出来なかったため、アムジャトに伝言役を演じて貰うことになった。
素人に任せるには不安もあったが、当の本人はやる気に満ちあふれている。 - 15.狙撃現場に配備されたMI5隊員の中に、ラティーフ拉致の際に使った狙撃中を所持していることを割り出したCIA。
危険を伝えるも、現場のMI5隊員のほぼ全てが裏切り者=ウィルソンに射殺される。 - 16.的中モーターボートで現れた伝言相手。アムジャトは正しく認証を行ったが、相手は銃弾を別れの挨拶とした。
- 17.実行アムジャトから認証を受けた伝言役の男は、ハリスからの言葉をそのままは伝えず、テロ中止でなくテロ実行を示した。
実行を取り仕切るテロリストのマーサーは、ゴーサインを受け取った。 - 18.黒幕テロ首謀者の集う会合場所に辿り着くアリス。そこには死んだはずの上司、ラッシュの姿があった。
彼は2012年のパリの事件に続き、今回のロンドンでもテロを引き起こすことを目的としていたのだ。 - 19.特等席バイオテロ装置の設置場所を聞き出そうとするアリス。しかしラッシュはまんまと逃げだすと、実行場所の一望出来るスタジアム真向いの廃ビルへ逃げ込む。
- 20.決着敢えてラッシュを逃がしていたアリスは、彼を尾行して廃ビルへと辿り着く。
護衛のウィルソンを倒し、最後にはジャックを落下死させたアリス。
時間ギリギリで装置の停止を行い、未然にテロを防ぐことに成功した。 - 21.復帰ロンドンの件で完全に現場復帰を促されたアリス。
東欧経由で姿を眩まそうとしていたテロリストのマーサーに追いつくと、見事な手際で暗殺したのだった。
対テロ映画のテンプレ構成

- 中東系の男たちの密談
- ロシアから密輸される生物兵器
- 追い詰めるCIAとMI5
- 内通者の存在
あれよあれよと、これでもかというテンプレ要素の投入だ。
どこかで見た映画の要素を片っ端から切り取って詰め込んだような、闇鍋的雑多さが目立つ。
おかげで全体像は割かししっかりして見えるだろう。これによりB級感から脱却している。
ライトユーザーにとってはこの手の映像体験は概ね好評と捉えられるかもしれない。
「なんとなくそれっぽい」
この感想の繰り返しは手段として非常に強い。煮詰めていないコンテンツでも90分の間を凌ぐことが可能で、時間的にもコスパ的にも優位性を獲得出来る。
細部がスカスカ
しかしこの映画、ディテールが酷い。
ちょっとした映画好きであれば、噴飯ものの場面が目白押しなのだ。
次項からこの映画のツッコミポイントをあげつらっていこう。
以下、ツッコミ及びネタバレ注意。
ツッコミどころ全集
1.ラティーフ尋問にアリスが選ばれる意味が不明

現実ではCIAによる過激な尋問=拷問が問題視される過去が露わになっており、シリアやグアンタナモ収容所の一件は有名だ。
(尋問対象の人権を無視できる地域に収監し、米国内では非合法とされる手段で情報を吐かせた)
本作ではこうした側面を省みたCIAという立ち位置に基づいており、よってアリスの取る尋問手段がヌルく感じるならばそれが答えになる。
対テロといえど、ジャック・バウアーのような暴力的手段は取っていないのだ。
ただしこれはCIA側の事情であり、ラティーフに認証手順を吐かせようと目論んだ偽CIA(ラッシュの私兵)には関係の無い事実でもある。
よってこの場面でアリスに尋問を行わせる意味は皆無で、単純な拷問を行うのが最適解だ。
国際法や国内法に縛られない非合法組織であれば、世間の目やマスメディアに遠慮する必要は全くない。
またわざわざ現職のCIA職員を呼び出して計画に加担させるなど、リスク増でしかない。
アリスが格別の技能を有しているという前提があったとしても、彼女が配下でない以上、無闇に関与させれば計画の破綻すらも見える。
よって冒頭一場面から、いきなり脚本の根底が揺るがされていることになる。
背景として
このギミックの背景として、「偽CIAミスリードを演出したかった」という意思が見える。
序盤で意外性のある事件を描くことで、スクリーンに惹きつける作戦になる。
また作中で結局尋問はこの一度しか行われないため、尋問官という肩書を守るための一場面として用いられた。
もう別に尋問官という役割でなくて良かったのでは?
そもそも現実のCIAに尋問官という役職があるのかさえも不明なのだから。
2.独断専行

偽CIAにから辛くも逃れたアリス。
この時彼女が取るべき行動は、
- CIAイギリス支局に駆け込む
- MI5に駆け込む
上記いずれかになる。
仮に支局内で内通者による暗殺の危機を察したとすれば、それは逆にスパイをいぶり出すチャンスでもある。よって国防に積極的ならば、防弾ベストを着て内通者を待つことを求められるだろう。
またCIA支局全体を疑うならば、MI5に協力を要請してもいい。
CIAは創成期からMI5及びMI6と強い協力関係にあり、彼らを介して本国と連絡を取ることもベターな手段ではある。
どちらにせよ、ここで独断専行を選ぶ価値は皆無だ。ましてや懇意の男の家に転がり込むなど言語道断。
保身でなく対テロを志すのであるなら、例え拘束を受けてもCIAかMI5に協力をするのが局員としての使命に思える。
3.「ちょろい女だったわ」

