【映画】ザ・ウォール/狙撃タイマンバトルinイラク【ネタバレ:レビュー】

アクション

イラク戦争のワンシーンを描いた映画、The Wallをレビュー及び 評価、感想、解説。

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あらすじ

イラクの砂漠地帯に残された「壁」に、這うようにしてとりつくアイザック。
そこから少し離れたところで倒れ伏す、虫の息のマシューズ。

照りつける陽射しと乾きが彼らを襲うが、軽々には動けない。なぜならば今、姿の見えない敵がスコープ越しにこちらを覗いているのだ。
アイザックとマシューズを狙う相手は米軍の間で噂になっている、伝説的なイラク人狙撃手だった……。

ネタバレ概略

ネタバレストーリー
  • 1.
    斥候
    スナイパーのマシューズと、スポッターのアイザックはイラクの砂漠地帯で偵察行動中。
    建設現場に遺棄された8人の死体を見張り続けて、もう20時間が経とうとしていた。
  • 2.
    撤退
    マシューズは既に敵性がこの地を去ったと判断し、撤退要請を出すため現場に近付く。
    アイザックはその姿を後方から見守ることにした。
  • 3.
    狙撃
    現場で死亡している作業員と護衛の兵士は、ほぼ全員が見事に頭を撃ち抜かれていた。
    伝説のイラク人狙撃手、「ジューバ」が頭をよぎったその瞬間、マシューズは腹を撃たれる。
    アイザックは慌てて彼の元へと駆け寄ろうとした。
  • 4.
    ジューバの狙撃は正確で、走るアイザックも膝を撃たれる。マシューズは助けられずに、崩れかけの壁の裏側に彼は飛び込んだ。
  • 5.
    孤立
    アイザックは無線で本部との連絡を試みるものの、被弾したために故障していた。
    やむを得ず彼らは、まずジューバがどこに陣取っているのかを索敵することとした。
  • 6.
    通信
    しかしジューバは見つからない。立ち往生したアイザックだったがその時、近距離無線のチャンネルに誰かが呼びかける声が聞こえてきた。
    救助の可能性に縋ろうとしたアイザックだったが、その人物が語る言葉に訛りがあることに気付く。
  • 7.
    会話
    無線の相手は、今まさに狙撃体勢で自分たちを狙うジューバ本人だった。彼は奇妙なことに、アイザックの過去について話を聞かせろ、と言う。
    アイザックは相手をしながらも、必死にジューバの潜むポイントについてのヒントを探ろうとする。
  • 8.
    先客
    アイザックは死亡している兵士から無線機と荷物をはぎ取り、壁の裏へと逃げ込む。
    いくらかの水と食料を補給し、無線連絡を試みようとするが、ジューバは笑いながら「その無線機も壊れているぞ」と言った。
  • 9.
    復帰
    動かなくなって久しいマシューズは死亡したとアイザックは思っていたが、彼は再び息を吹き返した。
    ジューバの位置を割り出したアイザックは、相棒と共にカウンタースナイプを計画する。
  • 10.
    砂煙
    砂漠に吹く風に紛れ、マシューズは狙撃体勢を取る。がれきの山に潜んだおおよその位置にあたりをつけ、引き金を引く。
  • 11.
    失敗
    マシューズの弾丸はジューバに届かなかった。逆に腕を撃たれたマシューズは、這ったままアイザックの隠れる壁を目指す。
    だが力及ばず、彼の目の前でマシューズは頭を撃ち抜かれた。
  • 12.
    応答
    壊れた無線機ふたつの部品を組み合わせ、通信が可能だと気付いたアイザック。急ぎ本部司令に連絡すると、奇妙なことに受信は可能でも送信が出来ない。
    更に驚くべきは、なんとジューバが自分の名前を名乗って救助要請を出していることだった。
  • 13.
    決着
    救助ヘリは目前まで迫っているが、これはジューバによる罠に違いない。
    救助部隊到着前に、今度は自身による狙撃でジューバとケリをつけようと狙うアイザック。
    残っていた壁を自ら押し倒し、守る遮蔽物のない状態での狙撃対決を挑む。
  • 14.
    救助
    がれきのジューバに一撃を浴びせ、生き残ったアイザック。迎えのヘリに担ぎ込まれる。
  • 15.
    墜落
    ジューバは生きていた。ヘリの乗組員は残らず狙撃を受け、間もなく墜落することとなった。
    戻らない部隊へバグダッドの本部から連絡が入る。そこへジューバは、「はっきり聞こえる」と応答するのだった。

舞台は「壁」のみ

壁際で砂に伏せるアイザック

全てのシーンは壁の周囲でのみ起こり、アイザックは全編に渡り姿の見えぬ狙撃手、ジューバとの対峙を強いられる。彼は無線チャンネルに割り込み、アイザックとの会話を要求する。
その為一方的に狙撃される恐怖に晒される演出ではなく、顔の見えないスナイパーとの駆け引きも表現されているのが特徴だ。

