【映画】ヘレディタリー 継承/発狂シナリオを真相究明【考察あり:ネタバレ注意】

ホラー

精神摩耗系サイコホラー映画、Hereditaryをレビュー及び評価、感想、解説、考察。

スポンサーリンク

あらすじ

78歳で大往生したエレンの葬儀を終えたアニーら四人家族。彼女は生前秘密主義で、娘ですらも理解し難い人間だった。哀しみもそこそこに、彼ら家族は元の生活に戻っていった。

ある日長男のピーターは夜のパーティーに出かけることになったが、母アニーは半ば強引に妹チャーリーをそれに同行させることとした。しかしパーティーのさなか、チャーリーはケーキに含まれたナッツによるアレルギー反応を起こしてしまう。

慌てて病院に向かう兄妹だったが、そこで不幸な事故が起きた。
窓から身を乗り出していたチャーリーの首が、電柱に触れて切断されてしまったのだ。

以来、アニーは気を病み言外に息子を責め、父スティーブとピーターも苦しみの日々を送る。
やがて彼らは日常の中に、亡きチャーリーの亡霊を見るようになっていき……。

形容し難い不快感

作中全体の空気感形成が凄まじい。「なんとなく気持ち悪い」を徹底的に追求した仕様であり、オブジェクトのディテールから、演者の表情まで多岐に渡る部分にそれは込められる。

不気味な祖母。異常なジオラマを作成する母。異常行動を取る妹。

恐怖シーン自体の割合は実際にはかなり低めの部類に入る本作だが、そのぶん全体的に散りばめられた胃もたれのするような不快感が随所で仕事するのだ。


中でも最高に不気味なのが、生前のチャーリーだろう。

演じたミリー・シャピロは、(こう言っては申し訳ないが)顔の造形が不気味さを演出するに十二分な持ち味がある。彼女の奥深い眼窩と、尖った鼻。死後の霊体としてよりも、生前の姿の方が不気味に見えるという、稀有な例になるだろう。

また母アニーの狂気的な演技も筆舌に尽くし難く、作中ではほぼ50:50で生者と死者の、それぞれの恐怖を描いているといっても過言でない。


とにかくひたすら気持ち悪い。ホラー映画にとっては、まこと栄誉ある感想である。

恐怖演出

天井に貼り付く悪魔

大音量SEのドッキリ演出はほぼ無し。

また前述したように恐怖シーンの割り当ては存外少ないため、悪霊に襲われて阿鼻叫喚、といった仕様ではない。そのためパニックホラームービーのような展開を期待すると裏切られるだろう。
チャーリーの霊が頻繁に現れるようになるまでは、ほとんど霊体による恐怖演出は用いられない。

クライマックスシーンでは集大成とあってか、長めの尺でホラーパートが描かれる。ここでも「怖い」、という感情よりかは「気味が悪い」と思わせる場面が多い。
正直ここはシーンの起伏のために静謐さを長く保ち過ぎた部分でもあり、もったいぶり過ぎて眠気を感じた。もっとコンパクトに収めても良かったようには感じる。


ここまで見ると、ホラー映画としては凡作としか思えない評価になっている。しかしヘレディタリーの真価は単純なホラーパートのみになく、全編通しての不快感や不気味さであることは既に記した。
既存のありがちなホラー作品を観る時とは異なったスタンスが求められるだろう。

テーマは継承・破滅

娘の霊が憑依したシーン

タイトルでもある”継承”はテーマでもあり、作中で死の伝播が次々に行われていくことは感じ得るだろう。彼らは死のバトンリレーを強いられた無垢な子羊であり、狼の牙から逃れることはかなわない。


またもうひとつのテーマとしては、”家族の絆の崩壊”が挙がるだろう。

多くのホラー作品では、故人との絆愛で闇を打ち払ったり、最愛の人の導きで正気を取り戻すことがよく見られる。
最終的に恐怖への勝利と家族愛への感動を一挙両得で得られるために、重宝される手法でもある。

ヘレディタリーでは、崩壊していく家族の絆を描く

およそ通例とは真逆の方向へ舵を切った本作。

母が息子の存在を否定し、夫が妻の正気を否定する。信じ合っていた者たちが破滅の螺旋をとことん落ちるさまを見るだろう。


簡便で怠惰すら見える昨今のホラーにおける、”家族愛至上主義”を真っ向から否定した本作品。食傷気味だった評論家から高い支持をとりつけたのは、こうした背景からかもしれない。

