メキシコ北部チワワ砂漠に実在するサイレンスゾーン(サイレントゾーン)を扱ったSF映画、SILENCIOをレビュー及び評価、感想、解説。
あらすじ
かの有名なバミューダ・トライアングルと同緯度に存在するメキシコの奇妙なパワースポット、サイレンスゾーン。
ここではコンパスの針は狂い、上空を飛ぶ飛行機の計器も乱れる。また地球上に降り注ぐ隕石を、最も多く受け止める大地でもある。
ある日、アメリカのテストミサイルがこの地に誤着弾する。国家間の国際問題は免れたものの、現地での回収作業や放射線測定に技術者が総動員される事態に。
研究員のジェームズとピーターは、残骸の中から奇妙な石ころを見つける。放射線を含有すると思われる石は、研究対象としてラボに持ち帰られた。
しかし愚かなことに、彼らはうっかりこれを素手で触れる事故を起こすことになった。
その瞬間、まばゆい光があたりを包む。
そこでジェームズの見たものは、一週間前に交通事故で亡くなった孫のアナの姿だった。
ネタバレ概略
- 1.採取メキシコはサイレンスゾーンにて、誤着弾したミサイルの残骸回収作業が行われている。
ジェームズとピーターはコバルトの付着した奇妙な石を発見し、これに誤って素手で触れてしまう。
すると不思議なことに、ジェームズが家族を全員失ったはずの一週間前、自動車事故の直前に彼らはタイムスリップしていたのだった。
ジェームズは必死に呼びかけるも、アナ以外の家族を救うことは出来なかった。 - 2.痴呆時は経ち数十年後。かつての恩師ジェームズの元を訊ねるピーターだったが、既に老いた博士は痴呆症によって大半の時間で自意識を失っていた。
幼少に死に別れた妹の霊の導きで、アナは祖父にまじないのような言葉をかける。するとジェームズは僅かな猶予の元に覚醒し、慌てて例の不思議な石を探しに、夜中の内に出かけていった。 - 3.刺客記憶と変わった風景に、石を掘り出せなかったジェームズ。どうしても石を取り戻すようにアナに託すが、そこへ同じく石を狙う男が現れる。
彼は事故の末にジェームズを殺してしまうと、更にアナの息子フェリックスを誘拐する。
アナは一日の内に石を探し出さねば、息子をも失うことになってしまった。 - 4.過去ピーターに頼ったアナは、石によって自分が蘇った過去をそこで初めて知った。同時に石が眉唾のオカルトでなく、本当の力を秘めた神具だと知る。
- 5.ダニエルの能力カウンセラーとして心療を行っているダニエルが、霊視によって石の場所を知れると協力を願い出る。
またも亡き妹の導きによって、墓所からアナはとうとう石を見つけ出した。
しかしその場に現れたフェリックスの霊によって、息子が既にこの世に居ないことも同時に判明した。 - 6.逆襲刺客の男を自宅に呼び寄せたアナは、ダニエルと協力して彼を捕らえる。
拷問の果てに吐かせた首謀者の名前は、なんとピーターだった。 - 7.対峙娘を失ったピーターと、息子を失ったアナ。
ピーターの娘が死んだ時まで戻れば、あらゆる事件は無かったことになると言う。
しかし憎しみと疑いの消せないアナは、簡単には彼を信用出来ないでいた。 - 8.結末アナはピーターを信用した。あらゆる記憶の消えた世界では、ダニエル、フェリックス、アナの三人が幸せに暮らしていた。
全てを見届けたピーターは、自身の死期を悟りつつも娘の蘇生を慈しんだ。
実在のパワースポット

メキシコ北部のチワワ砂漠に位置するこの何も無い荒野では、様々な噂が立っている。
- UFOの目撃情報
- 宇宙人とのコンタクト証言
- 砂漠に祈ることで願いが成就
- 磁気異常によるコンパスの乱れ
最もサイレンスゾーンを有名にした出来事は、アメリカのロケット墜落事故だ。
1970年に起きたこの事故にインスパイアを受け、ミサイル誤着弾としたのが本作。
当時もやはり、回収作業で多くの人々がこの砂漠に足を運んだ。
鉄道や滑走路を引き、小屋やテントに人が溢れかえっていたようだ。
一時はそうした実存の事故とオカルトブームもあって、わざわざ遠方から見物に来る観光客で賑わったらしい。
しかし今やその面影はなく、ひと気の無い荒野と化している。
忘れ去られた過去のオカルトエリアは、ひっそりと砂漠の一角に時代から取り残された。
全ジャンルぶっこみ

