POV+サスペンス仕立てのスリラー映画作品、Evidenceをレビュー及び評価、感想、解説。
あらすじ
とある荒野で多数の他殺体が発見された。
横転したマイクロバス、焼け焦げた家屋、そしてバラバラに飛散する遺体。生存者は僅か二名。
地元警察は直ちにこの恐るべき殺人の解明にあたる。
現場の遺留品に一部損傷を受けたハンディカムやモバイルフォンのデータ4台分を発見した警察は、映像解析のプロフェッショナルであるリース刑事にこれを任せた。
最初にダウンロードの済んだビデオに残された映像データを読み込むと、どうやらリアンという女性の演劇作出演を祝ったホームビデオのようだった。
彼らはリアンの成功を祝い、乗り合わせのマイクロバスにて一路、ラスベガスへ向かう。
その道中で一体何が起きたのか。
損傷した映像データを修復していくたび、刑事たちに衝撃が走る。
リース刑事

とある一件以来休職中だったが、此度の事件報道をニュースで見たリースは自ら捜査加入を望んだ。警察内での映像解析の第一人者である。
的確なデータ取り扱いやスクリプト操作により、激しく損害を受けたり鮮明でない映像からも情報の一端を紐解く。彼の手腕が無ければこの事件の真相に辿り着くことは出来ないだろう。
データ処理に長けたエンジニアであると同時に刑事でもある彼は、早回しで要所だけをかいつまんだ情報のピックアップを嫌う。被害者の背後にある関係性や心情を読み解くことで、映像に映らない真実を手繰り寄せることが出来ると信じているからだ。
リアン
数少ない生存者。カンザスで父親の花屋を手伝う田舎娘であった彼女だが、女優を夢見て演劇の舞台へ上がることを決心。タイラーというボーイフレンドがいるようだ。
事件後のトラウマで心神喪失状態のため、詳しい事情を聞くには至っていない。
レイチェル
ハンディカムの持ち主で、リアンの友人。レイチェルはいずれ大成するリアンの為に、下積み時代のドキュメンタリー作品としてこのビデオを録っているようだ。
相手が誰でも多少強引にファインダーに収める癖があり、人によってはそれを嫌がられる。
殺人鬼
マイクロバスの乗客を悉く殺害する謎の人物。
溶接メットを被りガストーチを武器に、生きたまま被害者を炙り殺す。
奴について判明している事実は少ないが、準備と手際の良さから、衝動的ではなく計画的な犯行が窺える。
ネタバレ概略
- 1.事故現場死者多数、手がかりなし。
荒野の廃屋で起きた悲惨な事件に対し、マスコミは警察の説明を求める。対応する責任者のアレックスは、事件と世間の板挟みになる予感を感じていた。 - 2.復帰事件の検証にリース刑事が自分を加えるよう求め、アレックスはしばしばそれを了承する。
- 3.再生現場の遺留品に含まれたビデオカメラから、事件の概要を追い始める一同。
持ち主はレイチェルという女性だった。 - 4.女優女優を目指すリアンは、最初のステップとして舞台劇の主役を勝ち取り、監督業を目指すレイチェルはその姿を未来のドキュメンタリーのために撮影していた。
- 5.プロポーズ舞台劇の終幕後、観客一同の前で結婚を申し込むタイラー。だがリアンはまだ早すぎるとこれを断った。
- 6.出立成功を祝うため、ラスベガス行きのマイクロバスに乗り込む三人。
レイチェルはドキュメンタリー撮影を続けており、乗り合いになった他の乗客にも話しかける。 - 7.省略ロシアから来たダンサーのヴィッキー、ベガスで就職希望のスティーブン。
だが彼らの間に、紹介されない謎の女性が映っていることにリースたちは気付く。
更には乗客名簿に無いその女=が、軍支給のバッグの中に大金を隠していることを暴き出した。
バッグに記された「G・フライシュマン」という名前を、予備役と退役軍人のデータベースで照合を行うことに。 - 8.未舗装路バスの向かう道が、妙に郊外であることに疑問を呈したタイラー。運転手=ベン曰く、キッドウェルで予約をしている人物が居るらしく、そこを経由するために未舗装路を走行しているとのことだ。
