地球外生命体とのコンタクトを描いたSF映画、ASTROをレビュー及び評価、感想、解説。
あらすじ
隣接銀河から地球外知的生命体を捕獲に成功した、ビッグズ宇宙工業。
社長のアレックスがその生物=メタを調べさせると、なんと地球上に酷似したDNAを持つ人間が。
それはかつての軍人仲間であった、ジャックだった。
ジャックを仲間に引き入れるため、アレックスは様々な画策を施す。
時に私兵部隊を送り込み、時に娘をダシに脅迫をして。
やがてメタとジャックを対面させることに成功したアレックスは、そこで恐るべき計画を発動するのだった。
ネタバレ概要
- 1.捕獲ビッグズ工業が宇宙航行にて、別銀河から知的生命体を捕らえる。
採取したサンプルからDNA鑑定を行ったところ、なんと地球上に全く同じ組成を持つ人物が判明する。 - 2.誕生日農場にて娘と二人暮らしのジャック。その日は彼の誕生日であり、本来なら慎ましく迎える静かなものになる予定だった。
しかしビッグズ工業経営者のアレックスからの遣いにより、彼は豪邸でのパーティに招かれることに。彼らはかつて戦場で共に戦った仲間であり、ジャックはこれを断り切れなかった。 - 3.不穏アレックスはジャックに自分の企業で働き、宇宙航行のアドバイザーとして赴任するように頼む。しかし娘を残して行けないと彼は断りを入れる。
するとアレックスは夜半に農場へ向けて刺客を送り込む。辛くも暗殺者たちを撃退し、モーテルへ逃げ延びる父娘。 - 4.承諾自分と居ることで娘を危険に晒すと感じたジャックは、叔父の家に身を寄せるように言い渡す。
自らはアレックスの要求を呑むことで、彼の懐に入り込む決心をした。 - 5.邂逅施設内を案内される中、突如冷凍室にジャックは閉じ込められる。
裏切りを露呈させたアレックスの罠によって、ジャックは囚われの身となる。
そしてその先で出会った人物は、自分と同じDNAを持つ宇宙人、メタだった。 - 6.真相メタの正体は、並行宇宙に生まれた自分の息子だった。
同じDNA組成を持つことの真相を知ったジャックだったが、ここでアレックスによる過激な実験が開始される。
彼は私兵部隊を送り込むと、戦闘データ採取のために次々とジャックを襲わせたのだ。
更にアレックスは、ジャックを宇宙に連れていくために強引に宇宙船を発射させる。 - 7.決着強敵を打ち倒し、ジャックは勝利する。しかし地球は遠く、既に遥か彼方だった。
その頃娘の元に地球に潜んだ宇宙人のひとりがコンタクトを取り、謎の石を渡す。
あらゆる運命の中心を握るというその石。果たして、彼らの運命は?
全ジャンル要素てんこ盛り
豊富なジャンルを網羅した、ゴテゴテ感が凄まじい本作。
ここでは定食で例えよう。
ファンタジー

突如謎のガスを浴びた兵士が、エンチャントナイフを使用し始める。ビッグズ工業では、どうやらファンタジー的なパワーに目覚めるための啓発活動も行っているようだ。
このエンチャントナイフはとても切れ味が鋭いが、ガラスの破片で対抗することも可能だ。
もう普通のナイフでもいいのでは?
ミリタリー

ジャックとアレックスは元軍人。
突如、全く必要の無いフラッシュバック映像が挿し込まれるのはその為だ。
その場面も相当練度が低いのが丸見えで、尚且つSEで手を抜いたので銃声がBB弾ぐらいにしか聞こえない。
急激にクオリティが上がる部分は、実写映像を拝借しているため。
ストーリー的に何の意味合いも持たないこの場面を、なにゆえ採用したのか?
オカルト

私兵部隊の夜襲で、持病の喘息を起こしたジャックの娘。
霞む視線の先に、死んだはずの母親の姿が!
お母さん!
以降、オカルト要素は一切消える。
驚嘆するほど安っちい絆演出で、違うベクトルの感動が湧いた。
アクション

