【映画】カットバンク/ダービー・ミルトンの謎を徹底解明【考察あり:ネタバレ注意】

ヒューマン

田舎町で起きた殺人を描くヒューマン映画、CUT BANKをレビュー及び評価、感想、解説 、考察。

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あらすじ

モンタナ州は田舎町、カットバンク。

ドゥエインはその日、恋人のカサンドラをビデオ撮影していた。
すると彼女の後方で、何やらもめ事を起こすふたりの男が。驚いたことに片方は拳銃を抜くと、相手の郵便配達員を撃ち殺してしまったのだ。

彼らは慌てて町の保安官、ヴォーゲルに顛末を報告。小さな町で起きた初めての殺人事件に、彼らは不穏な気配を感じる。

間もなく町にワシントンD.C.から派遣された、郵政監察官が訪れた。
郵便配達員の殺害を目撃した者には懸賞金として10万ドルが約束されており、事件の概要が把握され次第、ドゥエインにはその金額が支払われる予定になっている。


しかし一連の裏で、郵便の配達を心待ちにしていたミルトンが独自に調査を開始し始めたことで、事態は急展開を迎える。

田舎の空気感

子供らと遊ぶのどかな風景

作品のテーマとして、「田舎の良い部分、悪い部分」を描く場面が大半を占める。


町の住人は三千人。生活圏で接する人々は大抵が顔と名前を互いに知っており、それがプラスにもマイナスにも働く様子を見せつける。

家族構成、仕事、交友関係、人となり。
あらゆるプライバシーは筒抜けであり、人当たりの良い者は快適に過ごし得るだろうが、そうでない者の居心地の悪さも容易に想像出来る。


また郵政監察官のジョーのみがD.C.在住であり、彼に首都の様子を聞くドゥエインの振る舞いが興味深いものに見えた。

ジョー曰く、

不潔 ストレス過多 怒りっぽい
孤独で腐敗してて、物価が高い
でも大好きだ



どこの国でも、首都は似たようなものである。


作品の分類としてはスリラー映画であるとされるが、本質はこのようなカントリー風景へのフォーカスになる。
通常のクライムサスペンスとして見た時には、全く見劣りする出来映えになる。
しかし本質はそこにはないのだ。


田舎町の騒動録。
生まれ育ちが似たような境遇の者こそ、この作品への共感度は高くなることが予測される。

クセ強

都会の公務員と田舎の保安官

とにかくキャラが濃い。

しかし特別、容姿が奇抜な者や奇怪な喋り方をする道化は居ない。
これは純粋に、言及されない部分の人物設定を、端役であっても隅々まで追及した結果と思われる。

靴屋、町の子どもたち、郵便局員、インディアン。

あらゆる人物はほんの短いシーンの隙間で、圧倒的な存在感を響かせる。
ほんの数秒の邂逅ですら、どんな人物かを推し量るのに十二分な輝きを見せているのだ。


しかし最大にして狂気的な存在感を放つ唯一無二の人物は、間違いなくダービー・ミルトン。
その不気味で怪しげな人物像から、観る者を惹きつけてやまない。

この謎の男を深掘りすることこそが、作品の裏テーマと言って過言でないだろう。
詳しくは後段の考察部で解説する。


彼は人に会うたびに、「死んだと思った」と軽口を言われる。
これは過去に死ぬような事故に遭ったということでなく、田舎町特有の悪習のようなものだ。

互いに顔見知りばかりの町でしばらく顔を見ない者は、「死んだヤツ、或いは死んでいるも同然のヤツ」と揶揄される。
仮に悪意が無かろうと、誰しもがこのような言葉を投げかける町で生きていくのは、どんな心持ちか。

その猟奇的一面からサイコキラーと断されるミルトンだが、彼の内面にも人間としての心模様が存在している。

陰鬱な日常

意識を失った父に語り掛ける息子

介護問題、金銭問題、仕事。
目を背けたい問題ばかりが溢れる作中。
現実で同じ境遇を共有する者にとっては、耳の痛い話ばかりだろう。

物語の中で、鬱屈としたカットバンクでの生活を疎む者は主にふたり居る。

  • ドゥエイン
  • ジョージー



このふたりだ。

一見して共通点のそれほど無いふたりだが、唯一の共有する問題として、「カネ」が挙がる。
この即物的な存在こそ、彼らを生まれ故郷に縛り付ける枷になる。

ドゥエインは恋人と共に都会に出るために、ジョージーは憂鬱な日常を飾った笑顔で取り繕う自分に嫌気がさしたために。
互いの利害が一致した彼らは、共に偽装殺人を画策した。


だが皮肉なことにラストシーンでドゥエインを救ったのは、自身が軽んじたふてぶてしい老人の死体と、忌み嫌った田舎の風習そのものであった。

笑顔でカットバンクの境界線を越えていくドゥエインとカサンドラ。
その境で止まる、子供たち。

去りゆく彼らの後ろ姿を純粋に応援するような気持ちには、決してなれない。

評価

憂鬱で陰気なカントリードラマ。サスペンス感は低い。



スリルやドキドキを求めないスタンスならば、視聴に後悔は無い。

★★★☆☆
三ツ星の良作。
Amazon.co.jp: カットバンク(字幕版)を観る | Prime Video
モンタナ州カットバンク。ある日、郵便配達人ジョージ-が射殺される。目撃者はドウェインとカサンドラの若いカップル。しかし、配達トラックと共に死体は消え、残されたのはドウェインが撮影した動画のみ。それもそのはず、事件はドウェインとジョージ-が仕掛けた偽装殺人だったのだ。2人は情報提供の報奨金を手にするつもりだったが、事件に...