- 9.横転道に張られた有刺鉄線によってマイクロバスは一瞬にして横転し、事故後の体勢を生み出した。
乗客と運転手一同はひとまず、有線電話の設置されているであろう、近場の建物を目指すことに。 - 10.最初の犠牲者電気の通らない真っ暗な家屋を捜索すると、なんと乗客のスティーブンが血まみれで現れる。彼は救いようのない重体であり、そのまま息を引き取った。
- 11.照合完了先の軍関係者の照合が済み、バッグの持ち主がジェラルド・フライシュマン、乗客であるその妻がカトリーナという名であることが判明。
- 12.別視点ヴィッキーが持っていたカメラ映像も現場には遺留しており、リースはそちらを再生してみることにした。
- 13.二番目の犠牲者まずカメラはベンが撮影し、廃屋の電気を復旧させるシーンになった。
次に撮影者が変わると、そこではマスクを被った殺人鬼が溶断機を使ってヴィッキーを切断している場面だった。 - 14.容疑者現時点で最も怪しいのは、カトリーナに銀行の預金を持ち逃げされたジェラルドになる。恨みで妻を殺し、その他の乗客も巻き添えで殺害したのだろう。
アレックスは報道発表にて退役軍人の男を指名手配した。 - 15.修理視点は再びレイチェルのカメラへ。時系列も遡り、未だヴィッキー存命の時だ。
一同は壊れた緊急電話の修理のため、マイクロバスへ工具を取りに戻ることとした。 - 16.バスベンとレイチェルはバスへ戻る。視界はカメラの暗視装置のみで、周囲は漆黒の闇。
しかし工具を入手したのも束の間、ベンは殺人鬼に闇の中へ引き込まれる。レイチェルは必死に逃げ出し、廃屋へと駆け込んだ。 - 17.発炎視点は変わりヴィッキーのカメラへ。ベンたちがバスへ向かう中、野外から殺人鬼が迫る。発炎弾を次々に屋内へ撃ちこむキラーに、生存者たちは逃げ惑う。
- 18失踪レイチェルはここで一同に合流するも、やがてタイラーの姿が無いことに気付く。彼はどこへ消えたのか。
またカトリーナは疑心暗鬼になり、リアンたちから離れていった。 - 19.フレアガン屋外に信号拳銃が置かれていることに気付く生存者ら。助けを求めるために最も適した道具だが、危険は否めない。
そこで勇敢にも、ヴィッキーは自分が取りに向かうと言った。 - 20.背後フレアガンを拾うヴィッキーを、背後から襲う殺人鬼。
彼女がバラバラにされる様子を、声を押し殺して見守るしかなかった。 - 21.背中の傷リアンとレイチェルの元へ、死んだと思われていたベンが戻る。
彼は背中を負傷したまま放置されたらしく、何とか自力で辿り着いたらしい。 - 22.遺言ここでホテルの支配人がジェラルドの宿泊を通報してきた。また同時に、解析の終わったカトリーナの携帯カメラ映像が再生される。
その中身は驚くことに、遺言だった。
イラク戦争から帰ったジェラルドがPTSDに悩み、またガン宣告されたことを語るカトリーナ。 - 23.自殺場面が切り替わると殺人鬼が携帯電話を持っており、カトリーナ殺害の様子を記録している場面だった。
またホテルに踏み込んだLA市警は、ジェラルドが数日前に拳銃自殺していることを報告してきたのだった。
つまり彼は、犯人ではない。 - 24.電話緊急電話の修理に向かうベン、リアン、レイチェル。しかし一行は途中で散り散りになり、レイチェルだけが電話配線に辿り着く。
必死に修理を試みる彼女だったが、最後には殺人鬼に捕まり、溶断機で焼き殺された。 - 25.スティーブンのカメラここで、スティーブンが携帯電話で撮影していた映像が復旧された。
内容は、リアンとタイラーが言い争いをしている場面の隠し撮りだった。 - 26.密告その時テレビニュースで、奇妙なものにリースは気付く。
