近未来の時空捜査官たちを描くSF映画、Valérian et la Cité des mille planètesをレビュー及び評価、感想、解説。
あらすじ
惑星キリアンにて、連邦からの盗品を捜索するヴァレリアンとローレリーヌ。「変換器」と呼ばれる生物型デバイスを手に入れた彼らは、それを巨大宇宙ステーション、”千の惑星の都市”へ持ち帰った。
ところが司令官同士による会議の最中、外部勢力による襲撃が発生。なんと人間軍のコマンダーであるフィリットが誘拐される事件に。
犯人は「変換器」を元々所有してた、今は無き惑星ミールの住人達だった。
ヴァレリアンとローレリーヌは、独断で事件の解決に奔走。
やがて一連の裏に隠された真実が明るみ出ると……。
ネタバレ概略
- 1.滅亡惑星ミール。人型の知的生命体=パール人が生存する水の惑星では、平和な日々が続いていた。
しかしある日、空を大量の船団が火を噴きながら墜落した。
巨大母船が衝突したミールは、その日粉々に吹き飛んだ。 - 2.ヴィジョン惑星キリアンに向かう道程で、ヴァレリアンはミール滅亡の夢を見た。
明確な意思を持って送られたヴィジョンではあるものの、時も場所も不明なそれを彼にはどうすることも出来なかった。 - 3.捜査官キリアンに到着したヴァレリアンとローレリーヌのコンビ。
彼らは連邦捜査局の捜査官であり、ミュール変換器という生物型デバイスの奪還に赴いていた。 - 4.バザー最大規模のバザーが別次元で開かれる、ビッグマーケット。
サイラスという宇宙海賊の持つそれを、見事奪い返した捜査官ら。 - 5.アルファ集合宇宙ステーション、アルファ。任務完了した彼らは国防長官に件の変換器の顛末を報告。
ひとまずそれは、ローレリーヌが携帯することになった。 - 6.汚染昨今アルファでは、放射能による汚染地域が問題視されている。
居住エリアが減少、ないしはアルファ自体の存続にもかかわるこれに、フィリット司令官率いる人間軍は対応を迫られていた。 - 7.護衛ヴァレリアンとローレリーヌは、司令官の護衛を任されることになる。
- 8.会談方針会議に重要人物が集まった。司令官に付き添う捜査官らだったが、その時侵入者が現れる。
それは件の夢に現れた、ミールの住人パール人たちだった。 - 9.制圧パール人の無効化技術は凄まじく、一同は手も足も出ぬまま制圧された。
彼らはフィリット司令官を誘拐すると、すぐにその場を立ち去る。 - 10.追跡ヴァレリアンは自力で封印から逃れると、パール人を追跡する。
しかし激しいドッグ・ファイトの末に、ヴァレリアンの乗るシップはアルファの危険エリア、レッド・ゾーンへと落下していった。 - 11.行方ローレリーヌはヴァレリアンを捜索することに。
情報屋のドーガン=ダギーズの導きにより、電脳クラゲを頭に被ってヴァレリアンの居場所を探し出す。 - 12.釣り合流した捜査官たちだったが、今度はローレリーヌが谷に揺らめく蝶の疑似餌に触れてしまい、ブーラン・バーソル一族にさらわれる。
この種族は縄張り意識が強く、居住区には入るも出るも困難なことで知られている。 - 13.擬態ヴァレリアンは潜入するため、擬態能力を持つ種族のグラムポッドを探す。
該当するバブルという女性はストリップバーで働いており、店主にいいように使われていたために、ヴァレリアンへついていくことを決断。 - 14.潜入ブーラン・バーソルへ化けるヴァレリアン。
潜入は楽にいったが、そこでローレリーヌが一族の王に供物として捧げられることを知る。 - 15.排水溝なんとか食べられる前にローレリーヌを救えたヴァレリアン。
しかし道中でバブルは、流れ弾に当たって息を引き取った。 - 16.真実遂にパール人へと辿り着いた捜査官たち。
そこで彼らから告げられた真相は、フィリット司令官がかつて起こした戦争により、惑星ミールが滅びたという事実だった。 - 17.自己弁護アルファ存続のために仕方なかったと言う司令官。
しかし彼の醜い部分は、その事実を隠蔽した上、パール人を拷問して情報を吐かせていたことだった。
ヴァレリアンとローレリーヌは彼の命令には従わず、パール人を逃がすことを決断。 - 18.包囲パール人の隠れ家がアルファ指令室側でも判明。ただちにこれを取り囲む一同。
通信によって誤解を解いたヴァレリアンだったが、司令官が予め設定したアンドロイド戦闘員=K-Tronが独自のロジックを発動。周囲の全てと、パール人に襲い掛かる。 - 19.決着人間軍と協力し、ヴァレリアンとローレリーヌは全てのK-Tronを撃破。
そしてパール人に変換器を渡すと、彼らの船出を見送った。 - 20.愛ローレリーヌは、かねてより囁かれていたヴァレリアンの愛に応えた。
設定諸々