以下、考察及びネタバレ注意。






ダービー・ミルトンの謎

郵便局に現れたダービー・ミルトン

猟奇的な殺人鬼として描かれたミルトン。
彼の背景を考察しよう。

仕事は剥製屋

剥製をつくるダービー・ミルトン

モンタナ州は自然が豊富で、野生動物も多く生息する。
作中で彼とドゥエインの父が共に働いていた国立公園とは、かの有名なイエローストーンのことであろう。

モンタナでは主にシカ、毒ヘビ、クーガー、オオカミ、グリズリーなどが生息する。
彼の生業はこうした動物の剥製づくりだと作中で示される。

トラッキング技術

靴跡からトラッキングを行うシーン

厳しい自然をたたえる国立公園では、自然の知識を有しない者は足を踏み入れる資格が与えられない。
特に地面に残された動物の痕跡を確かめることは、自衛のための必須技能に数えられる。
彼が保安官よりも容易にネイティブのマッチへ辿り着いたのは、ここで培ったトラッキング技術のためだ。

人間の残す足跡は野生動物よりも格段に簡単に追えるとされている。
ミルトンにこのような能力があるのも、自然の中で暮らしているとすれば少しも不思議ではないだろう。

捨て子

幸せな家族を羨むダービー・ミルトン

ジョージーが言ったように、彼は幼少期に森に捨てられた。
知能に問題がある子だと判断され、捨て置かれた哀しい過去。
家族の写真や風景画に惹かれる様子を描くのは、本当の両親を知らぬまま育った境遇を補うものを探しているからである。

この心の傷こそ、地下室の異様なオブジェを生み出す狂気へと繋がった。

小包と死体の剥製

異常な家屋に踏み込んだ保安官

ミルトンが小包にこだわる理由は何だろうか。


この絵画はジクソーパズルで構成されている。すなわちミルトン自ら描いた絵画でなく、”売っていたパズルを購入した”、という根底をわざわざ示されている。

このため、オブジェと絵画の制作順が明確に明らかになる。

パズルの絵画を確認

死体オブジェを合わせるように作成



前述したように、彼は家族の愛を知らない。

ジクソーパズルに答えを求めたミルトンは、このパズルと死体オブジェの完成をリンクさせた。
すなわちこれらを同時に完成させることで、過去に触れられなかった両親の愛を疑似再現しようと試みたにほかならない。

見も知らない両親の、疑似家族愛を再現するためだった



しかしドゥエインの計画により、小包のみが届くことがなかった。
何を欠いても両親の疑似家族愛が得られないと信じたミルトンが、必死に小包を探したことに疑問を挟む余地はないだろう。

地下の死体オブジェは誰か?

密猟者の首を折った



ミルトンは自らこう証言している。

彼らの死体を使ったことは明白だろう。

作成開始は遥か前から始まっていた

変わった周期で郵便を受け取ってた



ジョージーは小屋で対峙したかつての顧客にこう言った。
またミルトンも、毎年6月に注文を入れていたようなことを仄めかす。


これにより、数年前からオブジェ作成が密かに行われていたことが明らかになる。
パズルと類似したものをカタログを眺めながら、ひとつひとつ注文して集めたのだろう。
小包は最後のひとピースだったというわけだ。

クマの話

オーソンとの過去を語るミルトン

ミルトンが語ったクマの親子の話は覚えているだろうか。

人家を荒らしたクマの親子。

テリトリーを犯したとしてレンジャーはクマたちの処分を要求する。
オーソンはこれを拒否したが、ミルトンはクマの親子を殺させられた。
人々はそれを笑顔で眺め、写真を撮って喜んだ。

ミルトンはその日以来、下を向く日々を続けている。



なぜ彼はこの話をしたのか。ふたつの意味合いが見えるだろう。

引き裂かれる親子

次の銃弾が発射される僅かな間とはいえ、親子は別々の世界へ引き裂かれることになる。

自らの生い立ちを重ねたミルトンに、この事実は耐え難いものであっただろう。

自身を重ねた

森に捨てられた男、ミルトン。
彼は人家に忍び込んだクマと、人の世に馴染みきれない自分の性を重ねる。


作中のストーリーを思い出そう。

人家に忍び込み、人のテリトリーを犯したクマ。
人里離れた森の中で隠居するミルトンは、小包が届かないという理由で人前に久方ぶりに姿を現した。
 
レンジャー及び民衆はクマの処分を求める。
彼を理解しない人々は、陰口や悪態、或いは直接的な手段で排除を試みる。
 
クマは殺され、人々は笑顔でそれを写真に収める。
猟奇的サイコキラーは保安官の手により成敗され、町の住民はヒーローを称える。



自身を重ねることで、ミルトンには自らの死という結末も見えていた。

また自分が既に人間という枠からはみ出したことも自覚しており、その証が人の顔を見ない仕草になる。
クマを殺した朝、彼は人間をやめたのだ。


もしかすると地下のオブジェが完成することで、自分の中に人間性が宿ると考えたのかもしれない。
迫り来る死の寸前にあっても、人間に憧れたミルトン。

しかし最後の願いは虚しく、小包は届くことはなかった。

終わりに

流し見で見るとただのサイコ男だが、深掘りでこんなにも色彩を放つことになったミルトン。

批評家の多くには理解されないシナリオだったが、個人的には心に残る殺人鬼となった。

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モンタナ州カットバンク。ある日、郵便配達人ジョージ-が射殺される。目撃者はドウェインとカサンドラの若いカップル。しかし、配達トラックと共に死体は消え、残されたのはドウェインが撮影した動画のみ。それもそのはず、事件はドウェインとジョージ-が仕掛けた偽装殺人だったのだ。2人は情報提供の報奨金を手にするつもりだったが、事件に...

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