ラッシュの妻宅で”偶然”空き巣をしていたジャック。割と誰が見ても怪しい。タイミングが良すぎる。
アリスはCIA史上で最も”ちょろいオフィサー”であるため、この元海兵隊員を右腕として使うことにした。
これには驚いた。田舎の女子中学生でも、もう少し警戒心を持っているだろうから。
案の定裏切ったジャックだったが、内心では「CIAオフィサーってめっちゃちょろいやん」とにやけが止まらなかったとかなんとか。
4.伝言ゲームを好むテロリストたち

実際のテロリストが口頭で詰める内容としては、やはり具体的な日時や手順、場所の話だろう。
これらを電子媒体で通達すれば、 (※) NSA、または国内諜報機関により傍受されるリスクは常にある。
しかし今回の一件、既に具体的な手順の話はとうに済んでおり、あとはゴーサインを待つのみの状態だ。
なので使者を遣わすという妨害を受けやすい行動を選択する必要はない。
絶対に動画の削除されないLiveLeakあたりで、ハリス自身が呼びかけのムービーを投稿すれば済む話だ。
認証の言葉もその後の引用も、動画単体で視聴した者には意味が通じないはずである。
もちろん当局からは過激派と目されているため監視の目は厳しくなるが、宗教指導者の釈放後とは、元々監視が厳しいものである。
これに付随し作中で、MI5がハリスの身辺に潜んでいないのも不可解に思える。
またハリルが示したのは実際にはストップサインであり、より一層内容には健全さが見える。
仮に発言の内容を分析官によって解読されようとも、テロをストップさせる旨の発言には違法性など無い。
以上から、テロリストたちがプレイした伝言ゲームの虚しさが垣間見える。
また世界中で扱われるどのような言語でも、概ねカバー済みだ。
この中で危険度のランクが一定以上に達すると、NSA情報官によって今度は人の目により精査される。仮に具体的テロ情報と断定されると、FBIやCIAといった他部門への情報シェアが行われることに。
(つまりこのTipsも、NSAのフィルタリングに該当している可能性は有る)
5.全てをブッ壊す伝言役

湖畔にてハリスからの伝言を受け取る使者。彼はラッシュの配下であり、実際に受けた伝言と異なる内容をマーサーに伝えた。
これはジャックが送ったアリスの音声データによって、認証地点を割り出した上での割り込みだ。
一見して裏を掻いた、いかにもスパイアクション的な行動を見せたラッシュの画策。
だがこの割り込みを許すなら、前段でやってきたことは全て意味を無くす。
なぜならラッシュの配下の男が、マーサーの位置を割り出せないはずがないのだ。
ハリスの伝言を受ける画像右の男が、マーサーから信用の無い人物であるはずがない。
よってある程度の情報を事前にラッシュ側へ流すことは可能であり、なんならバイオウィルスを横取りすることも出来る。
後ろ盾もなく不安な素人に任せるよりも、私兵を動かせるならばラッシュが先導して生物兵器を設置すべきだろう。
作中ではやはり設置役の男は怖気づき、代わりにMI5のウィルソンが引き継ぐことになっている。
ここでの結論として、湖畔で割り込んだ伝言役によって前段全てのお膳立てをブッ壊している、となる。
6.それ、弾出るよ

この作品で最大の失敗且つ、史上稀に見る恥ずかしいシーンは上記。
後ろ手で弾倉を抜いたアリス。
テロ対象を吐かせるため、ラッシュの膝に拳銃を突き付けた。
引き金を引いてみせたが、結局ラッシュは吐かずに逃走。
ひとつずつツッコミを入れよう。
まず無力化しよう
”対象無力化”は全世界の執行機関で説かれる、敵性との遭遇における最重要項目になる。
最も容易な敵性の「殺害」から難易度の高い「拘束」までのいずれかを、必ず捜査官や軍事従事者は求められる。
よってこの場面でまずアリスが選択すべきは拘束であり、それが困難であるならば殺害を選択しなければならない。
これはテロ実行寸前という火急からも、のちの審問会でも不利には働かないだろう。
事実、この場面でラッシュを殺害していればデバイスによる装置作動はなく、最も安全にテロを防ぐことが可能だった。
この機会を喪失したことは、事件後の報告書作成時に大きく問題視される。
尋問官(笑)
アリスは誤った選択をしたが、かつてラッシュとは懇意であった仲という面から上記は不問としよう。
では次点で、迅速な尋問が求められる。これは作中で言及される「パリ事件の失敗」という伏線を回収する、重要なシーンになろう。
速やかにラッシュを自白させ、テロ装置の場所を特定することで初めて、苛まれた自責からの解放がある。
「実は手引きしたのはラッシュ」という受動的展開のみでは、映画というシステムでのカタルシスを得ることは出来ない。あくまで、自発的に問題を解決することを求められる。
アリスの場合のそれは、”尋問の成功”であることは誰の目にも明らかだ。
ところがどっこい、尋問はあえなく失敗。というかそもそも、尋問の体すら成していない。
なにをしているんだアリス?
尋問官という設定、忘れていないか?必要だったか?
弾、出ます
思い出すだけで顔が赤くなりそうなシーンは、やはり弾倉を抜いた場面だ。
アリスの使用しているセミオート拳銃は、初弾以外は自動で次弾が薬室(チャンバー)に装填される仕組みになる。

