隣人トラブルを描いたヒューマン映画、EL HOMBRE DE AL LADOをレビュー及び評価、感想、解説。
あらすじ
椅子のデザインで富を為した、デザイナーのレオナルド。
ある日彼は、何かの打音で目を醒ます。ハンマーのようなそれは、どうやら隣家から聞こえるようだ。
音の元を辿ると驚くことに、隣人宅の壁に大きな穴が空いているではないか。
隣人ビクトルは、どうやら窓を作りたいらしい。
だがレオナルド宅の窓と向かい合うそれは、明らかな法令違反。
また娘や妻のプライバシーを守るためにも、なんとか窓の作成を阻止したい。
かくして強面の隣人ビクトルとの静かな闘いが始まった。
ネタバレ概略
- 1.打音ある朝奇妙な打音で夫妻は目覚めた。音を辿るとその元は、隣家の住人が自分の家の壁をハンマーで壊しているところだった。
- 2.中止隣家のビクトルは明り取りのために、窓を付けたいと言った。
しかし対面する窓は違法であるため、家主のレオナルドはそれを中止してくれるように説得することに。 - 3.続行ビクトルは瓦礫が落ちないようにカバーをして、その中で壁を壊し続ける。
夫にきつく中止を求めるように言う妻のアナ。 - 4.話し合いビクトルはレオナルドをバーに誘い、何とか窓を作らせてほしいと頼む。
強面なビクトルに面と向かって断り切れないレオナルドは、曖昧な態度を取った。 - 5.拒絶窓を塞ぐ費用をもつことで、なんとか中止を訴えるレオナルド。
ビクトルはしつこく中止を求める彼に折れ、無理に窓を作るよりは友人でいようと言った。 - 6.再開やはり窓作りを再開したビクトル。
レオナルドは彼の叔父を呼び付け、その場に居ないビクトルへ向け、「中止しないと逮捕させる」と強く言い含めた。 - 7.怒りレオナルドの家を訪ねるビクトル。彼は知的障がいを持つ叔父を恫喝したレオナルドへ向け、「次にやったら殺す」と宣告し、窓を諦めると言った。
- 8.覗き夜間に話し声がするのに気付いたレオナルドとアナ。
彼らは窓枠だけが開け放たれた隣家の壁から、ビクトルとその恋人が逢瀬を重ねるのを覗き見てしまう。 - 9.脅迫解決の難しくなったことで、レオナルドは懇意の弁護事務所へ相談を入れる。
彼は法的手続きよりも、家を失わせるという恫喝で決着をつけてやる、とレオナルドを安心させた。 - 10.遅延窓騒動で仕事の捗らないレオナルド。新しいデザインにも遅延をもたらしてしまう。
- 11.無効果弁護事務所から電話があったことをレオナルドへ告げるビクトル。
彼には脅しは全く効果的でなく、逆に弁護士をやり込めて来たという。 - 12.提案大きな窓でなく、高い位置に明り取りの横長窓を付けることを提案するレオナルド。
ビクトルはこれに賛成し、さっそく窓を作り変えることを約束した。 - 13.拒否折衷案が締結されたことを妻に報告するレオナルド。
しかし妻は、「ともかく窓を作らせるのは絶対にやめさせろ」とこれを一蹴したのだった。 - 14.義父板挟みでバツの悪くなったレオナルドは、義父の名前を使って「窓が気に入らないようだ」とビクトルへ言う。
- 15.パーティ自宅で行うパーティへ友人を招待した夫妻。ところがその中には、恋人として同伴したビクトルの姿があったのだ。
意図せず、揉めている隣人を自宅に招き入れてしまうアナ。 - 16.強盗夫妻の留守中、自宅に強盗が入る。一連を見ていたビクトルは、夫妻の娘を救うために家に入り、ショットガンで彼らを追い払う。
しかし去り際に強盗のひとりが、彼の背中を銃撃した。 - 17.放置自宅に戻ったレオナルドは、事の顛末を知る。
しかし彼はビクトルを救急で助けることなく、その場に放置して死なせた。 - 18.結末そして窓は塞がれた。
OPがセンスの塊