可笑しなことにこの映画、アクションの出来が良いのだ。
50歳のジャックは動きキレキレの、ハイキックも出来ちゃうイケてるおじさんだ。
ライフルを持った雑兵ごとき、徒手空拳で制圧するのに何のこともない。
ただあくまで、「アクション」が良いだけで「アクションシーン」が良いわけでないのに注意。
全体的に編集、カメラワーク、SEなどは全滅の憂き目。
身体を張ったムービングも、その他で殺されては元も子もない。
それに頑張ってほしいのは、アクションではない。
サスペンス

あからさまに怪しげな二人組。
ネタバレすると彼らは宇宙人で、昔々アレックスの父親に命を救われたらしい。
その後戦地で重傷を負ったアレックスに借りを返すことに。
が、一見して超重要人物に見えて、その実全然シナリオに絡んでこない。
これはサスペンス担当が仕事を放棄した形になる。
謎や陰謀もゼロだ。
SF

宇宙船などに使われるCGは20年前の技術水準。FF7を思い出した。
また宇宙旅行の描写は全く無く、当然ながら宇宙人=メタを捕獲する場面も無い。
メタの生態もかなりいい加減で、長々捕らえている割には少しも情報を引き出せていない。
彼は念動力を使うようだが、その部分の説明も一切為されない。
よってSF感は限りなく無色透明に近い。
重力解析

作中では驚くべきことに、ビッグズ工業は重力を完全解析したという。それも16年前に。
この技術を使用して、遥か遠く隣接銀河にも日帰り旅行のような気軽さで行けるらしい。
更に驚くのは彼らは重力を作用させて惑星の軌道を変えることが可能だという。
火星や月、どこでも住みたい惑星に住めるというのだ。
惑星の軌道を変えたら?
仮にこれが可能だとしたら、まず地球上の全生物を滅亡させることが可能になる。
また地球自体を粉砕することも容易だ。
地球の軌道を変える場合
太陽に対しての公転軸を少しずらすだけで、灼熱にも極寒にもなる。
あらゆる生物の99%は滅びるだろう。
また公転のバランスを崩すほどの操作を行った場合、太陽系から地球が離脱することも考えられる。
冥王星が太陽系から外れたのは記憶に新しい。
公転軸を外れた地球は、いずれ他の惑星によって削られ、或いは衝突して粉微塵になる。
他の惑星の軌道を変える場合
太陽系は絶妙なバランスで出来ている。
隣接する金星や火星を動かすだけでも、その他の惑星に大幅な影響が出るだろう。地球も例外でない。
また仮に木星や土星を動かすと、どうなるか。
木星と土星が、打率9割のバッターであることは存外知られていない。
この星々は太陽系外から飛来する隕石や彗星を引力で誘引する。時に逸らし、時に自ら受け止めるのだ。
隕石飛来は、地球自前の成層圏の摩擦のみで到底守り切れるものではない。大質量の隕石や彗星の大半は、木星と土星という守り神によって事前に打ち返されているのだ。
この有り難い働きによって、地球は凄まじい恩恵を受けている。
仮にこのふたつの惑星が太陽系からおさらばすることがあれば、我々の大地は地獄絵図になるだろう。
またこの引力の強い星が、地球に近付いたら更なる悲劇が訪れる。
大地は削れ、海は空を舞い、新球に近いと言われる星の形は引き伸ばされて食い千切られる。
惑星を動かすなど、最初からリスクでしかないのだ。
しかしこんなことを真面目に考える必要は無い。
何故ならこの映画が、少しも真面目に考えて作品を作っていないことがとっくに明白だからだ。
恐るべきラストシーン

夢でも見ているのか。
テレポートしてきた宇宙人は、ジャックの娘に突如石を差し出す。
少しも意味がわからない。わかるように作られていない。
何が起きているのか、既に誰にもわからない。
完全に脈絡を失ったその展開に、止まらない笑いと悲しみが交互に訪れた。
そう、気付いてしまったのだ。
評価
投げるな。

コメント
WOWOW で見たけど…
最後まで見て「なんじゃこりゃ」
見て損したって感じです、時間を返せって
同じく、WOWOW で見たけど…
これ、続きがあるのか?
こんな酷い映画、見たこと無いぞ。
パッケージには期待していた。
あれ、ロボットだったんだな。
同じく、見ていた時間を返せ!