事故物件に越してきた一家に襲い掛かる恐怖を描くホラー映画、Sinisterをレビュー及び 評価、感想、解説。
あらすじ
未解決殺人を取り扱うノンフィクション作家のエリソンは、田舎町のとある物件に3人の家族を伴って引っ越しを終える。
新たな作品の舞台となったその家では、家族4人が首吊りによる殺害、末子の娘が失踪というおぞましい過去を辿っていた。
片付けの最中、エリソンは屋根裏部屋で奇妙な箱=フッテージを見つけ出す。中に入っていた数本の8ミリフィルムには、何かの年代とタイトルが添えられて。
書斎でフィルムの中身をあらためた彼は愕然とする。それは紛れもなく、これから執筆予定の事件の一部始終を収めた、スナッフフィルムだったのだ。
そしてフィルムを見たその晩から、その家で奇妙な出来事が起こり出す。
恐怖演出

SEとフレームインによるドッキリ演出が基軸ではあるものの、いくつかの場面では目を引くものがあった。
例えば一番初めの恐怖シーンとなる、段ボール箱から蠢く何者かが頭をぬっ、と突き出すこのシーン。正直かなり怖かった。
この手法にはJPホラー系統の流れを強く感じる。何だかよくわけのわからない物体が、もぞもぞと蠢いてじわりと這い出る気持ち悪さ。
また通常であれば霊体を映さない、家鳴りやポルターガイストを可視化するという、一風変わったやり口も目を引く。
恐さという部分ではそれほどでもないのだが、「ああ、なるほど」と膝を打つような気分にさせられた。
この独自解釈には純粋に感嘆した。
一方で後半パートへ移行すると、やはりドッキリシーンが目立つ。
特に目玉である敵役のミスター・ブギーがこれを乱発し、尚且つその効果が薄いのが問題である。
最も脅威度の高いはずの御敵が、最もチープな手法で攻めてくるのはいただけない。
ミステリー成分はナシ

殺人事件を独自に追いかけるエリソンという役割に、ホラーへの+αでついつい謎解きミステリーを期待してしまうかもしれない。
だが結論から言えば、ミステリーとしての側面は皆無に等しい。本作はあくまでホラーであり、迫る脅威を背後に感じながら、事件の裏側を紐解くようなスタイルでは進行しない。
またよくよく考えれば、超常的存在の介入が示唆された段階で既存の捜査方法を当てはめることの無意味さが浮き彫りになる。
つまりコルクボードにエビデンスをやたら貼り付けているエリソンの行為はほぼ無駄であり、冒頭で仕込んだ背景設定を丸ごと自ら棄却しているようなものだ。
これらはエンディングで伏線として回収されるならまだしも、今作に限ってはそのようなこともない。
ということは前半の15分は蛇足以外の何物でもなく、では何の為にそこを見せられたのかと思わされる他ない。
もう少しエリソンら家族と、事件の因果を深めてもよかったのではないだろうか。
後半の駆け足感

前半の上質な空気感形成は上手く機能していたのだが、後半で呪いのボックスと二度目の対峙をしたあたりから、妙に駆け足でストーリーが進み出す。
あれよあれよと謎の解答が示されると、呆気なく終末を迎えてエンドロール。
もう少し尺にゆとりを持たせ、例の犯人が凶行へ至るまでの変貌過程や狂気感を描いてもよかったように思える。
どうにも予算や納期といったメタ的問題が脳裏をちらついてしまい、ラストシーンでは素直に物語へ没頭するに至らなかった。
子供の起用

難しい問題である。
こってりとメイクを施して怪物を装い、演技指導によって奇怪なムーヴをさせれば怖いかもしれない。
しかしそれはそもそも”子供である必要”を欠いている。
小柄な大人や、創意工夫で生み出したギミックでも同じ効能を持つだろう。
であるならばやはり、敢えて子供を使うのであれば本作のようにある程度の人の姿を保った上でなければ意味がない。
しかしそれが強い恐怖を引き起こすに足るかと言えば、やや難しいのではないか。

一生懸命演技してるね、みんなガンバレ!

おっかないメイクだけど、やっぱり子供って天使だね。
どうしてもこういう目で見ざるを得ない。これは年代が上がるほど顕著でないだろうか。
本作のキッズたちも各々一生懸命な演技が要所で見られ、ついつい応援したくなる可愛らしさが透けて見えてしまう。
やはりホラーの化け物は、ある程度の年齢を有している方が有り難い。
評価

ホラーファンならば見ても損する作品ではない。

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