【映画】ホテル・エルロワイヤル/老害用追憶ムービー【考察あり:ネタバレ注意】

サスペンス

ネバダ州とカリフォルニア州にまたがるホテルで起きる騒動を描いたクライムサスペンス映画、Bad Times at the El Royaleをレビュー及び評価、感想、解説、考察。

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あらすじ

掃除機セールスマンのサリバン。
老いた神父のフリン。
売れないシンガーのダリーン。
態度の悪いヒッピーのエミリー。

奇妙な客の集ったホテル・エルロワイヤル。流行りから取り残された郊外のホテルを取り仕切るボーイのマイルズと、おかしな客たちの事件が始まった。

ネタバレ概略

ネタバレストーリー
  • 1.
    大金
    ホテルの一室に泊まる男。カーペットを剥がし床板を外すと、唸るような大金をそこに隠した。
    やがて誰かと待ち合わせた彼は、その仲間にショットガンで吹き飛ばされた。
    かくして大金は、誰にも知られずにその床下に眠ることとなる。
  • 2.
    10年後
    ホテル、エル・ロワイヤルに宿泊するため偶然集った四人。
    黒人のダリーン、老いた神父のフリン、よく喋るセールスマンのサリバン、愛想の悪いヒッピーのエミリー。
    時代から取り残され安ホテルと化したここを取り仕切るのは、たったひとりのボーイ、マイルズだ。
  • 3.
    偽装
    スイートルームを強引に借りたサリバンだったが、彼は部屋に入ると慣れた手つきで盗聴器を探し始めた。部屋中にありったけ仕掛けられたそれらを取り外すと、今度は使用人用のバックヤードに入り、怪しげな通路を見つけ出す。
    そこは全ての部屋がマジックミラーによって一望出来る、悪趣味で不義理なウォッチ・ルームだった。
  • 4.
    フリン神父の過去
    床板を剥がす神父。彼は冒頭で撃ち殺された人物の兄であり、共に強盗を働いた共犯者でもある。つまり彼は、本物の神父ではない。
    弟が隠した大金を取り戻すためにホテルへ宿泊したものの、物忘れの激しくなりつつある彼は、部屋番号をあやふやにしか覚えておらず、運悪くそれを誤った。
  • 5.
    ダリーンの過去
    バックコーラスとして脇役の歌手を続けていたダリーン。
    プロデューサーの口車で枕営業をした彼女だが、栄光の道は嘘っぱちで、今は安いギャランティで郊外を回る二流シンガーに甘んじている。
    リノの街で控えた仕事のために、その夜、安上がりなエル・ロワイヤルを選んだ。
  • 6.
    エミリーの過去
    虐待を振るう両親の許で育ったエミリーとロージー姉妹。
    ある日妹がカルト指導者のビリー・リーと出会い、瞬く間に心酔してしまう。エミリー自身も彼のコミュニティに属したものの、ロージーが親を刺し殺したことでそれは一変。
    カルト集団から妹を引き剥がすと、逃げ込んだ先はエル・ロワイヤルだった。
  • 7.
    混入
    自分の部屋が隠し場所でないと理解したフリンは、ダリーンの部屋こそが正しい部屋番号であることを察した。そこで彼女を夕食に誘い出して酒に混ぜた睡眠薬を飲ませようと試みるも、男性不信に陥っているダリーンはこれを見破り、逆にボトルでフリンの頭を殴って昏倒させる。
  • 8.
    発露
    縛られたロージーをマジックミラー越しに発見したサリバンは、誘拐事件とこれを判断した。
    彼は直属組織に報告も兼ねてこれをかけ合うが、「任務外のことに手を出すな」と一蹴される。
    しかし義憤から彼はエミリーの部屋を訪ね、そこで揉みあいの末にショットガンで射殺されることになる。
  • 9.
    目撃
    目覚めたフリンは、マイルズの懺悔により監視部屋の存在を知る。そこで偶然エミリーの部屋を覗いていた彼らは、サリバン殺害の瞬間を目撃することに。
    また鏡越しにサリバンの背を見ていたマイルズは、散弾の巻き添えを受けて負傷する。
    更にホテルから逃げ出そうと試みていたダリーンもまた、部屋の外から一連の事件を目撃していた。
  • 10.
    結託
    マジックミラーとエミリーの異常性が周知となったことで、フリンはダリーンに共謀を持ちかける。殺人鬼の目を引きつける間に、床板をこっそりと剥がす作戦だ。
    これはうまく機能し、彼らは山分けのための大金を手にすることとなる。
  • 11.
    狂信
    密かに電話をかけていたロージーにより、カルト指導者、ビリー・リーが遂に現れる。
    フリン、ダリーン、エミリー、マイルズは縛り上げられ、彼のゲームに付き合わされることに。
    ルーレットの50%に敗北したエミリーは、胸を拳銃で撃ち抜かれて死亡する。
  • 12.
    逆襲
    隙を突いてフリンはビリー・リーに襲い掛かる。ダリーンはマイルズにカルト集団を殺すように求めるも、彼は戦争で殺人を重ね過ぎた罪に耐え切れず、これを拒む。
    しかしダリーンの優しい言葉に心を決めたマイルズは、素早い射撃でその場のカルト集団を全員射殺した。
  • 13.
    洗脳
    ビリー・リーの死体に追い縋るロージー。マイルズは謝罪を述べるも、彼女が隠し持っていたナイフにより刺傷。フリンは慌て、ロージーを射殺した。
  • 14.
    救済
    燃え広がるホテルの中、偽物の神父による告解の儀が行われる。
    罪を独白したマイルズは安らかに逝き、ダリーンとフリンは金を持って命からがら逃げだした。
  • 15.
    リノのカジノ。全てを終えたダリーンの歌を、老いた男がにこやかに見守っていた。