自分達が今解析している映像が、テレビ局にタレこまれていたのだ。
これにより、警察内部の密告者の存在が疑われることとなった。 - 27.面会リースは事件の生存者である、リアンとの面会に赴いた。
事故後のショックから多弁ではないものの、彼女との会話はリースにあるヒントをもたらした。 - 28.SD遺体の口内から、SDカードを発見するリース。
そこに映っていたのは、殺人鬼のマスクを脱いだタイラーの素顔だった。
これによりアレックスは、群病院に入院中のタイラーを正式な容疑者としてマスコミの前で発表した。 - 29.グリッチ映像を見直していたリースは、あることに気付く。それはバス車内でレイチェルが襲われていた場面のグリッチ=画像飛びだった。
画像は飛んでいるのに、タイムコードは飛んでいない。
つまりこの映像は、編集済みのものであるという事実だった。 - 30.アップロード報道発表中に、異常な事態が起こる。それは全映像のNGとカットシーンを含んだ、裏側の真実を示すムービー。
マスクの下から現れる、リアンの素顔。
全てを仕組んだのはリアンとレイチェルだったのだ。 - 31.逃走史上最高のバズ動画を作り出した彼女らは既に逃亡済みであり、警察が追いつくことは出来ない。
こうしてリース刑事たちが行った全てを嘲笑うかのように、リアンとレイチェルは時の人となったのだ。
POV
ブレアウィッチ・プロジェクトのリリース以降、爆発的な勢いでこのPOV(パニック・オブ・ビュー)という手法は広まった。
画質を落とし手ぶれを加え、敢えて素人臭さを出すことで恐怖演出中の臨場感が増すこの手法は、非常にホラー作品との相性が良い。
しかし一歩間違うと視点を振り回す習性、または周辺光量を絞って録らざるを得ない縛りによって状況把握が困難になるのがネックだ。
実際にそのせいで一番見どころのシーンを台無しにした作品も幾つか存在する。
ではエビデンスはどうか。
暗視機能や炎を使ったり、大事なシーンではカメラが投げ出される仕掛けを施したおかげで、非常に良く纏まったと思う。更にカメラデータが一台きりでなく、四台分存在していることで多角的な視点を持つことに成功した。
また合間で刑事たちの三人称考察シーンを挟むことにより、一層ビデオデータの出来事を没入感を持って受け入れることが出来るだろう。
以上から、当作品にPOVは非常にマッチした成功例であったと感じる。
内容ギッシリ
最後までチョコたっぷり。
概要書き出しだけで膨大になっていることからも、90分間とは思えないような内容量のストーリーが詰め込まれている。
およそ不要なシーンは存在せず、あらゆる場面が意味を持つものとなっていることが分かる。
場面場面で犯人と思われる者への誘導が自然であり、
- ジェラルド
- ベン
- タイラー
- リアン&レイチェル
この流れをリースらと追うことになる。
かなりのスピード感があるため、探偵モノのような推理を働かせる時間は観客に与えられない。
この部分は賛否あるかもしれないが、ジャンルがスリラーである以上は問題は無いと思われる。
皮肉もたっぷり
作中で最高に皮肉なのは、
- 一生懸命事件を追った警察
↓
- リアンに娘を重ねたリース
↓
この事実の他にも、第四の壁越しに我々に対する皮肉もやや感じ取れる。
真剣に犯人や動機を推測してきた前段までを、単なるネット上のバズのためだけの殺人だった、とするのは、なかなかウィットとユーモアに富んでいる。
ある意味、「真面目に考えた推理を台無しにされて、今どんなキモチ?ねえねえ」
こんな高笑いすら見えるようだ。
評価
「マスクの殺人鬼が被害者を丸焼きにする」というパワーワードだけが売りではなく、演出は勿論、ストーリー構築も起承転結のしっかりした良作であった。

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