評価

迎合しない、唯一無二のオリジナルホラー



ホラーファンを自称するなら必見の一作だ。

★★★★☆
四つ星の優良作。
ヘレディタリー 継承(字幕版)
ヘレディタリー 継承(字幕版)




以下、考察及びネタバレ注意。






ラストシーンに至るまで

ラストの奇怪な人形

地獄の門扉を開き、悪魔ペイモンを召喚することがエレンの狙いだった。

ここでは物語の概要をおさらいしてみよう。

ペイモン召喚までの出来事
  • step1
    エレンにペイモンが宿る
    エレンに先代からペイモンが受け継がれる or エレンが自らペイモン召喚術を立ち上げる

    同時にジョーンと知り合い、悪魔崇拝者の集いが密かに結成された。

  • step2
    家族の死
    エレンの亭主、長男が死亡。本来であれば最適なのは長男への継承だったが、異常を察して彼は自殺を選んでしまった。これにより、一時的に継承先を失うことになる。
  • step3
    ピーター誕生
    アニーに息子が誕生する。ペイモンの依代としては男性が望ましいため、中絶を考えていたアニーにエレンは強引に出産を迫った。

    しかし人心掌握に長けたエレンを危険に感じたスティーブにより、不干渉ルールが設けられる。

  • step4
    チャーリー誕生
    生まれながらにチャーリーは、ペイモンの影響を一身に受ける寵児であった。また同時期に不干渉ルールも撤廃される。
  • step5
    エレンの死
    自身の死期を悟ったエレンは、死後も計画がつつがなく進行するよう、ジョーンに託す。また自らの墓を暴き、遺体を有効活用するようにも命じる。
  • step6
    召喚の儀
    最終的にピーターにペイモンが宿り、三つの女首を揃えることに成功する。悪魔の信徒は聖域に集い、地獄の門は開かれる。

ペイモンについて

ペイモンのイメージ

ペイモン、またはパイモン。ユダヤ神学者のラビたちによるとアザゼルやアザエルとも呼ばれる。
地獄の王ルシファー(サタン)の最も忠実なしもべであり、序列9番目の地獄の王である。

聖書の解釈では悪魔というものは最初から存在するものでなく、天使が神に反して堕天した末の姿である。そのため天使であった頃の特徴をいくつか持つ。

映画ラストシーンにて、場面が奇妙なほどに神々しく描かれるのはこのためだ。

三つの女首を捧げよ

ペイモンのイメージ2

ペイモンの召喚にあたり、三つの女首を捧げるという伝承がある。

チャーリー×エレン×アニー

作中では、この三者の首をして生贄とした。本作の解釈だと、ペイモンの継承される家系の中で、三つの女首を揃えなければならなかったのだろう。

状況的に考えて墓を暴いたのはジョーン以外に居ないが、逮捕されるリスクを負ってまでエレンの遺体を掘り出したのはこのためである。

召喚によって得るものは?

大半の場合、悪魔の召喚は利己的なものを目的としている。

  • 知識
  • 能力発現

概ねこうした対価を求めて悪魔は呼び出されるのだ。

作中で信徒らの最後の言葉は、

秘密なるもの すべての知識を授けたまえ
名誉と富 良き使い魔を与えたまえ
人々を我らに従わせたまえ



このように呼びかける。
これは現実でもペイモンに対して求められる対価であり、符合している。

エレンは死してなお遺体を辱められようとも、教団に富を授けることをいとわなかった。
ある意味では、気高い自己犠牲の精神になる。

チャーリーの謎

虚空を見るチャーリー

彼女には生前から既に、奇妙な部分が多々見られた。

産まれた時に、泣かなかった

アニー曰く、彼女は誕生の産声すら上げなかった。

これは生まれもってペイモンの系譜を継ぐ体質を備えていたことを示す。方法は明かされないが、エレンが血にかけた呪いであると考えるのが妥当だろう。

異常行動

ハサミを持つチャーリー

鳩の首を切り落とすチャーリー。

これは無意識下で供物の女首を揃えることを知っていたからだろう。継承を受けた者は、断首に執着を持つ。

また光のサインに誘われ、山あいに祖母の霊魂を見る。同じサインはピーターも目撃しており、この現象を見るということの意味を表していると言える。

偶然でない死

電信柱に刻まれた紋様

パーティーの始まる前から、既に彼女の死は予見されている。死因となる電柱には、前もって紋様がしっかりと刻まれているのだ。

アレルギーによる苦しみではなく、自発的に身を乗り出していたことが窺えるだろう。

精神疾患説

本作を見る上では、単純な悪魔降臨の儀を観る目と、それを妄想する疾患の遺伝を描いた物語であるという目に分かれる。
どちらが真相なのかが判然としないのは、ひとえに主観となる視点の多くが通すフィルターに、遺伝的疾患の影が見えるからだ。