演出力は流石

スイートルームで客人を出迎える男

冒頭のサイレントから始まり、ラストまで視線を惹きつける工夫が随所で凝らされている。
ともすれば退屈で面白味の無くなりそうな展開も多い中で、創意を張り巡らしたこれらには感服するだろう。

特に「ありきたりなシーンを面白く」、という意思が強く見える。

例を挙げると、銃撃による射殺シーン。
想定したテンポを半歩ずらすテクニックが用いられており、一般的な映像作品で考えられる間の取り方を徹底的に嫌っている。
これにより展開的に読めていたはずの死すらも衝撃的に昇華され、イコールで面白さを感じているかのように思わせている。

オムニバス

マジックミラー越しに姉妹を見る捜査官

各々の独立したサブストーリー=オムニバスが徐々に集約され、大タスクである本筋を為すタイプ。
仕様自体には不満はないものの、終盤に行くにつれてやや息切れ感は見られる。
特にビリー・リー登場あたりからそれは顕著で、残り少ない内容に対して余った時間が目立つ。
希釈されたシーンによって徐々に印象がボケ始めていく様子から、もっと尺を絞って濃縮すべきだったように感じた。

また微妙に感じたのは、宿泊客たちの関係性。
現実感を犠牲にしても、もっと運命的なバックボーンを絡めていくのがエンターテイメントのように思う。
現状では単に「殺人の目撃者」としての、緩くて希薄な絆しか生まれていない。
これにより結託したフリンとダリーンに違和感を感じずにはいられない。

前提:アメリカの歴史への造詣

たき火を囲むヒッピーら

良い面でもあり悪い面でもあるのが、作中の出来事の大部分が史実へのオマージュである部分だ。
よってアメリカの歴史に造詣のある識者のみしか、本当の意味で本作を味わい尽くすことが出来ない。
逆に歴史に聡い者であれば、「なるほど、コレはあの時のアレね」と風刺じみた描写に舌鼓を打てる。

また俳優陣が豪華な一面や、彼らのこれまでに演じたキャラクター性を多少盛り込んでいるのも特徴的。
例えばフリン神父を演じたジェフ・ブリッジスなどは、酒に溺れる役柄が多いことで有名だ。
こういったオマケ要素の積み重ねは、細かい部分でコアな映画ファンに刺さるような仕掛けになっている。

寄りかかり

しかしこういった要素はあくまでオマケの範疇を逸脱すべきでない。
真に追求すべきは映画単体の出来映えであり、それを度外視したメタ要素だけで盛り上げるのなら、テレビショーでも見ているほうが何倍もマシだ。
本当に面白い映画であれば全く予備知識の無いライトユーザーにも訴求力はあるはずで、またあるべきとも言える。