大風呂敷のSF作品には、揺るぎない設定が求められる。
インフラ、種族間抗争、キャッシュフローに食糧事情。
時には数百年分の過去へ遡及した細かな設定を、言外であっても用意せねばならない。
本作は冒頭からその手の熱意が十二分に発揮され、あらゆる種族と人間の合流していくさまが描かれる。
また千の惑星都市での4分割された居住区では、特化した技能でもって各々勤めを果たす見るも愉快な生物たちが活躍している。
こうした描写は原作者であるメジエールの頭の中を映し出すような、いわば「他人の箱庭にお邪魔します」感があって楽しさに満ち溢れている。
楽しい止まり
楽しい≠面白い
数千の種族と数千の言語、あらゆる奇妙な技術に魔法のような最新科学。
こうした色とりどりの目新しいモノを前にして我々が、「楽しい」と感じるのは明白だ。
海外のバザーや礼拝堂、または工場見学をしている感覚に近い。今まで知らなかった分野への新しい扉はいつでも眩しく見えるものだ。
しかしこういった設定が盛られた中で、映画という作品の本質も失われてはならない。
ストーリーラインやシナリオ上の起伏など、基礎的な部分もまた、最高の映像体験を名乗るには欠かせないファクターである。
さてヴァレリアンという作品だが、練り込まれた時代背景や鮮やかな近未来感など、舞台装置は完璧に用意されている。
だがそこに、能動的で躍動感のあるストーリーは埋め込まれていない。
一見して存亡の危機に立ち向かう勇敢な捜査官たちを描いているようで、それすらも日常風景を凌駕する一大事には見えないのだ。有り体に言って、広げた風呂敷に見合う度量の物語を用意出来ていない、ということ。
あらゆる見も知らない新しい世界は我々にワクワク感を滾らせるも、それが別の感情へ至る前に作品はエンディングを迎える。
設定、設定、設定。それだけで完結している。
例えるなら、シムシティで発展を済ませた都市や大規模なレゴブロックを組み上げた完成品を見させられているのに近い。
制作者自身の中では、それはそれは面白く楽しく、筆舌に尽くし難い愛おしさに満ち溢れるスモール・ワールド。しかし部外者である我々に、それを共有させるようなギミックは見当たらない。
リュック・ベッソンやメジエールにとっては、「最高に面白い世界」
視聴者側の我々にとっては、「ワクワクするけど、それ止まりの世界」
不要な寄り道の数々

作中では薄い本筋に注ぎ足すように、様々な寄り道を余儀なくされる。
これらは紛れもなく「世界観」や、「近未来技術」を描写するためのサイドストーリーになる。
道中で意味不明な行動の大半は、このために費やされた。
特にバブルとのくだりはその最たるもので、彼女自身の死も含め、完全に必要性を見失ったタスクだった。
これらを数え上げればキリがなく、いかに対比される本筋が無味無臭のペラペラストーリーであるかを自動的に吐露していることになる。
オンラインゲームの「おつかいクエスト」にも似た、望まれない希釈テクニックだった。
イキったガキ感がキツい

この若者たちが「少佐・軍曹」という階級で呼ばれるのはかなり厳しい。
特に上記のバザー捜査編では、チャラい格好で現場をナメ腐った態度が相当鼻につく。
同行している部隊員がキッチリとミリタリーであるのが余計に対比されるのだ。
これらはヴァレリアンとローレリーヌがいかに凄腕であるかを示そうと試みたことになる。
しかしこの手の描写で喜ぶのは、十代前半がメインのキッズ層のみだろう。
また彼らが作中でいかにも知った風に愛を語るのだから、これがまた痛々しい。
後半部ではこのような軽装備は見られないも、やはり「規則・規律クソ喰らえ」の態度が隠れもしない。
かと思えばラストシーンでは変換器を巡って意見が対立したりと、疲れるバディなのだ。
彼らのピーキーな振る舞いはアダルトな視聴層には理解されないと思われる。
フィリット司令官を責めるな
敵性を撃破した際、惑星ミールを破壊してしまった司令官、フィリット。
彼をヴァレリアンとローレリーヌは、
と言うが、では彼はどうすべきだったか?
- トドメの一撃を撃たなかったら?
敵性撃破をためらえば更なる死傷者が増え、勝敗に関わらずその責務を問われ、或いは有罪となる。
また”敗北主義者”というレッテルを貼られれば、腹心や配下からの信頼は失われ、過激思想の者からは命すら狙われることもある。
更に敵性が船団を全て打ち滅ぼした末に、アルファ壊滅を狙うシナリオもある。
数千を超える種族のコロニーを、ためらいという一時の感情で壊滅させてもいいものか?
- 隠蔽工作をしなかったら?
データ改竄と証拠隠滅。聞こえは悪いが、史実ではどの国家もこれを行ってきた。
すっぽりと失われた時代の謎と言うと、日本なら卑弥呼時代だろうか。
この当時も、結構な闇の深い出来事があったと推測がされている。
話を戻すと、証拠もあけっぴろげに、「惑星ミール、ブッ壊しちゃいました」と司令官が告白した場合。
恐らく国防長官やその上、人類の方針決定に携わる者からの隠滅指示が下るだろう。
司令官がやらなくても、他の誰かがやるだけ。或いは作中で彼が吐かなかっただけで、上層部がとっくに絡んでいた可能性は極めて高い。
また仮に、あらゆる隠蔽工作を放棄した場合、人類側の求心力が損なわれる可能性もある。
アルファの大きな区画を有する人間の弱みを、数千もの種族が黙って見過ごす手はない。
結託した新興勢力によって、大きなプロパガンダ運動を開始するのは明白な未来になる。
司令官ひとりに押し付ける責任にとどまらず、人という種全体は糾弾されるだろう。
やがてアルファに居場所を失った人類は駆逐されるか、或いは新たな戦争を引き起こすことになる。
司令官を責めたくない気持ちの根幹には、彼なりの人類への献身があるからだ。
あの状況、誰だってスイッチを押したくない。
しかし時に指導者は、残酷な選択を強いられることもあるのだ。
彼は人類の繁栄のため、自らを犠牲に未来を切り拓いた。
ヴァレリアンとローレリーヌが無性にムカつくのは、知りもしない過去の出来事を勝手に断罪した挙句、勧善懲悪でもって人類へ献身を捧げたひとりの男に私的制裁を加える、その幼児的な振る舞いが原因だろう。
変換器?それは虐殺器