すなわちチャーリー、アニー、エレン、ピーターの見たものは、真実か否か確かめようもないということだ。
では逆にそれ以外の人物が示した事柄については、おおよそ事実であるという認識にならないだろうか?

墓荒らし

墓荒らしのSNS写真

序盤で電話があり、スティーブは義母の墓が暴かれたことを知る。この時点で彼の精神状態は至極まっとうであり、疑いようのない真実であると言える。

そしてこのEメールから判明するのは、どうやらこの墓荒らしは単独犯でなさそうであるという事実だ。
通常この量の土を掘り返そうと思ったら、人ひとりではとてつもない労力になる。
なおかつ積まれた土と堀跡に規則性が見られることから、重機の使用すら疑えるだろう。

これにより、アニーら家族の誰かしらが夢遊病状態でエレンの墓を掘り返した説も消える。
残る可能性としては、ジョーンら悪魔教の信徒たちによる犯行だろう。

ジョーンについて

テーブルの上に広がる黒魔術の痕跡

彼女は実際に存在していて、エレンの賛同者であったという事実が最も有力になる。

アニーが彼女の部屋を再訪した際、誰のものでもない第三者視点として、部屋内の儀式を模したミニチュアが映し出される。

これは”妄想の可能性”というフィルターを除外した演出であると見られ、間違いなく事実であると捉えて構わないだろう。

屋根裏の死体

屋根裏に遺棄された祖母の遺体

これもシナリオ上で必要ないにも関わらず、わざわざスティーブが確認していることから事実だ。実際に死体は屋根裏に存在しており、首も切断されている。

運び込まれた経緯に関しては、遺体を掘った悪魔崇拝者たちが持ち込んだと考えるのが自然か。
エレンの部屋にいつの間にか三角マークを記していたことからも、合鍵を託されていたと推測するのが妥当と思われる。

交霊

不穏な気配に震える家族

スティーブが同席していることから、実際に起きたことと捉えるのが良さそうである。
ただし呼び寄せた霊魂が確かにチャーリーである確証は無い。

焼身

発火するスティーブ

スティーブは実際に焼き殺されている。

ただし霊的現象によるものでなく、真相はアニーがスティーブにシンナーをかけて焼き殺したとも考えられる。

ラストシーン

樹上のロッジに入るシーン

ラストのシーンは、かなり信憑性が疑われる。

実際に信徒が集い、儀式が執り行われたとしよう。彼らの集うタイミングが良すぎるのも、遺体の回収方法もこの際呑み込んでみる。

だがこの部分でどうしても非現実的と言わざるえないのは、チャーリーの遺体だ。

死後しばらく経った遺体からは出血しない

死亡間もないならまだしも、埋葬されるほどの時を経た遺体から出血は通常しない。にも関わらずラストでは、かしずいたチャーリーの首からは大量の血液が流れている。

ペイモン像の前に跪く供物の中に、アニーの姿がない



不思議なことに、平伏する信徒の中央手前に居るのは明らかにアニーであるということ。これは髪の色の特徴で分かるだろう。丁度画像の右側の女性になる。

ピーターに王冠を被せたのも彼女であり、なぜか存命であるように描かれるのだ。

仮に彼女が死んでいないとすると、供物の女首三つには足りていない。
本来ならば像の前で平伏するのは三人であるべきで、この部分は整合性を欠いているとしか思えない。


よってこの部分では、すべて、或いは一部にピーターの妄想が含まれていることは間違いないだろう。

終わりに

かなり謎が多く、真偽の判明しない場面の多い本作。
自分なりの解答はかなり各々でばらつきがありそうだ。

ヘレディタリー 継承(字幕版)
ヘレディタリー 継承(字幕版)

コメント