ジューバは一発で頭を撃てる腕を持ちながら、敢えてアイザックを生かしたと言う。
遠距離射撃でそんな芸当は不可能だと言い放つアイザックだが、その真相は終盤に明らかになる。


移り変わりの無い殺風景に飽きが来そうとも捉えられるが、緊張感とリアリティは秀逸だ。
ジューバの目的や人物像が徐々に浮き彫りになる仕掛けにも目が離せない。

余計な感情を撤廃

戦争を題材にした映画では、副次的な要因として「家族」「友情」「思想」などを扱いやすい。
これらはクライマックスでの感動を引き起こすに親和性が高く、壮大なエンディングを迎えるためのキーとしやすいのだ。


それに比べ、なんと本作の無味無臭なことか。
乾いた砂漠がドンピシャでマッチするような、余計な感情に訴えないシンプルさ。
大仰な思想やメッセージには訴えず、淡々と壁一枚隔てたスナイパーたちを描くのみ。


ただしこれらは悪いこととも言えない。

虚飾され過ぎた感情喚起によって見失わされる本筋。付加価値によって濁される曖昧な善悪観。
泣かせたい、感動させたい」という見え透いた訴求性が滲みまくっている下卑た映画よりも、よほど割り切りが好印象に思える場合もあるだろう。


この作品を観終わって、大きく感動を湧き起こすことも感涙に咽び泣くこともない。
だがこのカラカラに干からびた味気ない無装飾こそが、リアルで真実味のある戦争のワンシーンだと理解した。

ヒーローはいない

倒れ伏し、顔を布で覆うアイザック

司令本部との無線連絡手段を持たないアイザックとマシューズは、イラクの砂漠の中では何の後ろ盾も持たない「弱者」になる。

これがご都合主義のヒーロードラマであれば、恐れず銃弾を掻い潜り、砂漠を駆け抜け、憎い敵の額に銃口を合わせるだろうか

しかし現実はそうはいかない。
彼らには間隙を縫って狙撃手にカウンタースナイプする腕も無ければ、そもそも居場所の特定すら困難だ。一方的にジューバから狙われ、命を手玉に取られる。

戦場で逃げ場の無い空間でスナイパーに狙われるというのは想像を絶するストレスと脅威であり、援護の無い状態で打破するには困難な目標であることが伝わる。
ましてや相手は、一級の狙撃手である。

望みは支援のみ。現実に即したリアリティ志向が窺えた。

アメリカが敗北している

かなり珍しい部分として、反戦やアメリカの傲慢さを描かないシナリオ上で、アメリカが敗北しているストーリーであることが挙がる。

作中では大きなメッセージは用いられず、アイザックとジューバと言う個人間での心情を語り合うにとどまる。
彼らをアメリカ対イラクという図式に落とし込むのは少々無理があり、それよりもパーソナルに近い狙撃対決という、単純明快な対立構造で考える方が無難だろう。


アメリカ主導で作成されるこの手のシナリオでは、完勝とまではいかぬものの、たいてい米軍が一矢報いた形で観客にカタルシスを与えることが多い。これは愛国心の強い国民性に訴える上では、常道と言える構成になる。

だが作中のアイザックとマシューズ及び、救助ヘリの舞台は全くジューバに歯が立たない。
全ての人物は彼の手の上で踊らされているに過ぎず、まさに生殺与奪という言葉こそ相応しいだろう。

シーン自体はよくある砂漠のスナイパー対決という図式であるものの、その過程や結末に関してはかなり異色の采配となった。

ジューバの目的

墜落したヘリを狙うスコープ

最後まで姿の見えない狙撃手として描かれたジューバ。
彼の目的はラストシーンで明らかになったように、

米軍の無線を使い、仲間を少しずつ呼び寄せる



これこそが狙いだ。

先客として無線機を握っていた兵士からも、この救出劇が二回以上は行われていることが窺える。
彼もまた、アイザックと同じく膝を撃たれていたのはなによりの証拠だ。
冒頭の斥候中に、頭を撃たれていなかった兵士は一人と言っていたことからも、恐らくアイザックとマシューズの事件は二回目の出来事になるだろう。

ジューバがアイザックについての人物像を語らせたのは、米軍に対して成りすましをした際、齟齬の無い受け答えが可能なようにだろう。

ラストで墜落したヘリの救援に来る人物たちもまた、同じくジューバの餌食になることは想像に難くない。

評価

緊張感、リアリティ、ジューバの目的。
取り立てて派手なシーンは取り入れられていないが、それが逆に戦場の雰囲気を表現する手段としては良質だった。

アーミー作品好きならばお勧めの一作だろう。

★★★☆☆
三ツ星の良作。
ザ・ウォール(字幕版)
ザ・ウォール(字幕版)

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