で、こういう要素を差っ引いた本作の出来映えだが、正直悪い。
エンタメ感もメッセージ性も乏しく、オマージュ要素を撤廃したら残りは燃えカスのホテルしか記憶に無い程度に。

しかし思ったよりも本作は批評家に好評であり、また一般的な評価も高めになっている。
こうした意見の背景には、単に作品の面白さを褒めているだけでない、という事実を見抜く力が必要だ。

好評の裏に

大半の部分が、”自称:映画通”をニンマリとさせるためだけに描かれており、悪いことにこういった作品を称賛しておけばその、”映画通”に自分を粉飾出来るという面もある。

よって実際の善し悪しなどには目もくれず、

「とりあえず太鼓判捺しておけば、私もコアユーザーの仲間入り」



という思考が潜む。

これはサンプリングの元ネタを次々に口先で披露しては悦に浸る、自称:クラシックなHIPHOPファンに似ている。
いわゆる知識マウントだ。

日本で劇場公開されなかった理由

こういった知識マウントを取れる識者以外、概ねのユーザーには理解されない作品であることを見抜いていた、ということになる。

この決断は正しく、きっと国内のシアターでは空席が目立つ結果になっただろう。
また米在住であろうと、若年層にも同じく訴求性は低いと思われる。


本筋が面白く、そこに付加価値としてオマージュが含まれる良作であれば絶賛を受けただろう。
結果的にこの映画を評価しているのは、歴史や映画業界に造詣の深いコアユーザー、言い換えれば老害だけが残った。

BGMは最高

ステージに立つダリーン

ダリーンを演じたシンシア・エリヴォ。
作中でビリー・リーは「二流だな」としたが、実際の歌声は我々を魅了した。
作品のコンセプトとして音楽が占める比重は高く、またそれに見合うものを彼女は提供した。

懐メロをバックに味わう追憶は、タイムリープのような感覚を味わわせる。
一部では過剰で冗長とも取れる演出が見られたが、概ね好印象を与えただろう。

黒人女子特有のナチュラルビブラートとバネ感。メチャクチャ伸びる声色が耳にこびりついて離れない。

評価

映画通以外には駄作。アメリカマニアなら必見。



ライトユーザーは手を出さない方が無難だ。

★★★☆☆
三ツ星の良作。
ホテル・エルロワイヤル (字幕版)
ホテル・エルロワイヤル (字幕版)




以下、考察及びネタバレ注意。






各オマージュ元

作中に登場したオマージュを解説していこう。

ホテル・エルロワイヤル

Cal Neva Lodge & Casinoの風景

ホテル・エルロワイヤルにも元ネタが存在している。
作中と同じくネバダ州とカリフォルニア州にまたがるこのホテルは、Cal Neva Lodge & Casinoという名を持つ。
実際の境界線は中央で真っ二つという訳でもないようで、ややカリフォルニアに占める面積の方が大きい。

かつてはフランク・シナトラがオーナーだったこともあり、作中でダリーン=音楽にフォーカスしている部分と関係性を見出せるだろう。

またシナトラは元大統領のジョン・F・ケネディや、その父親であるジョセフ・P・ケネディと親交があった。
作中でサリバンの調査していた案件は、まさにこれを指したものである。

サリバンは何者か?

部屋で盗聴器を発見する場面

作中で、「警察官のような男」とされたサリバン。

彼の行動を探るには、史実に問うのが最も容易い。逆に現実の事件を知らない場合、作中のエビデンスだけで真意を確かめるのは絶対に不可能なように出来ている。

所属はFBI

電話で「フーヴァー長官」と言う場面と、盗聴器をことごとく見つけ出すスキルから、彼がCIAかFBI、いずれかの所属であることは絞れるだろう。


このフーヴァー長官は実在の人物で、ジョン・F・ケネディ政権当時にFBI長官だった男だ。
よってサリバンの正体は、「掃除機セールスマンを装ったFBI捜査官」であることが分かる。

何を調べていたのか?