作中では既に数発が発射済みで、つまり弾倉を抜いた時点で既にチャンバーには一発の銃弾が装填済みなのだ。
なので膝を撃つフリをした例のシーンだが、現実であの行為をした場合、弾丸は発射される。
あの場面で本当に弾が出ないようにするには、一度スライドを引いてからリリースする必要がある。この工程後ならば、弾が発射されることはない。
この恥ずかしい過ちだが、それ以前に狙撃中のディテールなどを語ったことで余計に映える。
銃の知識があるように見せて、その実セミオートの仕組みすら理解していないのはなかなかに痛いことだ。
余談:事故が絶えない
シューティングレンジ初体験の素人でも、このルールは絶対に守らされる。
なぜかと言えば作中で起きたような、「弾倉を抜いてあるのに弾が発射された」という事故が絶えないからだ。
銃による死亡数というのは、実は明確な殺意によるものよりも、暴発などの事故によるものの方が圧倒的に多い。
これらを防ぐ為、「例え装填されていない空の銃でも、人には向けない」という規則が用いられている。最初から向けていない銃口からは、被害者が出ないからだ。
わざと逃がす
不発の銃弾を演出し、敢えてラッシュを逃がしたアリス。彼のあとをつけて、テロ装置と対象を割り出すためだ。
ラッシュは野次馬根性が酷く、テロ対象のスタジアムを一望出来る位置に陣取った。
これが功を奏し、アリスは彼とテロ対象に迫ることが可能となったのだ。
- ラッシュに野次馬趣味が無かったら?
- 逃走中のクルマの中で、装置の電源を入れたら?
- 或いは装置がとっくに起動していたら?
- 5分間の猶予が無い起動方法だったら?
彼女がラッシュを敢えて逃がすことで、もう一歩で大量の死者が出るところだった。
7.義理堅いウィルソン

どれだけ報酬を貰ったかは不明だが、役割を終えたあとでわざわざラッシュに加勢するウィルソン。
乾いた笑いのかみ殺せない、シュールで不憫な風景だった。
良い奴、または間抜け。
8.薄すぎる動機

ラッシュのテロ動機がいちいち刺さらない。
もっとハードな国防政策を提唱してはいるが、それを自身で起こすテロと結びつけるのは厳しい。
またこの動機自体、様々な作品で使い古された定型文でもある。
彼はNSAに入局すべきだったのでは?
死にたがり
落ちかけのアリスに、デバイスを持ったまま近づくラッシュ。
「殺してくれェ!」という心の叫びが現れているかのようだ。
彼はきっと、暴走する自分を愛弟子に止めて欲しかったのかもしれない。
ストップ必要なの?
スマホにはなぜか、噴霧器の作動ストップボタンがある。
なんだろう。テロへの躊躇を表すような、弱気機能。
どんな事情でこの機能を搭載したのかは不明だが、「止めてくださァい!」と吐露しているようなものだ。
恐らくラッシュだけでなくマーサーや兵器開発者たちも、止められない自分をアリスに止めて欲しかったのだろう。
9.情報の宝庫をさっくり暗殺

これまでクリーン路線で尋問(笑)を行っていたアリスだが、東欧に入った途端に強気な態度が見える。
テロ首謀者であるマーサーを、大腿動脈切りで暗殺。
急にダーティな一面を露わにした。
なんとなく殺されたマーサーだが、対テロ戦では大きな情報の宝庫になる。
仕入れのモスクワの武器商人や、英国に潜んだ他団体など、引き出すべき情報は山の様にある。
またマーサー自身をエージェントとして仕込めば、今後のテロ活動の多くを事前に予見可能だ。
つまりマーサーを使いこなすことこそが尋問担当の腕の見せ所であり、アリスに求められる任務だろう。
よって現行で進捗するテロ活動が見られない以上、当座で求められるマーサーへの処遇は捕獲一択。
仮に難航するようであれば殺害も致し方ないが、出来得る限り拘束が最良になる。
ところがどっこい、さっくり暗殺。
大きなテロを防いで気が大きくなったか、支局もおかしな指令を出したものだ。
尋問官って設定、完全に忘れてますよね?
結論:アリスはクビ

とはならない。
この結末が正しい。
あらゆる観点からこのオフィサーを使い続けるのは問題が多く、現地職員としては解任が好ましい。
またCIA自体への所属も危うい。行動選択に疑問点が多いため、国務に関わらせるのを危険視する声も上がるだろう。
よってアリスはクビ。
評価
体面だけは綺麗に作ってある。
コメント