E = mc2
主に物体のエネルギーに質量が比例することを示した、アインシュタインの提唱する最も有名な方程式。
これは同時に、何も無い空間に純金を生み出す錬金術や、燃料を必要としない航行を否定した図式でもある。
悪魔召喚の黒魔術ではブラッド・サクリファイスを、火星探査機には太陽光発電を。
何かを犠牲にしなければ、もう一方の対価を得ることは出来ない。これは現宇宙の真理である。
では作中の変換器の話に戻る。
口にした物体を肛門から大量に噴き出す、奇怪な生物。
前述したように、物体の複製には何らかの対価を必要とする。作中で惑星ミールには何の異変も無いことから、恐らくどこか遠い辺境でこれは起きていると考えられる。
よってこの生物の体内では、多次元アクセスのプロセスが踏まれていることになる。
- 1.経口摂取変換器の口に、複製したい物体を入れる。
- 2.アクセス体内にて小規模ワームホール生成が行われる。
- 3.奪取遠い辺境にて、増幅ぶんのエネルギーを奪い取る。
主に恒星が好ましい。 - 4.変換肛門から奪い取ったエネルギーと同量の複製物を放出する。
現宇宙の真理として、「エネルギー=熱」この関係性が有る。
よってワームホール生成後に奪い取るエネルギーは、恒星が最も好ましい。太陽などの能動的に熱や光を発する星を吸い尽くすのだ。
恒星のエネルギーは当然無限でないため、場合によっては吸い尽くされた恒星は死を迎える。
通常は質量に比例して「褐色矮星~ブラックホール化」のいずれかの末路を辿る恒星だが、この生物にエネルギーを吸われた恒星は一様にその死期を早められるのだ。
よって変換を行えば行うほど、どこか見知らぬ宇宙の果てで恒星は吸い尽くされることになる。
その熱源によって恩恵を受けていた惑星の住人は冷え切り、また或いはブラックホール化したそれに呑み込まれることになる。
これがローレリーヌの複製した宝石程度であればそこまでの害はないが、作中に登場したパールであれば話は別になる。
宇宙船の10倍ものエネルギーを秘めた物体を量産すれば、途方もないエネルギーが吸われることになるのだ。その被害たるや、想像すらも出来ない。
素知らぬ顔で宇宙から膨大なエネルギーを吸い続けていたミールの住人、パール。
彼らは滅びるべくして滅んだ、史上最悪の無自覚な虐殺者だった。
無限のエネルギー
仮にこの変換器が全く代替エネルギーを要求しない、新世代の未知技術であるならば話は別だ。
使えば使うほど、全宇宙の生命体は幸福になる。
しかし作中でミールの住人は、これを自分たちだけで保有する未来を選んだ。これは宇宙民として別種族と袂を分かつ行為であり、体面的に否定しても未だ確執を抱えている証拠でもある。
更に変換器が存在した事実は公に隠し通せない大事でもある。よって今後ミール住人らを大々的に攻撃する未来は必ず訪れる。
またそれに相対するは無限のエネルギー保有者。この未曽有の大戦争により、宇宙は混迷の時代を迎えるだろう。
評価
完全にキッズ向け。大人は喜ばない映画だ。
興行収入は大コケしたが、リュック・ベッソンは続編へ意欲的だという。

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