これを説明するには、まずフランク・シナトラを知らなければならない。


シナトラは元々マフィアとの交友があると噂されており、その実態は暗黙の了解に近かった。

彼はとりわけシカゴのマフィア集団のボス、サム・ジアンカーナと懇意であったことが有名だ。
このジアンカーナ、かつてはアル・カポネの右腕を務めた男と言えば凄みが伝わるだろう。

また前段の通り、シナトラには当時大統領候補であったジョン・F・ケネディやその父とのコネクションもあった。ここでケネディ家は、シナトラを通してマフィアの力を借りることを思い付いたのだ。

ケネディ/シナトラ/ジアンカーナ



ケネディ一族は選挙活動のため、シナトラを通してジアンカーナへの協力を要請する。
大統領選は上手くいったものの、この時ジョン・F・ケネディは致命的なミスを犯す。それは作中でキーにもなった、スイートルームの隠し撮りフィルムだ。

ジアンカーナの情婦との密会



ジョン・F・ケネディはCal Neva Lodge & Casinoにてマフィアの情婦と密会したとされている。
作中でマイルズの所有していたフィルムは、この現実へのオマージュになる。

ジョン・F・ケネディにとって致命的なのは情婦との密会自体ではなく、そこからジアンカーナへと結びつくこと=マフィアとの癒着発覚であった。

当時フーヴァー長官は、ケネディ一族の不穏な動きを探らせていた。これがつまり、作中でサリバンの行動とイコールになる。

よってこの項の結論として、

サリバンの任務=ジョン・F・ケネディとマフィア癒着の証拠取得



以上になる。

大統領なのにFBIに調べられるのか?

結論から言うと、権限上は可能である。


FBIは独立執行機関であるため、上位の命令系統には司法省が入る。
ここに権限上はホワイトハウスといえど手出しは出来ず、つまり政治高官であっても汚職から逃れられないシステムを同時に作り出している。(水面下の圧力はあるものの)

よって大統領命令と相反する捜査方針を取ることすら可能になっている。
昨今ではトランプ大統領によるFBIへの介入がやたらニュースで目立つが、これは命令系統を無視した行動にあたるからだ。


また時代背景として、この当時のFBIはかなり権限が強く、また行動も多岐に渡った。
作中のビリー・リーのようなヒッピーから、ジョン・レノンやキング牧師のような人物の監視すらも一手に引き受けていたとされる。

ビリー・リーのモデル

ダリーンに詰め寄るビリー・リー
  • 若年層の洗脳
  • 殺人者
  • ヒッピーの特徴



これらから、かの有名なカルト指導者であるチャールズ・マンソンをモデルにしている。


マンソンの特徴として、強力な洗脳力と残虐な殺人の指示が挙がる。
作中でもエミリーとロージー、特に妹は強力に洗脳を受けていた。

マンソンは独特の説法や麻薬を用い、こうした信者を数十人単位で集めていたとされる。
彼らは殺人や暴行に躊躇いを持たず、マンソンの求めるままに犯行を犯した。

ロージーの熱い眼差しから、ビリー・リーにはその元ネタを強く想起させるものがあった。

強烈なマンソン批判

口ではご立派な信念を語るけど でも実際は 女とヤリたいだけ
ウンザリよ 飽き飽きしてる



ジョン・F・ケネディへ向けた言葉であったはずが、同時にビリー・リー=マンソンを批判したダリーン。
この部分はかなり痛快だった。


マンソンはその強烈なカルト性から、凶悪犯ながら多数のファンを獲得している。

そうした側面を一蹴するような、「有象無象と変わらないヤツ」というひと言。
ビリー・リーのリアクションがなんとも言えない。

マイルズの過去

マイルズが従軍したベトナム戦争の過去

ボーイのマイルズに関しては、非常に単純な話になる。
結論から言えば、

ベトナム戦争のPTSD被害者



これが正しい。

これは物語のトリックというよりは、当時の時代背景にひっかけたタネ明かしになる。
よって深い意味合いなどは含まれておらず、額面通りに受け取るのが正解。


正直、ラストシーンに持ってくるには肩透かしなギミックに思えた。

終わりに

無理に時代背景を持ち込み過ぎて、エンターテイメント性が損なわれる部分が多すぎる。作中のみで完結される謎がほとんど無いのだ。
現実の出来事を知らなければ解が出ないというのは、映画作品としてどうなの?といった感触を持たざるを得ない。

もっとフィクションで攻めるべきだったように思う。

ホテル・エルロワイヤル (字幕版)
ホテル・エルロワイヤル (字幕版)

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