この作品のジャンルを表すならば、「ごちゃ混ぜ闇鍋ムービー」と呼ぼう。
- ミサイル誤射を解説するサイエンスパート
- 石のパワーで時間遡行するフィクションパート
- 「アイシー デッピーポー」な精神病患者によるオカルトパート
- 石を巡る勢力間トラブルを描くサスペンスパート
- 家族愛でシメるヒューマンパート
箇条書きだけ見ると豊富な内容の濃密な映像体験を想像するかもしれない。
しかし裏を返せば、ひとつひとつがいかに薄っぺらく、実の無い時間であるかを表しているとも取れる。
サイレンスゾーンでは石のパワーで時間遡行により、身近な人命を救うことを主軸とした。
しかし作中でその場面は二度しか訪れず、他の部分は上記した雑多なジャンル投入によって薄めに薄められている。
単純なタイムリープのシナリオと差別化を図りたかったのだろうが、結局目論見は頓挫したと言っていいだろう。
根本的な石の設定を変えない限りは、どうしても近未来SFのタイムパラドックス話と相違ない出来にしかならないのだ。
特に心霊パートは最悪だ。
埋めた石の場所を死んだ妹に教えて貰う、なんてのは響きだけはステキだが、つまるところの神頼み霊頼み他人頼みの他力本願が丸出しになってしまっている。
安いエモーションを獲得するためにゴリ押しでねじ込んだ霊能力者と守護霊の存在が、圧倒的に品の無い脚本を露わにしているのは明白だ。
感情馬鹿に恐怖するラストシーン

驚愕のラストシーン。
恐らく視聴する誰もが理解すると思う。
「争う意味なくね?」と。
石の特性が死者蘇生でなくタイムリープである以上、選択肢はひとつしかない。
にも関わらずアナの大乱闘は止まらない。
手慰みに火かき棒で脛を叩き、散弾銃を膝にぶっ放す。
突如サイコキラーへと変貌した彼女に、「どっちかと言うと敵はこの人だ……」という感想をもたらすのに時間はかからない。
むろんこれらはフェリックスに対する気持ちの昂ぶりではある。また合理性を欠いた判断を主人公が下すことも、まあ許せるだろう。
問題点は、彼女が我を見失った感情の生き物であり、尚且つヒステリックすぎることだ。
これを週末のリラックスタイムに見ている、世の男性映画ファンはこう思うだろう。
石の謎はノータッチ

石がタイムリープの機能を秘めている謎や、その条件についての真相は作中で一切語られない。
”ともかくそういうオーパーツが存在している”という前提で押し進める展開は、やや乱暴にも思える。
これが呪いのアイテムで、持つ者を恐怖のどん底に落とすホラー作品であれば文句は無い。
まどろっこしい背景描写よりも、いかに恐ろしげなシーンを撮影するかだけに苦心すればよい。
しかし本作はなまじ冒頭で”それっぽい用語”を挟んでしまったがために、後半部で謎の解明パートが存在することを必然期待される。
サイエンスやミステリーでこれらを蔑ろにしたままというのは考え辛く、必ず追求すべきポイントになってしまうだろう。
- 3:33の意味
- 時間遡行の理屈
- 代償エネルギーへの具体的理論
なんだかんだこれらは、「よくわからないけど、なんかそういう仕組みになっているんだよね」で済まされる。
ジェームズの怠慢
もっとも不可解なのが、ジェームズが石を封印した事実になる。
”わからないもの”に対して貪欲なはずの科学者が、「ちょっと危ないから埋めちゃった」というのはいささか無理が生じる。
また多数の機関に狙われたにしろ、墓地の一角の浅い地層に適当な梱包で埋められた石が、将来的にどうなるか予想すらしなかったというのも奇妙に映る。
更にはそれを発見できないライバルたちも不甲斐ない。
いやそもそも、ピーター以外に石を狙った者が本当に居たのかすら怪しい。
ジェームズがボケたのは石と関与のないことだったので、もしかするとそれは妄言の一種であったのでないだろうか。
評価
毒にも薬にもならない。

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