ぶっ叩く内側と、徐々に破壊される外側。
一定のリズムで行われる打音がいつしかクセになっている。
50:50で表示されるこのOPに、ド肝を抜かれるようなセンスを感じた。
エンドロールが印象的な映画はそこそこあるが、OPに釘付けになる映画は意外なほど少ない。
大抵、どんな情景だったか思い出せないものが大半になる。
が、この映画のOPは恐らく、生涯忘れ得ないようなインパクトを残した。
特に打音がほぼ完ぺきに一定間隔であるのがポイントで、これだけでひとつの音楽を形作っていると呼べるだろう。
使用しているのは本物のハンマーと思われる。振るった者はさぞかし大変だっただろう。
彼の費やした労力に称賛を贈りたい。
隣人トラブル

現在進行形の方には、字面を見るだけで胃の痛い話かもしれない。
実際世界中どこでも、こうしたご近所トラブルというものは存在している。
- クルマや楽器の騒音
- 子供の泣き声や遊ぶ音
- 挨拶の有無
- ゴミ分別
- 境界線の主張
書き出すだけでも嫌な気持ちになる。
概ねこうした問題は弁護士等に相談しても、法的な解決を勧められない。なぜなら一旦お裁きが下ろうとも、遺恨は残り続けるからだ。
”住みやすさ”を追求して法に訴えたら、逆にもっと住み辛くなってしまうケースが多いという。
よって多くは話し合いによる解決を求められ、そしてこじれたまま数年~数十年を経ることが大半とも言われる。
直近のニュース等でも、嫌がらせを何十年も受け続けた被害者の話は記憶に新しい。
今回、アルゼンチンの法に照らすとビクトルは誤っていることになる。
しかしレオナルド一家がそこへの苦情の付け方を誤ったのも一因。
法を盾に拒否、拒否、拒否。これでは対等な話し合いとは呼べないだろう。
こじれにこじれていく両者。これを見守るのが本作の醍醐味ではあるものの、面白い反面、ちょっと苦しくも感じてくるのは皆同じではないだろうか。
カーテン文化が無いのが原因
隣り合う物件と窓が隣接すると違法、なんていう法律を聞いて我々日本人は驚かざるを得ない。
こんな理屈を用いたら、都心部や市街地のアパートはことごとく取り潰しを余儀なくされるからだ。
日本の家庭では、窓に対してもれなくカーテンをセットにしている。
大概の家で、夜間はこれを閉じる。なんなら昼から閉めっぱなしのご家庭もあるほどだ。
しかし欧米、特に南米や自然の多いエリアの文化として、あまりカーテンが好まれていないという事実がある。
一部では、
このよく分からない方程式でマッチョイズムを掲げる者もおり、閉めていないカーテンにすら、「女々しいヤロウだ」と舌打ちしたりも見られる。
またカーテンを使わないどころかガラス張りの装飾を好む者も多く、夜間は丸見えだ。
が、「自宅の中=完全なプライベート空間」という図式が同時に成り立っているため、
このような意識が大半と思われる。
作中でビクトルがしきりに自分を「変態じゃない」と言うのもそのためだ。
また逆に、ビクトル宅を覗いたレオナルドとアナは100%非のある変態として描かれていることになる。
誰がいちばんキライ?

つまるところこの作品、
ウキウキでこう問いかけているように思えてならない。
しかしこういった趣向は嫌いではない。
知人から聞いた隣人トラブルの話などは、物見遊山効果もあって想像以上に酒の肴になりがちだ。
幸せな話を延々聞かされるよりも、ちょっと不幸なぐらいが一番盛り上がるのは周知だろう。
人づてに聞いた噂話を映像化したかのような本作において、勝手なジャッジを入れるのもまたお約束。脳内井戸端会議方式で、一番ワルそうな人を勝手気ままに決めつけよう。
個人的にはアナがいちばんワル。
評価
驚くような伏線もトリックもないのに、なんだか面白く感じる不思議な一作だ。

コメント